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初めに見えたのは空を切る一筋のたち。
次に見えたのは空を舞う赤い血。
それが視界を通し脳に伝わった状況だった。
「なにしてるの!早くたって!!逃げるよ!!!」
「えっ?」
手を引っ張られ無理やり立たされるオレ、よくわからない、なんで由美はこんなに必死な顔をしているんだろうか?
どうして明はオレにナイフを向けている?
なんなだこの状況は?
何がどうなってる?
わけが分からず何も考えられない。
そう、自身の命がまさに今、危機にさらされていることさえも理解できないほどに。
こうなればもう終わりだ、学は自分が殺されたという認識もできないままその命を散らしてしまうだろう。
そう、ここにいるのが学一人であったならば。
「白井さん、ボクの邪魔をする気ですか?」
学と明の間に割って入る由美、その瞳からは強い敵意が見てとれた。
「そんなの見たらわかるでしょ!それより何でよ明!何でこんなこと!学とアンタ友達だったじゃない!なのに、どうして!?」
「そうだね、確かに学と僕は友達だった。けどね白井さん、その友情は台本上のかりそめのものに過ぎなかったんだよ。僕はそれを演じていただけの役者、だから台本が変わればこうも簡単に壊れてしまう。」
「何言ってんの?アンタ」
「舞台の話だよ、この時落市を中心とした物語のね。けどね、この台本の変更は学の為でもあるんだ、このまま進んでも学はつらい目に合ってしまうならそんな現実に出合う前に殺してあげるべきじゃないかな?」
「えっ?」
「これは上からの判断だし、僕もその方がいいと思う。志堂さんが死んだ程度でこれだからね、この先の真実は知るべきじゃない。だからどいてくれないか白井さん、じゃないと君まで殺さなくちゃならない」
それは脅しや、口から考えなしに言っているわけじゃない間違いなく本気の言葉。
彼、月神明はまるで教室であいさつを交わすように自然に当たり前のように殺害宣言を言ってのけた。
由美は背中に冷たいものを感じながらそれでも虚勢を張る。
「っ!そう、でもこっちだってはいそうですかってわけにはいかないのよ!!」
手近にあった本を明の顔へ投げつけ隙を見て逃げ出す由美、手を引かれている学も連れられる形で脱出に成功する。
そこからはどう逃げたかなんて覚えていない。
ただがむしゃらに走って、気付けば二人は町の方まで来ていた。
「あーもう無理!もう走れません!!」
息を切らしながら地面に座りつくす由美、元来体力のない彼女がこんなところも出走ってこれたことじたいが奇跡のようなものなのだが、まあ火事場の馬鹿力というやつだろう。
それとも、守るべきものがあったからだろうか?
チラリと学の方を見る由美、学は相変わらず呆けている。
「なんで、どうして、明」
呟くのはそればかり。
当たり前だ、友達だと信じていた明に殺されかけたんだ、そのショックは計り知れないものだろう。
「学、大丈夫?」
ビルの壁を背に座り込む学、その目には一切の覇気がない。
これが本当にあの学なのだろうか?
まるで顔が同じだけの別人を見ているよう、そんな感覚を由美は味わう。
「しっかりしなよ学!辛いのは分かるけどさ、いつまでもそうしてたって・・・」
「辛いの分かるって、なに?オレの気持ち、お前わかるの?水希が死んで!明がオレを殺そうとして!みんなオレから離れて行って!その気持ちがお前に分かるのかよ!!」
目を見開き怒りの表情で由美の腕をつかみ上げる。
「うっ!」
苦痛に顔をゆがめる由美、そこではじめて気づいた彼女の右の二の腕から血が流れ出ていることに。
「お前、そのケガ・・・」
そういえばオレの体にはケガなんてない、確かにあの部屋で誰かが明に切られたのに。
じゃあ、コイツのこのケガはオレをかばって?
「わかるよ。学の気持ち、ずっと学といたんだもんだから私は知っている、学がどんなに仲間を大切に思っているか、学がどれだけ志堂さんのことが好きだったか私は知ってる。だから学がどれだけ辛かったかなんてわかるよ」
なんで?
何でこいつは・・・。
「なんでお前はそこまでできるんだよ?オレにあんなこと言われてそれでなんでここまでできるんだ?」
「だって、私が学のことを思っていたらそこには確かな絆があるから」
澄み切った瞳で話す由美、そんな彼女を見る学の心からはいつの間にか怒りの感情は消えうせ、彼女の言葉を静かに聞いていく。
「だって、相手に嫌われただけで、その人がいなくなっただけでその関係全てがなくなってしまうなんて悲しいじゃない。自分が信じ続けられるまで絆はつながっているそう思いたいじゃない、だから私は学にかかわるの。学はさっきみんな自分の前から離れていくって言ったけどそんなことない。私はそばにいる、絶対に裏切らない!それは学にとっては迷惑なだけかもしれない、けど学が明に襲われたとき思ったの助けなくちゃって!だから体も勝手に動いた。それが迷惑だっていうならそれでもいい!お願いだから迷惑をかけさせて、死んだら駄目だよ。好きな人に死んでほしくないんだよ」
涙ながらに訴える由美。
こんな由美は初めて見た。
いや、見ようとしていなかった、そうだコイツはいつだってオレのことを気にかけてくれてたじゃないか。
腕見せろ」
「えっ?」
「傷見せろって、そのままってわけにはいかないだろ。オレの服で止血するから見せろ」
「う、うん」
自らの上着の袖部分を強引に破り由美の傷口を覆う学。
そして今自身にある気持ちを由美に語る。
「迷惑なんかじゃねぇーよ。お前が居てくれなきゃオレは死んでた。助かったよ、ありがとな」
「えっ?」
「ああ、お前の言う通りだよ。人が死ぬのは悲しい、好きな奴には死んでほしくない。あたりまえのことで、オレ自身それを経験してるのに、なにお前にまでそんな気持ちを味あわせようとしてんだか。本当に馬鹿だ!ごめんな由美、辛い思いさせて。それとありがとう、いつもそばにいてくれて」
「う、うん」
「勝手なお願いだけどさ、これからもそばにいてほしい。正直この気持ちが由美の思いにこたえられるものかなんて今のオレには分からねぇ。けど、お前と一緒に居たいっていう気持ちには嘘はないから、だから・・・」
「うん、いいよ。そばにいてあげる。うんうん、いさせて」
答えはすでに決まっていたのだろう、由美は当たり前のようにそう答えてくれた。
「ありがとう、由美」
「今は感謝より行動!早くしないと明に捕まる」
「ああ、そうだな」
手を差し出す由美、その手は今の学からすればまるで天から差しのべられた救いのように感じられた。
「それで、これからどうしようか?」
動くことは決まったがいざ行動しようにもなかなか考えがまとまらずに立ち往生してしまう。
「それは、警察に行くとか?」
「けどそれじゃ明は捕まるってことだよな。嫌だな、なんか」
こんな時にまでなに甘いことを、そう思ってしまうがこれは仕方のないことかもしれない。
今の学は人との絆が絶たれてしまうことを何より恐れている、それに何で明があんなことをしたのかが分かっていない、それが分からなければ何も解決しない。
けれど・・・。
「学の言いたいことは分かるけどさ、このままじゃ危ないよ。私達だけじゃどうすることも・・・」
「ならもう一人加わればどうだ?」
「えっ?」
聞き覚えのない声に振り向く私、そこには見たことまないくらい美しい少女が立っていた。




