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第六章 王子の命令は、正しかった


 王城の会議室は、

 静まり返っていた。


 白い円卓を囲むのは、

 王子アルベルト、

 数名の高官、

 そしてレインたち。


 地図が

 卓上に広げられている。


 赤い印が

 一つ、

 国境近くの村を

 示していた。


「ここだ」


 王子が

 淡々と告げる。


「魔物の大群が

 南から迫っている」


 指先が

 地図をなぞる。


「迎撃は不可能。

 避難にも時間が足りない」


 高官の一人が

 口を開く。


「殿下、

 討伐隊を――」


「無理だ」


 即答だった。


「戦力を割けば、

 王都防衛が

 破綻する」


 会議室に

 重い沈黙が落ちる。


 セリナが

 一歩、

 前に出た。


「……では、

 村はどうなるのですか」


 王子は

 彼女を見た。


 感情のない、

 冷静な視線。


「切り捨てる」


 その言葉は、

 剣よりも

 鋭かった。


 エリナが

 息を呑む。


「そ、

 そんな……

 人が住んでいるんです」


「承知している」


 王子は

 否定しない。


「だが、

 全てを救えない」


 正論だった。


 誰も

 反論できない

 正しさだった。


 レインは

 黙って

 地図を見ていた。


 計算する。


 距離。

 魔物の数。

 移動時間。


 ――勝率は、

 低い。


「Sランク冒険者」


 王子が

 名を呼ぶ。


「君には、

 王都防衛に

 専念してもらう」


 それは

 命令だった。


 レインの中で、

 何かが

 引っかかった。


 第四章の夜。

 倒れたエリナ。


 守れなかった、

 あの感覚。


 セリナが

 唇を噛む。


「殿下」


 声が

 震えていた。


「その村には、

 孤児院があります」


 王子の眉が

 わずかに

 動く。


「……知っている」


「ならば!」


「だからだ」


 王子は

 遮った。


「子どもがいるからこそ、

 国を守らねばならない」


 正しい。

 あまりにも。


 エリナの顔が

 青ざめる。


「……私、

 あの村の

 出身です」


 場が

 凍りついた。


 彼女は

 俯いたまま、

 続ける。


「孤児院で、

 薬師として

 初めて働いた場所です」


 レインは

 拳を

 握り締めた。


 王子は

 一瞬だけ

 目を閉じる。


 そして、

 告げた。


「だからこそ、

 君には

 ここに残れ」


 エリナを

 見据え、

 はっきりと言う。


「感情で

 戦場に立たれては、

 困る」


 それは

 命を守る言葉であり、

 同時に

 人を切り捨てる言葉だった。


 レインは

 理解してしまった。


 ――王子は、

 間違っていない。


 だが。


「……俺が行く」


 低い声が、

 会議室に響く。


 全員が

 彼を見る。


「命令違反だ」


 王子は

 冷静に言った。


「ああ」


 レインは

 認めた。


「だが、

 俺は――

 もう、

 見捨てる判断を

 正解だと

 思えない」


 セリナの目が

 大きく見開かれる。


 エリナは

 涙を堪えて

 彼を見た。


 王子は

 しばらく

 沈黙した後、

 静かに告げる。


「ならば、

 結果で

 示せ」


「失敗すれば、

 責任は

 取ってもらう」


 それは

 許可ではない。


 試験だった。


 レインは

 一礼した。


「覚悟はある」


 会議室を

 出る背中を、

 王子は

 無言で見送る。


 その瞳には、

 期待と警戒が

 同時に宿っていた。


 正しさと、

 人の心が、

 初めて

 真正面から

 衝突しようとしていた。



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