4-3
「今日はこの後どうする?」
廊下で不意に声をかけられた。
その相手が志堂さんであることに驚いた。
突然呼び止められたというのもあるけど、やっぱり好きな女の子に声をかけられるのは緊張する。
そう、オレは志堂さんのことが好きだ。
この思いに間違いはない。
それは昨日一日一緒に居て確かなものだと感じ取れた。
志堂さんの弱いところをオレが守ってあげたい、彼女のことをもっと知りたいし理解してあげたいそう思ったんだ。
けど、今のところオレと彼女の仲はそれほど深いものにはなっていない。
だから、今みたいな主語を抜かされた状態で話しかけられてはこちらも困ってしまう。
「志堂さん、探すって何を?」
オレの言葉が気に食わなかったのか志堂さんはムスっとした表情を見せる。
しかし志堂さん、怒った顔もまた可愛いなー。
いや、マジで。
「もう!大西くん、それ本気で言っているなら怒るよ。探すって言ったらリルのことに決まってるじゃない。昨日はあれだけ町の方を探しても見つからなかったし、今日は隣町の方にでも行ってみる?あっ、それとも明るいうちにもう一度町の方を見たほうがいいかな?昨日は暗かったし、見落としがあったかも。大西君はどう思う?」
目の前で熱弁してくる志堂さん、そんなに気合い入れられたらこれから言おうとすることが非常に言いづらくなるのでやめてほしいのだが。
目なんて、きらきら輝いてるし。
「あのさ志堂さん、盛り上がっているところ悪いんだけど、実はリル見つかった」
「へっ?」
「今朝さ、理沙ちゃんがお母さんと一緒に来てリルが見つかったって報告してきた。何でも昨日、理沙ちゃんが家に帰ってきたら玄関の前で寝てたらしよ。すぐにオレ達にも教えようとしたらしいんだけどホラ、オレ達昨日は夜遅くまで町にいたじゃん。だから知らせれなかったんだって」
「それ本当!?嘘じゃないよね!」
「ああ、本当さ」
オレの言葉に彼女はホッと胸をなでおろす。
「良かった~見つかって理沙ちゃん喜んでいたでしょ?」
「そりゃ、大喜びだったよ。目に涙なんか浮かべちゃってさ」
「そっか、でもそれなら何でもっと早くに行ってくれなかったの?こっちだって心配してたんだよ」
再びふくれっ面になる彼女。
「ああ、それはごめん。なかなかきっかけがつかめなくて」
「なにそれ。そんなに気を使わなくてもいいのに、友達でしょ、私達」
友達か、そんなに気持ちのいい笑顔で言われたらよけい悲しくなるよな。
「そっか、そうだよな。うん」
「あっ、そうだ。友達なんだからさ名前で呼び合おうよ私達」
「はぁ?」
「だって、志堂さんってなんだかよそよそしくて嫌なんだもん。ほら私は学くんって呼ぶからさ、学くんはこれからは私のこと水希って呼んでね」
「い、いや、それは」
「いいから、いいからホラ。学くん」
「み、水希」
「もう一回、学くん」
「水希」
名前を呼ぶたびに胸が温まるのを感じる。
ああ、オレ今すげー幸せだ。
「よし、じゃあ、今日は友情を深めるために一緒に帰ろっか」
「帰るって、水希と?」
「そうだけどもしかしてなにか用事でもあった?」
うっ、そんなうるんだ瞳で見つめるなよ、これじゃどうあっても断れないじゃん。
本当は海堂に校内新聞の張り替え手伝ってくれって頼まれてたけど・・・・。
スマン海堂、やっぱ女の方が大事だわ。
「いや、大丈夫。すぐ戻るから先に校門で待っててくれ」
「うん、じゃあ十分後に校門前で良い?」
「ああ」
さすがに断りの連絡くらいは入れないとな。
ところ変わって新聞部。
「マジかよ!ドタキャンとかそりゃねーよ大西!」
「悪いな海堂オレには遂行なる任務があるんだ。諦めてくれ」
「まさか、女じゃないだろうな」
びくりと反応する体、こんなものはイエスと言っているようなものだ。
「テメーやっぱりそうか!マジ信じらんねー!」
「ごめん!埋め合わせはするからー」
「コラ!大西!!」
出来る限りの謝罪を述べ一気に駆け、逃げ出す。
後ろからまだ海堂の声が聞こえるがすべて無視、だって今捕まったら後が怖いじゃん?
そして見事十分後に校門へたどり着いたオレだったが・・・。
「アレ、誰だ?」
校門前、約束通りそこに水希はいた。
けど、水希と話しているあの男は誰だ?
年的には水希の親でもおかしくはなさそうだけど、二人の様子を見るからにどうやらそういったものではなさそうだ。
とゆうか水希なんか困ってる?
