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赤と黄色の小憎いバーガー

 明日は火曜。あれからまた一週間が経とうとしている。明日も笹川さんと一緒にご飯が食べるのか、と、ウキウキしながら、自宅で1人、テレビのバラエティ番組をぼんやり眺めていた。


 すると、笹川さんからLINEが入った(前回、帰り際にLINEを交換したのだ。「最近の若い子はインスタの交換が先なのかな?」と聞いたら、「そうでもないと思いますけど」とキョトンとされた。)


「課長、みてください。たいへんです!」

 文章とともに、インスタのストーリー画面のスクショが送られてきた。アカウントはいつもの俺たちが行く定食屋。そこには、大きく「臨時休業」の文字が踊っていた。

「店主が腰を痛めたため、暫くの間休業」とのことだった。

 な、何!?火曜日の楽しみが!?


 俺があっけにとられていると、笹川さんからまたメッセージが来た。

「明日のランチどうしましょうか…?」

 俺はうーんと考えて、「どこか別の所に行こうよ!何か食べたいものとかない?」と提案してみた。せっかく、笹川くんと仲良くなれたのだ。このままランチ同盟が終わるのは寂しすぎる。

 そこで、俺はさらに考えて

「どんまい会ってことで、奢るよ」

と付け加えて送った。すると、すぐに

「良いんですか!?ありがとうございます!」

と、喜びのスタンプとともに返事が来た。

「実は食べたいものがあって」

と、店名が送られてきた。それを見て俺は思わず、え?、と、声を出してしまった。



「良いのか?本当にここで。」

「良いんです。っていうか、ここが、良いんです!」

 笹川さんが出してきた店名は、誰もが知る、赤と黄色のハンバーガーショップだった。久しぶりに来たなあ。

「……期間限定メニューが食べたかったんですけど、ハンバーガーの口では無かったでしょうか?そうでしたら別の店に変更します。」

「い、いや!ここにしよう!いやあ、久しぶりにハンバーガーを食べるからワクワクしちゃってなあ!!あはは!」

 部下に気を使わせてしまったぞ、危ない危ない!と、俺はいつもより高いテンションで答えてしまった。面目ない。

 そんな俺の気持ちを見透かしたのか、笹川さんは何とも言えない笑みを浮かべていた。



 店に着いた後、俺たちはそれぞれタッチパネルで(まさか直接店員に注文しなくても良いシステムになっているとは)注文し、店内の席に着いた。

 俺が待っていると、笹川さんはトレイに大量のフードを乗せて現れた。かくいう俺も、普段よりはたくさん買ったのだが。

「おお……随分と大量だなあ!」

「つい張り切ってしまいまして。」

 笹川さんは恥ずかしそうにしていたが、幸福さが漏れ出た表情をしていた。「それで、何を注文されたんですか?」

 笹川さんに尋ねられて、俺はトレイの上のハンバーガーセットを見せた。俺が注文したのは、肉が多めに入っているバーガーとポテト、それからコーラのシンプルなセットだ。

「おお!王道で攻められたんですね!」

「まあ、他のメニューがよく分からないけど、これならハズレがないだろうと思ってね。」

 迷った時は王道メニューやおすすめメニューをたのむ、というのが俺の中での鉄則だ。

「笹川さんは何を注文したんだい?」

「僕はですね……まずは今回のお目当てである、期間限定のハンバーガーセットです!お肉と卵とチーズが挟まった春の定番商品です!」

「おお……!そういえば、CMでみたことがあるな!」

「そして、セットで頼んだサイドはポテトで、さらに追加でナゲットも買いました!」

「ああ〜ナゲットか!いいねえ、ナゲットも迷ったんだよな。」

「ですよね?せっかくなので一緒に食べませんか?ソースも2種類買ってきたのて、食べ比べましょう!」

「さすが笹川さん!……って、おや?他にも何か持ってるみたいだけど……?」

 トレイの上にまだ何があるのを見つけて尋ねてみると、

「ああ、こっちはデザートです。後でのお楽しみですよ!」

と、はぐらかされてしまった。

「さあ、というわけで……!」

「いただきます!」

 俺たちは各々のハンバーガーにかぶりついた。

ガブリ。ふわり。じゅわり。

 バンズのふわふわ感のあとに、他の具材の味が一気に口の中に広がった。レタス。チーズ。そして肉。どれもしっかり自己主張しつつ、それでいて邪魔しあっていない。むしろ互いを引き立て合っている。ああ。

「ハンバーガーは何て完璧なチームなんだ!」

 俺は思わず口に出してしまった。やばい。変なことを言ってしまったか。

「分かります。ハンバーガーの具材って単体でも美味しいですけど、口の中で完成する芸術って感じがしますよね。」

 良かった、理解してもらえた。むしろ、笹川さんの方が目をキラキラと輝かせている。

「いやあ、このパテもしっかりと美味しいなあ。肉がしっかり詰まっているよ!」

「ファストフードでもきちんと美味しいですよね!……じゃあ僕の方も、早速いただきます!」

 笹川さんは俺もびっくりするほど大きく口を開けて、思いっきりバーガーにかぶりついた。

 ガブリ。ふわり。とろじゅわ。

「あ〜!バーガーと卵、合わないはずがない!卵の柔らかくてしっかりした味がバーガー全体を引き立てます!」

 俺は笹川さんの発言に頷きながら、次の一口を食べた。ガブリ。じゅわり。

うんうん。この肉の味。このいかにもジャンクフードって感じの最高な味。笹川くんにここに来たいって言われた時は驚いたけど、俺の口はこの味をずっと欲していた、ような気がしてくる。

