第0話 もしかして、ここは?
(あぁ、腹減ったし、そろそろ帰るか…)
ごく普通の高校3年生で18歳の中谷翔太は、学校から家に帰ってゲームをしていたが、飽きてきたので家の近くを散歩していた。
商店街を歩いていると、いい匂いが漂ってくる。最近の晩御飯は、冷蔵庫の残り物ばかりなので飽きてきたが、かといって、家に帰らないこともなく、出かけても晩御飯までには家に帰っていた。今日も、晩御飯の時間なので、家への帰ろうとしていた。
駅に近い商店街なので、帰宅ラッシュの時間帯は人が多い。
(今日の晩飯は久しぶりに豪華なものがいいなぁ)
そんな事をボンヤリと考えながら歩いていると、前の方から、
「キャー!!」
と声が聞こえてきた。しかし、人が多いので、何が起こっているのかわからない。
何か起こっているのか?などと考えながら歩いていると、
ドンッ!
急に前の方から走ってきた黒いパーカーを着た男とぶつかった。
「あ、すみませ………え?」
咄嗟に謝ろうとしたら、急にお腹に激痛が走った。
「え?あ…うっ、うああぁ!!!!」
激痛が走っているお腹を見てみると、そこには包丁が刺さっていた。
さっきの男に、ぶつかられたときに、刺されたのだろう。
となると、前の方から聞こえた叫び声も、誰かがその男に刺されたからなのだろう。
さっき、男の顔が少し見えたが、知らない顔だ。
つまり、俺は、通り魔に刺されたのだ。
(どうしようどうしよう…)
考えたが、体は動かない。そして、だんだん体に力が入らなくなり、ドサッと地面に倒れた。
(ゴボッ…ガハッ!!ハァッ、ハァッ…)
腹から血がだくだくと流れ、口から血反吐を吐いた。
俺の周りに人が集まり、救急車を呼ぶ人がいる。俺に大丈夫か!?と問いかけている人もいるが、答える気力はない。
(あぁ、俺は死ぬのか。)
頭にそう浮かんだ。
まだ若く、病気にもあまりかからなかったので、死ぬことについてなど考えたこともなかった。
だが、腹に激痛が走り、意識が少しずつ遠のいていく今は分かる。死ぬことは怖いのだ。
(俺、どうなるのかな、死ぬ前に彼女は作りたかったな。)
俺は彼女を作ったことがないので、最初に頭に浮かんだのはそれだった。
そんな事を考えているうちに、まぶたが重くなり、視界が真っ暗になった。
意識もなくなっていった。
(うん?)
俺は死んだ。さっき死んだはずなのに、意識がある。
周りは真っ暗だ。
(どこだここは?)
そんな事を考えていると、周りが少しずつ明るくなっていった。
そして、いつの間にか俺の前に、法衣のようなものを身につけた知らない爺さん微笑みながらが立っていた。
「あんたは誰だ?」
そう聞いた。
「わしか?わしはアルシュタインという者だ。まあ、いわば神様じゃな。」
「かみ…さま?」
「そうじゃ。」
どうやら俺の目の前にいるのは神様らしい。
アルシュタインって名前なのか…外国の神様かな?
俺は神様を信用していなかったが、まさか本当にいるとはな。でも、なぜ俺のところに神様がいるのだろうか。
「なんで、神様が俺のところに?」
そう聞いた。
「お主、まだ若いのに通り魔に殺されたであろう?わしは、若くして死んだ者を別の世界に転移させることができるのじゃ。まあ、いわば異世界転生というものじゃな。」
「異世界転生?」
思ってもいなかった理由が返ってきた。
(生前、ラノベや漫画で見たことはあったが、まさか現実に異世界召喚が実在するとは…)
そう俺があっけにとられていると、
「まあ無理に異世界に行かんでもよい。天国に行くという手もある。異世界に行くか、天国に行くか。おぬしの好きに選ぶがよい。」
(そうか…天国に行くという選択肢もあるのか。でも、俺全然人生満喫してないしな、彼女も作ったことないし、うん、俺は彼女が欲しい。よし決めた!)
「俺は異世界に行きたいです。」
「うむ、わかった。では、わしが送ってやろう」
そう言うと、アルシュタインは微笑み、片手を上に掲げ、
「汝に再度、人生を歩ません」
そう唱えると、アルシュタインは微笑みながら消えた。
そして、また周囲が暗くなり、俺の周りが黄色く光った。
その直後、俺の意識が吸い取られるような感覚がした。
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「…い、おい、大丈夫か?」
「…うん?」
気づくと、俺は見知らぬところに立っていた。
「お前、大丈夫か?」
そして、見知らぬガタイのいいおっさんに声をかけられていた。
「あぁ、大丈夫だ。」
そう答えると、
「ほんとに大丈夫か?まあ気をつけろよ」
そう言い、おっさんは去っていった。
(ここは?)
どうやら異世界に来たらしい。顔や肉体、記憶は持ち越されるようだな。
そんな事を考えながら、周りを見渡してみると、
(おお、すげぇ…)
周りには、アニメや漫画で見たような異世界が広がっていた。