物語の始まり、そしてはじめの拠点。
本質という単語があることを知っているだろうか。
そう。物事の本来の姿という意味である。
次に世の中(まあここ日本じゃないけど)にはこんな言葉がある。「木を見て森を見ず。」
これは近くで物事を見て全体を見落としてしまうという意味だ。
しかしこれは逆も言えるのではないか。
全体の美しさに気を取られて細かな部分や変化に気付けない。
スープやラーメンといった吸い物系の食べ物を食べるとき、具に注目しすぎることも
スープに目を向けすぎることも愚行なのか。
ちなみに本質の対義語は「現象」。いわばパッと見の話である。
まあここまでこんな長文を書いているが、何が言いたいかというと、
「夢の見過ぎは現実に戻れなくなるということである。」
「...?」
あ、俺の独り言にキョトンとしてるフロスかわいい。
「なぁんかこの村外から見たときよりも中は寂れてるし」
「門番のヤツもやる気なさそうだったし」
「本当に大丈夫か?ここ」
俺はさっき「おおっ」と声が出てしまうほどファンタジーの村に興奮していた。
しかしいざ来てみれば、
近くで見るとあんまきれいじゃない家、その辺は枯葉ばっか、住民はよそ者と思っているのか嫌な視線で俺等を睨む。
いやまあ目的もなしに情報収集のためだけにそのへんの村に行こうと思った俺も俺だけどさ。
まさしく、今の俺は「森を見て木々を見ず。」
とりあえず冒険者協会とか集会所的な場所あったら行きたいかもな。
というかこの世界なんか雰囲気がファンタジーっ!というよりもダークファンタジー...
って感じなんですけど。(n回目)
「フロスはここ来るの初めてなのか?」
フルフル
フロスは首を横に振った。
てことは来たこと自体はあったのか。(でも回数自体は少なそうである。なにせこの辺について彼女はあんまり知らないようだからな。)
「ん。」
フロスは今度は右手で少し大きな建物を指さした。
「いく。」
なんかあたかも冒険者の集会所とかいう雰囲気である。
この世界について何も知らない俺にとっては丁度が良すぎる。
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俺達は中に入った。
中はたくさんの人が賑わっていて騒がしい。いやぁ。楽しそうである
なにせうまそうな飯、たっぷりと注がれた酒、依頼が多く貼られている掲示板、可愛らしい受付嬢。
ゲームでしかみたことねぇ。
とりあえずここで俺はいろんな情報を入手してみようと思う。
「フロスはココに来たってことはなにか目的があってきたんだろ?」
「まずそれを済ませよう。」
「...」
スタスタ。
彼女は依頼カウンターに向けて歩き出す。
依頼を受けていたのか。
「こんにちは、依頼受付へようこそっ」
「依頼の完了ですか?それとも新規依頼の受t」
───ゴトッ
フロスはいきなり机上に懐からとりだした...なにか、直視したくはない...肉塊...?
が出てきた。
っ...。
なんだこいつなんでこんな異臭を放つグロテスクで近寄ることさえ耐え難いものを自らの服の内ポケットにしまえるのであろうか。
「これ、のうひん。」
「え、ええ...分かり...ました...」
「この村から南西にある森でのアンデッド3体の討伐、お疲れ様でした。...」
受付嬢の人がかなり引いている。というか俺もちょっと引いている。
あの石の投擲といい、この倫理観といい、なんか...抜けている。
というより飛んでいる?
「こちら、報酬金及び依頼主からの謝礼品です。」
フロスに金貨2枚、銀貨5枚、銅貨10枚それと魔力の詰まった聖水。
聖水とか依頼を受注するときに渡すべきでは...?
と思ったがあえて黙っていた。
「おかねっ...」
目をキラキラと輝かせながらフロスがもらった金を眺めている。
俺も依頼を受けようか、金の収入源はあったほうが良い。
「俺も依頼受けて」
みよう。と言いかけたときフロスが俺の服の裾をひっぱった。
「ごはん、たべよ。」
「俺は金持ってないし、何も食えないと思うけど...」
「おかね、ある。」
「一緒に、食べよ?」
え?何この子かわいい。お人形さんみたい。いやかわいいんだけどかわいい。語彙力が消滅するくらいかわいいんだけど、脳みそが思わず放置したアイスの様にとろけてしまう。
まあかわいいからなんでもいいか。(結論)
フロス...無口かわいい。