次にその場にあったポテトも数本取ってかじった。

カリッ。ああ、やっぱりここのポテトは絶品だな。

そしてドリンクのコーラを吸い込んだ。ジューッ。パチパチ。

今、俺の口の中で、完全なるハンバーガーセットが完成している。

何だか懐かしい味だな。小さい頃も、時折母親に連れて来てもらってたな。あの時は弟と一緒におまけのおもちゃで一緒に遊んだっけ。

笹川さんをちらりと見ると、目をつむってバーガーを味わいながら食べていた。

俺が見ていることに気がつくと、ハッとした顔をして、

「こっちのナゲットもぜひ一緒に召し上がってください!」

と、笹川くんのナゲットをすすめてくれた。

「ああ……!ありがとう!」

 少し戸惑いながらも笹川さんの誘いを受けた。

ナゲットか。これも本当に久しぶりだなあ。俺は適当に近くにあった方のソースをつけて食べた。

じゅわり。

見た目は本当にジャンキーなナゲットだけど、食べてみるとちゃんと肉の味がする!

「うまっ!……あれ、こんなに美味しかったっけ?」

「こっちのソースも美味しいですよ、是非是非!」

「……おお、また別の味も楽しいな!」

 ソースを変えるだけで表情をガラリと変えてくる。何と楽しいことよ!

 そうして、バーガー、ポテト、そして時々ナゲットを順番に食べていると、あっという間にトレイの上は空になってしまった。

「一瞬で食べ終えてしまった……。」

「それでは、ここらへんでデザートと洒落込みましょうか?」

 そう言うと、笹川くんは手元の包みを開けた。

「おお……ミニパンケーキか!懐かしいなあ!」

「そしてこちらはフロートです!」

「フロート!」

 実は、笹川くんがポテトを少し残しつつデザートに移行したことが気になっていたのだが、まさか、

「まさか、あれを、やるのかい?」

「……はい、あれをやります!」

 そう言うと、笹川さんはポテトをフロートにドボンとつけた。

「おお……!CMでみたやつだ!」

「そうです!これ、結構美味しいんですよ!」

 そして、笹川さんはポテトを口に運び、幸せそうな顔をした。

 お、美味しいのか?俺はそういうのは基本的に認めたくないタイプなんだが。ポテチや柿の種にチョコをかけたものでさえ、何となくたべてこなかったのだが。

 それにしても、笹川さんは美味しそうに食べている。

 ごくり。どのような味なのだろうか。

「……なあ、一本でいいから、俺にくれないか?」

「もちろんです!騙されたと思って試してみてくださいよ!」

 俺はおそるおそるポテトをフロートにつけて口に運んだ。

 じょりっ。ふわっ。

「……甘じょっぱくて美味しい!」

「でしょう?意外といけるんですよ!」

 なるほど、これは止まらなくなる味だ。俺が驚いた顔をしつつ楽しんでいると、

「……実はこれ、高校の友達とやってた食べ方なんですよ。」

「お、そうなのか?時代を先取りしてたんだな?」

「はい……今日、目当てにしてきた限定バーガーも、その友人たちと食べたものなんです。」

「おお、青春の味ってやつか。」

「はい。……高校の近くに店があったので、部活終わりに、よく来たんです。友達は皆、別々の県の大学に進んだのですが。それて卒業式の後、皆でこの限定バーガーを食べながら、お互いに頑張ろうねって約束したんです。」

 何と素敵な話だ。俺は図らずも感動してしまった。

 そうか。彼が目を閉じながら食べていたとき、彼は眼の前のバーガーというより、思い出を食べていたのだな。

 チェーン店だって軽んじられがちかもしれないけれど(というか俺も今日笹川くんとが来たいって言ったとき、チェーン店かって思ったけれど)、変わらない味って、すごいんだな。いつ来ても楽しめる場所って、安心するよな。


 そうしてしみじみとしながら、俺たちはポテトとフロートとパンケーキを完食した。ふう。かなりの満足感だ。

「ごちそうさまでした!」

「笹川はん、定食屋の休業に気がついてくれてありがとうな!久しぶりに食べたハンバーガー、美味しかったよ!」

「私も友達と会う前にに思い出のバーガーを食べられて良かったです!」

「うんうん、高校の放課後の味ってすごく美味しいよな……って、もうすぐご友人と会うのかい?」

「はい!今晩、皆久しぶりに会うんです!」

「え、今晩?」

「今晩です!皆でグルメバーガーを食べるんです!」

 そう言って笹川さんはハンバーガー屋のホームページを見せてくれた。アボカド、エビ、肉など、たくさんの具材が入った、おしゃれなハンバーガー屋だった(すごく分厚いバーガーだ。どうやって食べるのだろう)。

「……余計なお世話かもしれないけれど、夜もハンバーガーなのに、昼はここで良かったのかい?」

 俺はおそるおそる聞いてみた。

「はい。……グルメバーガーを食べたいときと、ファストフードのハンバーガーを食べたいときって、違うじゃないですか。」

 笹川さんはキョトンとしていた。

 ……ああ、確かにステーキを食べたいときと牛丼チェーンを食べたいときは違うかも……いや、2食ハンバーガーはすごいな。サイドもたっぷり食べたから結構来てるはずだぞ。若さだな。


 俺は苦笑いしながら笹川さんと別れた。



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