鈍過ぎる婚約者を持つと大変です
「君さぁ、いい加減にしなよ。ストーカーだよ、ストーカー」
「だって王太子殿下のお顔がいいんだもん!いつまででも見ていたい!」
「その内不敬罪とか言われかねないと思うけど」
「はうっ」
「自覚はあるようだね」
公爵家の嫡男フレデリクは、王太子殿下(女性)の熱烈なファンである婚約者エリアーヌに呆れた目を向けた。が、エリアーヌは気にも留めない。
「王太子殿下はそこらの男より男らしくて、でも時折見せる女性らしさがまた魅力的なの!」
「はいはい」
「文武両道で、剣や武術や教養でも男にも負けない!見た目も良い!男装の麗人最高!それなのに花を愛で、可愛いものが好きで、とっても良い!まさに理想の〝王子様〟!」
「わかったわかった」
フレデリクは熱く思いを語るエリアーヌを軽くあしらう。
「もう、なによー!ちゃんと聞いてよ!」
「好きな女が他の人にきゃーきゃー言ってるの、聞きたくない」
「…え?好きな女?…誰!?」
フレデリクはエリアーヌの鈍さにとうとうキレた。
「…お前、本当にバカだよね」
「え?フレデリク、なにしてるの?」
「好きな女を押し倒してるの」
いわゆる床ドン状態である。
「好きな女を…え!?」
「お前本当にバカ。鈍過ぎ。バカ」
「え?え!え、ごめん!」
「素直かよ。…え?変な意味でのごめんじゃないよね?鈍過ぎてごめんなさいだよね?僕を捨てる気じゃないよね?」
「違う違う違う、鈍過ぎてごめん!婚約も続けるし結婚するから変な誤解しないで!」
お互いだいぶ困惑する二人。
「えーっと、いつから好きになってくれてたの?」
「そんなの覚えてない」
「え」
「気が付いたらいつも隣にお前がいて、気が付いたらいつのまにかお前が好きだった。もしかしたら、会った時から好きなのかもな」
フレデリクの真っ直ぐな言葉にエリアーヌは不覚にもときめいた。
「なによ、そんな急に…しかもなんか、かっこいいじゃない」
「そう?お前のかっこいいの基準、おかしいよな」
「そんなことないもん!けどさ」
「ん?」
「私、フレデリクが婚約者で良かった」
調子の良いことを言うエリアーヌに、フレデリクは顔を真っ赤にして目をそらす。
「…こういう時ばかり可愛いこと言いやがって」
「えへへ。大好きだよ、フレデリク」
「僕だってエリアーヌを愛してるよ、バーカ」
この二人が将来おしどり夫婦として有名になるのは、今はまだ誰も知らない。