表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
encounter  作者: RIO
56/59

4-12

きっかけは多分ほんの些細なことだったと思う。

私は幼少時より実験が大好きだった。

物心着く頃には様々な科学図鑑を読みあさり、クラスのみんながアニメに夢中になっている時間帯には一人教育テレビの科学番組を見て喜んだりしていた。

学校に行く一番の楽しみだって私は一般的な子供と異なっていた。

普通子供たちに学校に行く楽しみを聞けば大概の子は友達と会うことと答えるだろうけれど私の楽しみは理科の授業を受けることだった。

だから理科の授業がない日は本当に学校に行くのが憂鬱でならなかった。

だって私にとって学校は実験ができるから楽しいのでありそれ以外に興味のなかった私にとっては苦痛だった。

友達なんていらない、科学以外の知識なんて欲しくもない、そんな暇があるなら一つでも多く実験がしたい、それだけが子供時代の私の望みだった。


そんな私は大人子供問わず周囲の人間からはかなり変な子に見えただろう、多分両親の目からも。

けどそれを気にしたことなんてなかった、だってそれが私なんだから、悪いことをしているわけじゃない、好きなことをして何が悪いの?

そう開き直ることで周囲との軋轢から目を背けてきた。

そうやって一人で生きてきた私は早い時期から将来について考えるようになりそれなりの才能もあったためだろう、苦労の末、とある研究所にではいりできる身分にまでなっていた。

ではいりできるといっても当時の私はまだ学生、やらしてもらえるのはせいぜいお手伝い程度で研究の深いところには決して立ち入らせてもらえなかった。

それをジレンマに感じなかったのか?

と問われれば否定はできない、けど私は何よりその場にいられるだけで幸せだった。

街の片隅にあったその研究所はとても小さく建物自体も古ぼけており消していい環境とは言えない、それでも私はこの場所が大好きだった。

部屋に立ち込めるアルコール臭を胸いっぱいに吸い込み吐き出す、その瞬間にくる脳が揺さられるような感覚それにうっとりする。

黒板に描かれた様々な用語や図、それを必死にノートへ写す私たちのペンの音、ふと見上げた薄汚れた天窓から見える青空、互いに話し合う今後の活動予定それらの光景風景すべてが大好きで、私も近い将来本当の仲間としてここで働けるそんなことを考えると幸せでたまらなかった。

けれど私は知らなかったのだ、幸せは長くは続かないということを、私はそれを身を持って知ることとなる。

そう、全てはあの出会いから始まった。


由美は目の前の男が言った言葉の意味を完全に把握するまで数秒の時間を有した。

別の男の言葉が理解できなかったわけでもないし意味だってきちんとわかる。

わからなかったのは、理解できなかったのは人の命より研究の方が大切と平然と行ったこの男そのものだ。

一体この男はなんなのだろうか?

本当に同じ人間なのだろうか?

そんな疑いを持ってしまうほどこの男は得体がしれなかった。

もしかしたら恐ろしい怪物が人間の着ぐるみでも着ているのではないだろうか、そんな思いに駆られるほど由美は橋本という男のことがわからなかった。


ただ一つ理解できたことがあるとすればそれは一つだけ、この男には決して説得のたぐいは通じない、少なくともこの男の価値観が分からない自分には無理だ、由美はそう判断する。

ではどうする、戦うなんていうのは論外、拳銃を持った相手に私たちが勝てる見込みはないそのうえ二人も人質を取られてしまっている。

唯一希望があるとすればそれはスキを見て逃げ出すことけどそれも学たちが拘束されている状態じゃ不可能一人で逃げ出したところで人を呼んでいるあいだに学は殺されてしまう。

なにより、この狂った世界で警察がうまく動けるのかも疑わしい。

学に少しずつ接近はしたものもいい手立ては全く浮かんでこない。

状況はもはや手詰まりだった。

できることといえばこの会話をとぎらせず、少しでも学たちの余命を長引かせることだけだった。

考えろなんでもいいから話を続けろ、私の言葉に二人の命がかかっている。

緊張に混乱する頭で必死で考えて出た質問はとても単純でそれゆえに不可解なことだった。


「とりあえずあんたが最悪な人間だっていうことは理解できたわ。けどどうしてもわからない、なんで学と春華さんを殺そうとするの?アンタの話だと実験の為らしいけど学たちを殺すことが一体、なんの実験になるっていうのよ!学はあんたの子供なんでしょ!!」

私が子供という言葉を口にしたとき学がこちらを見るような素振りを見せたが明が邪魔で表情は確認できなかった。

けどなんとなく分かる、多分ものすごい勢いで私のことを睨んでいただろう、それほど今のは学にとって許せないことだったから。

けど、ここで止めるわけにはいかない。

「答えてよ。どれだけの理由があるっていうのよ。人を殺すなんて、こんな、こんなことどうして?ねぇ!!!」

声が部屋に反響した。

音響室でもないのに、やけに響き渡る。

まるでこの部屋がひとつの物語の舞台になったかのようだった。

「これは実験ではありませんよォー。これはただの後始末です」

橋本は声質は先ほどより一段と冷たくなったように感じられた。

「後始末?」

「ええ、次の実験へと進むためのね。私こう見えましても結構神経質なものでねぇー、新しいことに取り組む際はあらかじめ過去を精算させてから挑むように心がけているんですよォー。でないと胸のあたりがムカムカしましてねー」

