第十章 断罪は、静かに行われる
玉座の間は、
静まり返っていた。
高い天井。
磨かれた床。
その中央に、
レイン、
セリナ、
エリナが
並んで立つ。
鎧は外され、
剣も預けられていた。
――冒険者ではなく、
被告として。
「頭を上げよ」
国王の声は、
老いてなお
重い。
三人は
顔を上げた。
王の隣には、
王子が立っている。
無表情。
だが、
視線は
鋭かった。
その後方、
ギルド長が
腕を組んで
控えている。
「Sランク冒険者
レイン」
「命令違反、
無断出立」
「そして、
私的戦闘行為」
国王は
淡々と
告げる。
「事実か」
「事実です」
レインは
即答した。
言い訳は
しない。
セリナが
一歩前に出る。
「罪は、
私にあります」
「王家予算の
不正流用」
「すべて、
私の判断です」
貴族たちが
ざわめく。
悪役令嬢。
その名に
相応しい告白。
王子が
口を開いた。
「それでも、
結果として
村は救われた」
「功を
考慮すべきでは
ありませんか」
その言葉に、
エリナが
息を呑む。
――救われた。
だが、
その裏で
傷ついた者が
いる。
レインは
前に出た。
「功は、
俺のものではない」
王子の視線が
向く。
「選択を
誤った」
「守れるはずの
仲間を、
傷つけた」
エリナは
思わず
彼を見る。
レインは
続けた。
「それを
成果で
塗り潰すなら」
「俺は、
また
間違える」
沈黙。
国王は
ゆっくりと
目を閉じ、
開いた。
「……よい」
「ならば、
裁きを
下そう」
全員が
息を止める。
「セリナ・
ヴァルクレア」
「王家予算流用の罪」
「爵位剥奪」
ざわめきが
広がる。
「そして、
王都追放」
セリナは
微笑んだ。
「妥当ですわ」
「レイン」
「Sランクの称号、
一時停止」
「王都出入り禁止、
一年間」
重い処分。
だが、
処刑ではない。
「エリナ」
国王は
彼女を見た。
「罪はない」
だが、
言葉は
そこで終わらない。
「しかし、
現場判断の
未熟さは
否めぬ」
「よって、
王立医療院での
再教育を
命じる」
エリナは
深く
頭を下げた。
「……はい」
国王は
玉座に
背を預ける。
「これは、
罰であり、
猶予だ」
「力ある者が、
正しさを
誤らぬための」
王子が
一歩
踏み出す。
「父上」
だが、
国王は
首を振った。
「王子よ」
「お前も、
今日の裁きを
見届けた」
「切り捨てる
正しさと」
「背負う
正しさの
違いを」
王子は
唇を
噛みしめ、
黙礼した。
断罪は、
終わった。
誰も
勝者ではない。
ただ、
選択の
重さだけが
残った。
玉座の間を
出る時、
エリナが
小さく言う。
「……それでも」
「私は、
立てました」
レインは
頷いた。
「ああ」
「だから、
次は
間違えない」
王都の空は、
曇っていた。
だが、
確かに
前より
遠くが
見えていた。




