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2.みんながらぶりを待っている

らぶりたちが野球場に着いてみれば、そこではすでに練習試合をこれから行う両チームのメンバーが勢揃いしていた。

なんて、のんきに状況を観察している場合ではなく、準備もほとんど終わっていて今にも試合を始められそうだ。


「もう、やっぱり遅刻になったじゃない!」


「大丈夫、大丈夫。心配ないって」


傍目からすればらぶりの怒りはもっともなのだが、文珠はそんなもの気にする必要ないと笑って制するのだった。

その余裕ぶりが、彼をよく知る彼女には疑問だった。「他人に迷惑をかけて、悪いと思わない奴じゃないでしょ?」と。


「な、なにその自信。ちょっと怖いんだけど?」


「自信って大げさだな。単に、遅れてくるって事前に許可をとってただけだよ」


「ええー、なんでそんな許可とってるのよ? 何の意味があるわけ?」


これもまた、浮かべるらぶりの疑問はもっともだ。

特に用事があるわけでもないのにわざわざ遅れてくる許可を取ってくるなんて、どんな思惑があってのことだと困惑しないものは居ないのではないかな?


しかし、このらぶりの困惑こそが文珠にとっては思惑通りの展開みたいだ。

ニヤリと、悪い笑顔を作っているのはそういうことのように見える。


「おはよう! 桜井と前田。予定通りだな」


そう、元気よく二人に挨拶をしてきたのは、二人が通う月宮高校の野球部でキャプテンをしている『車田 圭人』だ。


「車田キャプテン! 私とこいつが遅れてきて予定通りって、何を考えてるんですか?」


170㎝のらぶりより少し小さい車田キャプテンは、彼女の上から剣幕バクハツ抗議に圧倒されてタジタジだ。


らぶりも普段は年上にこんな乱暴な態度はとらないのだが、不穏で不敵に笑う文珠の怪しい雰囲気や、遅れてきたのに予定通りだという不可解な話に嫌な予感を覚え、余裕がなかった。


そして、その予感とやらは当たっていた。


「おいおい、らぶり。そんなキャプテンを責めてどうする? もう、試合が始まるんだぞ? 準備しなきゃ相手さんの光徳明倫高校に迷惑なんだよなあ。て、ことでこれにさっさと着替えてくれ」


「えっ……、なんでマネージャーの私がユニフォームに着替えなくちゃいけないの? 高校野球は今年からそんなルールになったの?」


らぶりの疑問も当然だった。去年のまでの服装規則では記録員(マネージャー)の服装は制服に帽子となっていたはずだからだ。

だからこそ、この怪訝な話には裏があり――――


「それは知らん。けど、らぶりは今日の試合でキャッチャーとして出るから、まあ関係ない話だよ」


「え、えーーーーーーー!」


――――らぶりの驚愕を引き出した。かわいそうなことに。


「あ、あんた何言ってんのよ? よわよわな女子の私が高校野球でキャッチャーなんてできるわけないでしょう――――!」


「はっはっ、自分でよわよわは笑う。中学じゃ、僕の球を取っていただろ。それに、肉体の些細な違いなんて大したことないと言っていたのはらぶりじゃん」


なるほど、確かにらぶりは試合へと担ぎ出されることに愚痴っていた文珠へ『身長なんて些細なこと~』とは言っていた。しかし―――


「男女の肉体差が、些細なことか――――!」


この心からの叫びは確かにその通りなのだが、もはやそんなことを言っている場合ではなかった。


「そんなこと言われてもな、キャッチャーが居ないと試合始まらないぜ。皆がらぶりをまっている」


ニヤリと笑顔を作った文珠をみて、らぶりは理解したのだ。


わざと遅れてきたのは練習試合開始まで時間がない状況にして、取れる手段を潰し彼女がキャッチャーをやるしか無くさせるためだと。


「は、ハメられた――――!」


可哀想な少女の声が木霊したのは、本日早くも3回目だった。


まあ、最初に文珠をハメようとしたのは彼女なのだから、これも自業自得というやつだ。

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