第7話 道中
俺たちはレイルからアラストロへ出発した。
レイルの街からアラストロまでは30キロぐらいだから、1日10キロペースでも3日で着く。
道はちゃんとあるし、途中に高い山などはない。強いて言えば、3キロぐらい森があることぐらいだな。そこには魔物もいるらしいが、そんなに強くないし、まあ大丈夫だろう。
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日が暮れ始めた。
「今日はここらへんで野宿するか。」
そう言い、俺たちは、道端に腰を下ろした。
「どのぐらい歩いたかな?」
「そうだな、7キロぐらいだろう。」
今日は出発したのが昼頃だったので、あまり進むことはできなかった。だが、魔物と出会わなかったので、スムーズには進めた。
「なあガイエル、ここらへんの魔物って弱いのか?」
「そうだな…レイルの周辺は弱いが、魔術都市アラストロの周辺は結構強いらしいぞ。強い魔物に対抗するために魔術都市をおき、魔法を研究したらしいからな。」
「ふーん、ガイエルって色々知ってんだな。」
「まあこう見えても本は昔からよく読んでいたからな。」
意外だ。ギャップ萌えってやつなんだろうか。いや、萌えはしないが。
それにしても、腹が減ったな。
「そういえば、俺は飯を何も持ってきてないけど、お前らは何か持ってる?」
「私は持ってない。」
「俺も持っていない。」
「え?じゃあ今日は飯抜き?」
「いや、その心配はない。ここらへんには弱い魔物がいるからな。そいつらを食えばいい。味は保証できんが。」
美味しくない可能性はあるのか。
まあ飯を持ってこなかったのが悪いんだし、しょうがないか。
「よし、真っ暗になる前にそいつらを狩りに行くか。」
そうして、俺達は夜になる前に魔物を狩りに行くことにした。
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近くの森で魔物を探し始めて1時間ほど経っただろうか。
「全然いねえなあ。」
俺がやや諦めていると、
「ショータ、ちょっと待って。」
エレアが小声でいった。
「どうかしたのか?」
「あそこに何かいる。」
そう言われ、エレアが見ている方向を見てみると、緑色の二足歩行のクマがいた。
緑色だから擬態していて気づかなかったのかもしれない。
「なあガイエル、どうする?」
こういうとき、ガイエルの意見は結構信用できる。頼もしいおっさんだ。いや、まだ19だっけか。
「そうだな、クマは力が強いから、俺達を攻撃させないようにすればいいのではないか?」
「というと?」
「幻惑魔術などを使えばよい。俺は魔術はさっぱりだからお前たちのどちらかが撃ってくれ。」
そうか。幻惑魔術を使えば魔物も足止めできるからな。
ちなみに、幻惑魔術は、標的にしか見えない幻を作り出し、そいつを惑わす某RPGの呪文ようなもの、高度なものだと標的を操るようなものもあるらしい。
「よし、俺がうつぞ。」
「うむ、頼んだ。」
とりあえず、あのクマには下位魔術でいいだろう。
俺は小さな声で詠唱を始めた。
「⋯愚かなるかの者をわが幻で戦慄させん
フルゴーレ」
俺が幻惑系統の下位魔術フルゴーレをクマに向かって放ち、しばらくすると、
「うむ、効いたようだな。」
クマが周りを見てグルルル…と唸りながら怯え始めた。
「よし、とりあえず足止めはできたぞ。どうやって仕留める?」
「俺があのクマを斬る。戦士で前衛の俺が魔術師の後ろにいて何もしないわけには行かないからな。」
「ガイエルってなんか言動がかっこいいな。なあ、エレアもそう思うだろ?」
「うん、私も仲間としてだけどかっこいいと思う。」
俺は男が好きなのではないが、仲間としてかっこいいと思える。
「ふん、誉めても何も出んぞ。」
ガイエルはそうは言ったものの、満更でもない口調だった。
「無駄話は後ででいい。よし、行くぞ。」
そう言い、ガイエルは剣を構え、クマの方へ走っていき、
幻惑魔術にかかり、怯えるクマに、思いっきり剣を振りかぶり、
「ふんっ!」
グワァッと大きな声をあげて、クマが倒れた。ガイエルは一発で仕留めた。やはり、ガイエルは大分強いのだろう。
「うむ、終わったぞ。では肉と、一応皮も回収しておけ。何かに使えるかもだからな。」
俺たちは、ガイエルのテキパキとした指示の通りに、旅の前にレイルで買っておいたナイフでクマの皮と肉を解体し、さっきの道沿いの休憩場所へと戻った。
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「ふぅ〜、食った食った。」
あのクマはあまり美味しくなかったが、何も他に食べるものはないので、焚き火で焼いてたくさん食べた。
「なるべく明日にはアラストロに着きたいし、さっさと寝ておくか。」
そう言い、俺達は、さっきのクマの毛皮を敷布団にして寝た。
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(臭っせえ…)
クマの皮が敷布団だったので匂いがきつく、寝返りをうった時に起きてしまった。
「うん?」
一枚のクマの毛皮を敷布団にしていたので、3人で横一列になって寝ていたのだが、エレアはすやすやと寝ていたのに、ガイエルがいなかった。
起きあがって周りを見渡すと、ガイエルは焚き火の傍に座って焚き火を見つめていた。
「⋯まだ起きてたんだな。眠れないのか?」
「む?いや、ただ考え事をしていただけだ。」
ガイエルはまだ俺達の仲間になって1日目だからな。何か思うところがあるのかもしれない。そんなことを思っていると、
「…今朝だったか、俺の親父がヴァルキュール草原に住んでいてグレートリザード討伐の依頼主だという話はしたよな?」
「ああ、していたな。でも、それがどうかしたのか?」
俺がそう聞くと、ガイエルは顔に似合わないポツリと呟くような小声で言った。
「あの親父は、本当の親ではない。」
「そうだったのか?」
「ああ、俺が物心つく前だったのだろう。覚えていないが、俺は本当の親に捨てられたらしい。理由はわからんがな。そんな俺をあの親父は引き取ってくれた。」
「お前もだったんだな。」
「お前も、とはどういうことだ?」
「エレアも親に捨てられたらしいぜ。で、あいつが裏路地で倒れているところを俺が見つけて今に至るってわけだな。」
「そうか、お前は優しいんだな。」
「俺は仲間がどんな事情だろうが、信頼できると思った仲間は信じるし、内情なんてどうでもいい。」
ちょっとキザっぽい言い方になってしまったが、それは本心だ。前世ではそんな事考えもしなかったが、この世界ではそういう事情を抱えたやつが沢山いるし、この世界にきてそこまで経ったわけではないが、俺は大分変わったようだ。
「フッ、ありがとう。俺は少しショータのことがしれた気がする。」
「俺もガイエルのことが少しわかったよ。ありがとな。」
初めてギルドであった時にはムカついたが、こうやって仲間になって腹を割って話してみると、ガイエルはいい奴だと思えてくる。
「俺はもう寝る。ショータももう寝ておけ。」
ガイエルはさっきより少し柔らかい口調でそう言った。
俺は何か少し達成感のようなものを感じながら眠りについた。
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次の日の夕方頃、俺たちは、魔術都市アラストロに到着した。