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「私が橋本と出会ったのは今から二十年前のことだったわ。当時の私は今のあなた達より幼かった。まだまだ何も知らない幼い私、そんな私の前にあの男は現れた」
昔語りを始めた春華の瞳からは、昔を懐かしむような、それでいて自身を強く責める自責の念が見え隠れしていた。
「その頃の私は、私の父の恩師が務める研究所によく出入りしていてね、あの男は最初この研究所の支援をしたい、そう言ってきたの。最初はねもちろん誰もそんな話信用なんてしなかった。けれど、あの男は私たちが見たこともないほどの金を突きつけて、私たちが考えもつかなかった理論を述べて、気づけばいつの間にかあの男は私たちの中心に立っていた。あの男が来てから研究が大きく進展したのはあの男の金で今まで手に入れることのできなかった設備も整えることができて研究所も大きくなったわ。だけどその頃から私は感じていた、私の愛したあの空間が徐々に侵食されまったく違うものに変わってきているのを。そしてある日あの男は言った、『人間の限界、それに興味はない?』かと。その悪魔の囁きに最初に耳を傾けてしまったのは誰だったか・・・・」
『限界とは?』
『人の高み、人でありながら人を超えた生命体、それを私たちの手で作り出しませんか?』
「そんな非人道的なことはできない。最初は誰もがそう言ったわ。けれどそんなものはしょせん建前に過ぎなかったんでしょうね、その時多分私を含めたすべての研究員がその実験に興味を示し、そして一ヶ月もしないうちに実験は動き出したわ。この実験はその特性上どうしても人体実験が必要となる。けれどいくら研究所が大きくなったとはいえ、まだ無名だった私たちにはそれを達成できるほどのモルモットを用意することができなかったの。そこで考えられたのが、自身の精子と卵子から子供を量産するという方法だったのよ」
「ひどい・・・」
由美がそう呟く。
「ええ、その通りね。まさに鬼畜の所業よ。だけど、研究という大きな熱に飲み込まれた私たちはそんな当たり前のことにさえ気づくことができなかった。そして、こうした多くの犠牲の末に私たちは九体の成功体の製造に至ったの。そのうちの一人が学、あなたよ。私の卵子と橋本の精子、それを人工授精させその体にありとあらゆる改造を施し、肉体、知能と最高水準まで高め産み落とされた存在それがあなたなの学。ご、ごめんなさい!ごめんなさい学!あなたを、こんな風に産んでしまって。私は、最低の人間です!」
そこまで言うと春華は床に顔を伏せ泣き出してしまった。
学はそんな春華にゆっくりと近寄り、その肩に手を置いた。
「いいよ、そんなに謝らなくても。オレ、知ってるから。カアサンが今までオレをちゃんと育ててくれたこと。始まりがどうであれ、親子として過ごしたあの時間が本物だってことオレ知ってるから。だからさ、謝んねぇーでくれよ」
「学・・・」
「けどこれで決まった」
学がコクリと頷き立ち上がる。
「決まったって何が?」
由美が聞き返す。
「やるべきこと」
「やるべきこと?」
「うん、つまり。この町を救うってこと」
そんな彼には似つかわしくない思いつめた顔で学は言った。
4章 終




