第四章 最強は、守れなかった
その依頼は、
平凡に見えた。
王都近郊の廃村で、
夜ごと現れる魔物を
討伐してほしい。
報酬は低く、
危険度も
せいぜい中級。
「失敗する要素はない」
レインは
そう判断した。
セリナと、
エリナを
同行させても
問題はないと。
それが、
誤りだった。
廃村に着いたのは、
日が落ちる
直前だった。
崩れた家屋。
割れた井戸。
人の気配はない。
「……静かすぎるわ」
セリナが
小さく呟く。
エリナは
胸元の薬草袋を
握り締めていた。
「魔物の種類は?」
「報告では、
影狼」
レインは答える。
影狼とは、
影に溶け込む
夜行性の魔獣だ。
※影狼:暗所で
姿を薄くする魔獣。
戦闘力は低い。
問題は、
数が多いこと。
夜が、
完全に落ちた瞬間。
気配が、
増えた。
「来るわよ!」
セリナの声と同時に、
闇が動く。
レインは
一歩踏み出し、
剣を抜いた。
速い。
正確。
容赦がない。
一匹、
二匹、
三匹。
影狼は
次々と倒れる。
――だが。
「きゃっ!」
背後で、
エリナの声がした。
振り向いた瞬間、
影から伸びた牙が、
彼女の足に
迫っていた。
間に合わない。
判断は一瞬。
レインは
前方の群れを
斬り捨てることを
優先した。
戦術的には、
正解だった。
だが――
エリナは
地面に倒れ、
血を流した。
「……すまない」
初めて、
彼は
その言葉を
口にした。
戦闘は
すぐに終わった。
影狼は
全滅した。
勝利だった。
だが、
空気は
重かった。
「レイン」
セリナが
静かに言う。
「あなた、
間違えたわ」
「……ああ」
否定は
できなかった。
エリナは
軽傷だった。
命に別状はない。
それでも――
彼女は
震えていた。
「私、
あなたなら
守ってくれると
思ってました」
責める声ではない。
それが、
余計に
胸を抉った。
その夜。
焚き火の前で、
レインは
一人座っていた。
剣は、
完璧だった。
判断も、
最適だった。
それでも、
守れなかった。
(俺は……
何を
間違えた)
セリナが
隣に腰を下ろす。
「強さだけじゃ、
人は守れない」
彼女は
そう言ってから、
夜空を見上げた。
「だから私は、
あなたを
育てるって
決めたの」
レインは
黙って
焚き火を見つめる。
その炎が、
初めて
彼の中の何かを
照らしていた。




