第二章 悪役令嬢の教育方針は、剣より難しい
応接室を出た後、
レインはギルドの廊下を
黙って歩いていた。
背後には、
あの令嬢――
セリナ・アルヴェインがいる。
「ねえ、レイン」
呼び止められ、
彼は足を止めた。
「何だ」
「あなた、
私を守る依頼、
受ける気はある?」
「条件次第だ」
即答だった。
断りもしなければ、
迷いもしない。
セリナは
その反応を見て、
小さく笑った。
「やっぱり。
あなた、
自分がどう見られてるか
分かっていないでしょう」
「興味がない」
「そこよ」
ぴしり、と
言葉が飛ぶ。
「そこが、
あなたの最大の欠点」
レインは眉をひそめた。
「戦えれば、
問題はない」
「それは冒険者としての話。
人としては、
問題だらけよ」
セリナは歩み寄り、
彼の正面に立つ。
貴族らしい気品と、
年相応の幼さが
奇妙に同居した顔だった。
「あなた、
感謝された時、
どう返す?」
「……礼は不要だと言う」
「最悪ね」
即断だった。
「それ、
相手の好意を
踏みにじってるのと
同じよ」
レインは
言葉を失った。
理解できない。
だが――
否定もできなかった。
「育成の第一段階」
セリナは指を立てる。
「人の感情を、
否定しないこと」
「意味があるのか」
「あるわ」
彼女は
きっぱりと言った。
「それができないと、
あなたは――
いずれ独りで死ぬ」
その言葉は、
剣よりも
鋭く胸に刺さった。
レインは、
しばらく黙り込んだ後、
低く答えた。
「……具体的に、
何をすればいい」
セリナの唇が、
ゆっくり弧を描く。
「まずは、
街に出るわよ」
「目的は?」
「訓練」
「戦闘か」
「違う」
彼女は、
当然のように告げた。
「会話と、
買い物と、
礼儀作法」
レインは、
本気で嫌そうな顔をした。
その表情を見て、
セリナは満足そうに頷く。
「大丈夫。
私が全部、
教えてあげる」
それはまるで、
剣の握り方を
教えるかのような口調だった。
最強冒険者の育成は、
こうして始まった。
――
戦場ではなく、
人のいる場所で。




