Loss of 主人公の立場
あのあと俺らはステータスと冒険者ランクを書かれたカードをもらった。
俺がストーン級スタートなのに対してフロスさんはメタルスタート。
階級は下から、「ノーマル」「ストーン」「メタル」「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」。
「...」
ありがちな異世界系と話が違いすぎていてピキってしまう。
あーあどうせフロスは破龍の力を手にすることができたら一気にゴールド級くらいまで強くなるんだろうなぁ。
だって龍の力、全部吸収したら神くらい強いんでしょ?
なぁにこれ。
俺じゃなくてフロスが俺TUEEEEEじゃん。
…
フロスは眉毛をハの字にして、俺がなぜ意気消沈しているのか
疑問の瞳を向けてくる。
「...」
俺は答える。
「...あぁ...フロス...俺、今アイデンティティ漂白中だから。」
なでなで
フロスが頭をなでてくる。
慰め...ているのだろうか...
今の俺にはさらに心の傷が深まるだけだったぁ...
───────
俺達が受注したのは、森でアンデッドの討伐。討伐数は無制限。その代わり討伐の証を持って来いとのこと。
おすすめは...耳か親指らしい。
うん。キモすぎ。
それを変わらないニコニコ顔でふっつうに言ってきた受付嬢さんは少し怖かった。
…この前の受付嬢さんはちゃんと引いてたのに。
こういう職業は
倫理観が欠如してしまうのだろうか。
「怖い。」
震え上がる俺。
────ガァァァァアアアアアア!!
「っ!!」
「ん。」
不意に横からアンデッドが飛び出してきた。
相手の数は一体のみ。
ふっ、初めての戦闘。
俺は右手に持った得物に力を込めて握り込んだ。
ちなみにナイフは武器を持ってないと受付に言ったらもらえた。
ドクっと脈を打つ。
武者震い的なものだろうか。
ナイフをかまえ、俺は走りだs
─────ドシャっ
ゑ?
え?
絵?
ヱ?
柄?
目の前のアンデッドの頭が急に潰れた。
…
後ろを振り向く。
そこには何かを投擲したあとと予測できるポーズをしたフロスの姿があった。
「いや、あの、フロスさん?」
「俺がナイフでかっこよく決めるところだったよね?」
「...?」
よくわかってなさそうな表情をする。
「いやぁ、あのさ」
グァァァァアアアアアアア!!!
またアンデッドの声!!
「フロス、次は邪魔するなよっ!」
また現れたアンデッドにナイフの刃を向ける。そして、
構える。
俺は走り、
「はぁっ!!」
全力でナイフを振り抜いた。
グォォォオオオオオオ!!!
アンデッドは叫び
胴体に斜めの線が入り、血が噴き出る。しかし、
それはまだ生きている。
「...っ!?」
アンデッドは手を振り上げ、俺に振り下ろした。
なんという戦闘の高揚感っ
ブォッ
────ガギンッ
俺は敵から繰り出される爪の攻撃をナイフで受け、身体を滑らせるように相手の懐に入り込む。
「はぁぁっ!!せいっ!!」
そしてそのまま背後に回り込み、相手の頭を掴んで首にナイフを突き刺し、全力で引き抜いた。
────ブシュ ブシュァァァァァァ
その場に赤色の噴水ができる。
血しぶきは上に向けて噴出し重力を受けつつ虹を形成した。
こんな最悪な虹は初めてだ。
アンデッドはその場に倒れ込み、骸となった。
「はぁっ...はぁっ...」
所詮は一体。されど一体。今の戦いは俺にとって大きな一歩だっただろう。
突然俺の周りが少し淡い色に光る。
きっとレベルアップだろう。
俺はその場で自分の冒険カードを確認する。すると俺のレベルは3になっていてステータスが向上していた。
「っよしっ次だ。」
と言った瞬間。
ドォォォォォン
!?なんだ。
音のした方を見る。
そこには次々と石を投げ、アンデッドをヘッドショットしていくフロスがいる。
ドォォォォ、グシャ、ドォォォォ、グシャ。
「『次』、はじゃましてない。」
フロスは言う。確かに「次」は邪魔してない。でもあんな全力で戦った後で紙を裂くようにポンポン倒されてもな。
俺、ナンバーワンを譲ったサイヤ人の王子と上弦の壱の気持ちがよくわかったわ。
その後。
ここら周辺のアンデッドはフロスの手によって狩り尽くされ、俺は耳と親指を服のポケットにたくさん詰め込まれ、発狂。
おまけにネクロマンサー(ボス)みたいなやつが出てきたと思ったら、
石の投擲でワンパン。
初めてのボス戦、二秒で終了。
…
「クソがぁぁぁぁああああああ!!!」
羽村宗助氏、魂の咆哮が出てしまう。