「それで?」

わかっている、コイツが言わんとしていることはもうわかっている、わかっているのに私はそんなことを思う親が本当にいることが信じられなくて聞き返してしまった。

「ですからぁー過去の遺物であるこの二人には消えてもらわないといけないんですよォー。自分自身のけじめってやつですよ。特に学くんは文字どうり自分で蒔いた種ですしね」

「下卑」

セナがつぶやく。

「下卑とはこれまた手厳しい。人間なら誰でもやっていることでしょ、でないとあなたたちは生まれることができなかったんですからねぇー。それに何も子供を作るだけならわざわざセックスする必要もないんですよォー」

突如として現れた性用語に由美は心臓が高鳴るのを感じた。

落ち着け、こんな時に何を考えているんだ私は。

そう自身を戒める。


「どうゆうこと?」

「ああ、なに別段珍しいことじゃありませんよ。アナタは人工授精というものをご存知ですかぁー。あれと少し似ていましてねぇー私の精子と彼女の卵子を人工授精させたあとそれを母体に移さず特殊な培養液の中で育てその体を調整する。これにより効率のいい成長とより多くの才能を持った優秀な子供を作ることができる。親の望むがままにね。学くんはそうやって生まれた子供たちのうちに一人なんですよォー。学くんの場合は主に反射神経を主とした身体能力強化と少しばかりの危険察知能力つまり第六感が備え付けられています。心当たりあるんじゃないのかい?」

無言のままの学ぶそれはすなわち肯定しているのに等しい行為。

「つまり学くんは人間でありながら極めて人口的な存在というわけですよ」

「なんてことを」

それは昔見たSFアニメを思い出すような人体実験の内容だった。

本人の意思など度外視の非人間的な行為、それを、なぜこの男はこんなにも嬉々として語っているのだろう?

まるで夏休みの自由研究を発表している子供のような無邪気さで。

それに反し当事者である学の顔は信じられないほど青ざめていた。

体の方も震えている。

由美はヘタヘタとその場に座り込む。

ショックのあまり足から力が抜け体重を支えられなくなってしまった為だった。

気づけば学との距離はもう手を伸ばせば届きそうなほど近づいていた。

目の前にあるうつ伏せのまま倒れ込む学と、そんな彼を羽交い絞めする明の背中、弓はその背中に小声で話しかけた。


「明、これがあんたの望んだことなの?学を友達をこんな目に合わせて、こんなの絶対におかしい。・・・明、私はあんたが嫌い。いつもどんな時でもすまし顔で冷静なあんたが嫌いだった。あんたには前にも言ったことあったよね、いつもいつも笑顔で本当の自分の感情は決して誰にも見せないあんたが嫌だって。けど、あれはあたしの勘違いだった。あんたの感情は表情じゃなくていつも行動にあったんだって私は気づいた。あの爆発事件の時だってあんたは学が知りたがっていたから情報を教えてた、あの時はなんてひどいやつだと思ったけどあれあんたなりの優しさだったんでしょ?あんたはただ、優しさをうまく表現できなかっただけ、そうじゃない?それに気づいたとき私はより一層あんたが嫌いになったよ、ああ、なんでこいつはこんなに不器用なんだって。いつもいつもぎこちなく人の輪に紛れ込んでいるあんたを見ているとイライラして」

背中越しの由美の告白を明は無表情のまま受けとめる。

「だけどさ、私はあんたのことを人じゃないなんて思ったことは一度もない。あんたがたとえ本当人間じゃないとしてもこの思いは変わらないよ。少なくともあんな男よりは」

見据える先にいるのは人の形をした悪魔。

「あんた自身はどうなの?あんたは人?それともあいつの言うようにただの操り人形なの?私たちとの生活は全部嘘であんたの意思は本当に一つもなかったの?ねぇ、明」

明からの返事はなく変わりに口を開いたのは橋本だった。

「お話は終わりましたか?ならこっちもそろそろ終わらせますか」

銃口をカチリと春華へと向けなおす橋本、狙いは眉間当たれば即死は逃れない。

それは絶対的な死、死神の鎌を首にかけられた春華は決意したかのように静かに瞳を閉じた。

安らかのその顔からは絶望的なまでのあきらめが漂ってきている。

「だ、ダメだカアサン!!」

学が叫ぶ。

「やめろ橋本!お前の目的はオレだろ、カアサンは関係ねー!!」

「いいえ私の目的はあなたがた二人ですよォー。新たな目的のために、過去の実験に関わった春華くん、そして学くん。この二体には消えてもらいます」

実験体に人権は存在しない橋本はそう告げる。

「ふざけるな!クソヤロー!!結局テメーはこうやって人を無力にしないと何もできないクズだ!自分の力じゃ何もできねぇーへなちょこだ!何が実験だ、馬鹿じゃねーの、こんな実験なんの意味もない!お前はただ実験という名目で自分の殺人行為から目を逸している弱い人間だ!真実から逃げるなだと?ならそっくり返してやるよ!お前こそ真実から目をそらすな、お前のやってることは実験なんかじゃねぇ!!ただの犯罪だ!そしてテメーは科学者なんて大層なもんじゃない、ただの薄汚い異常者だよ!!!」

思いつく限りの罵声を橋本へと浴びせる学、それを受けた橋本からあの嫌な笑が消えた。

「学くん君は本当に欠陥品だったようだね」

スっと銃口が学へと向き直す。

「ちょ!」

「えっ?」

春華と由美が目を見開く。

「予定変更です。まず君から処分します」

引き金にかける指に力が入る。

本気だ!

「やめ!」

由美の静止の声に重なるようにパーン、パーンと乾いた音が連続して二発鳴り響く。

バカみたいに軽く、それでいて心臓が止まるかと思うほど恐ろしい音だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