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「明!!」
学は知らず知らずのうちにそう叫んでいた。
それに呼応するように明が呟く。
「ああ、学、助かったんだね。良かった」
かすかに口元が歪む、多分笑おうとしたんだろう、けれどその唇はわずかに痙攣するだけで決して微笑むことはなかった。
「明、なんで?なんで?」
学はそう問わずにはいられなかった。
「お前は、オレの敵だったんじゃなかったのかよ?」
「てき?ああ、そうだね確かに今はそうだった。そういう命令だったからね」
それはたった今思い出したとでもいうような反応だった。
「なら、どうして?」
「命令の中にあった。君と友達になれっていう指令、あの命令はまだ継続してたんだ、うん、少なくとも僕の中では。ふふ、おかしな話だよ、僕自身の手で君を殺すのはよしとしたのに、なぜだろうね、他の人がそれをするのはたまらなく許せなかったんだ。そしたら体が動いた、君を助けるために。多分これはバグなんだろうね」
そう納得しようとする明を学は強く否定する。
「違う、バグなんかじゃねぇよ!それが心なんだよ!お前の、たった一つの、みんなが持ってる大切な大切なものなんだ!絶対にバグなんかじゃねぇよ!!」
その言葉を受け取り明は一言『そうか』とつぶやきた。
その時の明の顔は安心したようなそれでいて泣きそうな顔だった。
「それより早くこの傷を塞がなきゃ!」
二人のそばにいた由美が悲鳴を上げるように言う。
けれど誰もこんな傷は見たことがない、処置をしようにもその方法がわからないのだ。
できることといえばただただその傷を眺めるだけ。
よく見るとヒビは腕の甲にも迫っているように見えた。
それを確かめようと由美は何気なく腕を持ち上げる、すると信じられないことがおきた。
ゴキリと響く鈍い音、それにともない由美の手にのった明の腕の重さが異様に軽くなったように感じた。
まるで、紙でも持ったかのような重力のない不思議な感覚。
一体なんなのかと自らの手を眺める由美、そしてその目に映ったものは、肘より上のない明の右手だった。
「っ!!!ひっ!!!」
由美の凄まじい悲鳴が響き渡り学も目を見開く。
そんな二人をよそに明は一人平然としていた。
「ああ、取れちゃってね。気にしなくていいよ、近いうちにこうなることは分かっていたからね」
ピシリと音を立てて、明の体のヒビがより一層広がった。
「わかっていたって・・・」
「この体のヒビ、これはね僕らドールの寿命の印なんだ。モノにはいつか限界が来る、それは僕らドールも例外じゃない。永遠なんてものはない。君たちが気にすることじゃないよ」
「気にするなって、明、うで、腕が!」
学は半ば半狂乱となり由美はただただ泣いている。
そんな二人を落ち着かせるように明は優しく微笑んだ、そう今度は微笑むことができた。
「だから気にするなって、君が気にしたところでもう手遅れだよ」
サラサラと砂のように崩れゆく明の体。
「オ、オイ明!」
「いや、こんなの!」
取り乱す二人に明は最後の語りを始めた。
「僕はさ、結局、君の友達としても橋本様のドールとしても出来損ないの存在だったんだ。こんな出来損ないは早く消えたほうがいい、これは喜ぶべきことなんだよ。さぁ、君たちも笑って」
明はそうはにかみながら言う。
「そんなことない!!」
そう反論したのは意外なことに由美だった。
「アンタは学を助けたじゃない、あの男の命令に反して!それはアンタが人形じゃなくて人形だってことよ!それは絶対に間違いなんかじゃない!!」
「由美・・・ああ、由美の言うとおりだ、お前は人間だ、オレたちの仲間だよ!!」
同意する学、明はそんな二人を見て再び悲しそうに笑う。
「ああ、そうか。そ、そうだったんだ。ああ、それは・・・良かった」
それだけ言うと明の体は砂となり崩れ落ちた。
「明!明ァー!!!学!明が、明が!!」
泣き叫ぶ明に対して学はなにも答えずただただ、明だった砂を見つめていた。
そして何かを思い立ったかのように立ち上がり言った。
「カアサン、全部、これまでのこと全部オレに話してくれ」
そう、今にも泣きそうな顔で。




