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-放課後-
あたりは、茜色に包まれ日が落ち始めたことによって空気は急速に熱を失い、震えるほど寒くなる。
その寒さに耐えれなくなりオレは、目を覚ました。
「あれ?」
辺りには人はおらず一人、机から起き上がる。
なんだか頭がクラクラする・・・寝すぎたのか?
(そういえば、オレはいったい何時から寝てたんだろう?)
駄目だ、頭がまったく回らない。
虚ろな目で教室を見渡す。
とっ、誰かが教卓の上に座っている。薄暗くてよくは見えないがどうやら女のようだ。
髪は肩くらいまであり、風も吹いていないのになぜかサラサラとなびいている。
顔は見えないが間違いなく美人だろう。
声を掛けようか迷ったが、こうして見ているのも失礼だし話しかけてみることにする。
「アンタ、この学校の生徒じゃないだろう。そんなとこで何してんだ?」
「夕日を見てるんだ、燃えるように綺麗だったから。知ってる?この時期この教室が一番綺麗に見えるんだぜ」
声からして女なのは間違いないだろうが、男のように乱暴な口調だった。
けれど、その声はこの教室の静寂を壊さぬようにまるで、脳に直接語りかけるような声だった。
「へぇーそうなんだ。それは知らなかったな。だけどもう日も暮れるし帰った方がいいんじゃないか?
暗くなったら危ないし」
オレの言葉に少女はクスと笑う。
「私の心配より自分の心配をするべきだよ、大西学」
「えっ」
次の瞬間、少女を中心に全ての光は消え、オレは闇へと飲まれてしまった・・・。
暗い闇の中、体が小刻みに揺れる。
どうやら誰かに肩を揺すられている様だ。
まったく、邪魔なゆれだ。
オレは早くこの闇から抜け出さないとならないのに。
オレは揺れの原因を払いのけ、それと同時に、辺りに光が戻った。
「あっ、やっと起きた」
目を開けると、夕日に照らされ純と明が机の周りに立っていた。
「あれ、オレ寝てたのか?」
「うん、ぐっすりとね。なに、なんかうなされてたみたいだけど悪い夢でみた?」
(夢?あれは夢だったんだろうか・・・)
「ああ、そうだな。少し変な夢を見た」
「フン、そりゃおかしな夢も見るだろう。まったく午後の授業ずっと寝つづけるとはどんな神経をしているのだ、大西は」
純は相変わらず説教くさい言い方をする。
「純、寝起きに説教はやめてくれ頼むから・・・」
うん、今は素直にそう思う。
「って、寒いな。誰も居ないみたいだし帰らね?」
「俺達はその寒い中お前が起きるのを待ってたんだが!」
純がそう不満そうな顔をする。
「ハハ、それは悪かったな。まっ、今度からは気をつけるから」
パンと純の背中を叩く。
「ム、痛いぞ大西」
「話はすんだ?じゃ、帰ろうか」
何時から居たのか、見ると教室の入り口まで明は移動していた。
「ああ、今行く」
そうしてオレ達は、赤く燃える教室を出て行った。
「えっ?なんて」
「だから今日はここで失礼する」
歩いて十五分ほどした所で純は突然そう言い出した。
「なにか用事?」明がそう聞く。
「ああ、少しな。明日も朝から町のほうへ行かなくてはならんしな」
「へぇーじゃあ、無理に引き止めるのも悪いね」
「ああ、スマンナ」
と、オレが喋る前に明が勝手に話を進め純を帰してしまった。
「なんで帰したんだよ」
と、不満を口にするオレに対し明は、
「学がそう言うと思って」
と、笑いながら言葉を返してきた。
その笑顔に寒気を感じるのはおそらくこの寒さのせいじゃないと思う。
その後特にやることのないオレ達はたわいもない話をし別れ、オレは家へと帰り着いた。
母さんはどうやらもう仕事に出ているようだ。
そしてオレは、いつものように一人で夕食を済ませ、安らぎの時間を過ごし、寝る。
そう、いつものことだ。何も変わらない退屈だけど幸せな日々。
それが、ゆっくりと壊れていっていることに、この時のオレはまだ、知る由もなかったんだ。