なんとなくだけどそう見えた。
だったらオレのすべきことは一つだ。
「よー水希おまたせ。なんか取り込み中だったみたいだけど大丈夫か?」
「学くん」
「学?」
なぜか男はオレの名前に反応した。
「水希、この人は?」
「あっ、ごめん。えっとこの人は・・・」
「どうも、橋本計治と申します。以後お見知りおきを」
差し出される手、おそらくはあいさつのつもりなのだろう。
オレはその手を握り返す。
「どうも、大西学です」
「大西学・・・くん?」
「ッー!!」
突如、力をこめられる手、そのあまりの力の強さと目の前で大きく顔を歓喜の表情に歪める橋本計治があまりにもおぞましくつい手を大きく振り払ってしまった。
「おやおや、これは乱暴ですね」
なんだコイツ?
なんだこの感覚?
気持ち悪い。
何か思い出したく無きことが溢れてきそうっで怖い!
嫌だ!
コイツは駄目だ!
絶対に関わってはいけない!
「どうしたの、学くん?」
心配そうに顔をのぞかせる水希、けど今それに答えるだけの余裕はない。
逃げ出さないと、今すぐに!
「行くぞ、水希!早く帰ろう」
「え?ちょ、ちょっと・・・」
彼女も腕を強引に引っ張り走り出す。
直感だがアイツといるとオレは終わるそう思えた。
だから怖くて逃げだした。
そうして男の姿が見えなくなったところでオレは足を止めた。
「ハァーもう!なに?急に走り出したりして!危ないな」
息を切らしながら、抗議の声を上げる水希、そこでようやく自分が彼女の手を握り締めていることに気付き、あわてて手を離した。
「ご、ごめん。手、大丈夫だった?」
「う、うん。それはいいんだけど、本当にどうしたの?顔も青いし、気分でも悪くした?」
スッと頬をなでる柔らかな掌の感触、水希の温もりが肌に伝わり一気に鼓動が跳ね上がる。
「い、いや本当大丈夫だから。・・・ただなんか嫌だったんだよあのオッサンが」
「橋本さんのこと?」
「ああ。水希、お前アイツと一体どういった関係なんだ?アイツすごく嫌な感じがした」
オレ、今すごく失礼なこと言ってる。
もしあの橋本とかいうオッサンが考えたくないけど水希と深い仲だったとしたら彼女にも悪いし。
けれど水希はいつものように笑顔で答えてくれた。
「心配してくれたんだね。ありがとう。うれしいよ。けど安心して、あの人はただの知り合いだから」
やさしく、素直な水希だからだろう、どうやら彼女は嘘が苦手のようだ。
水希、そんなに目をそらすとすぐに嘘だってばれるぞ。
けど、
「そうか、わかった」
水希が話したくないならそれを無理に聞く気はない。
彼女が困っている時はいつでも助けになる、それでいいじゃないか。
それでいいんだと思っていた。
けど、オレは結局彼女を救ってあげることが出来なかった。
ダンっと壁を殴る音があたりにこだまする。
その痛みでオレは現実へと引き戻された。
相変わらずの俺の部屋、けれどそこで予想外のものがオレの視界をよぎった。
スカート?まさか・・・
急速に湧き上がる希望、オレはその希望を信じ顔を上げ、
「水希!!」
「ごめん、志堂さんじゃなくて」
すぐに砕かれた。
「由美?なんで・・・」
「ごめん、春華さんに今朝、鍵わたされて、良かったら顔見せてあげてって」
状況を説明する由美、ああそうゆうことか。
「余計なことを」
吐き捨てるようなつぶやき、こんな言葉が出たことに自分が一番驚いた。
「アンタ、それはないでしょ!春華さん本当に学のこと心配してるんだよ。なのにそんな言い方!」
「だから!それが余計だって言ってるんだ!!!」
感情に任せて怒鳴り散らす。
やばい、このままじゃ今まで抑えてきたものが全部でてしまう。
「学、家でよ。こんなところに閉じこもってても何も変わらない。アンタがどんどん駄目になる。そんなの見たくないよ」
俺を連れ出そうと差し伸べられる手、由美は本気だ本気でオレのことを心配せてくれている。
けどオレは、その手を払いのけた。
「オレに触るな!!」
「きゃ!」
振り払った時の勢いが強かったのか由美はその場に倒れこむ。
「なんなんだよ、お前!前からオレの世話やいてウザいんだよ!俺がどうなろうとお前には関係ないだろ!」
「あるよ!!私は、私は学が好きだか!だから助けたいんだよ!!!」
オレと同じように感情をまき散らす由美、その顔は真っ赤に染めあがっている。
「お前が、オレを?」
コクリとうなずく由美。
「だったら少しは分かるだろ?好きな人がいなくなる苦しみが、なのに何で今そんなこと言うんだよ!」
やめろ、心の中でそうつぶやく、けれどもう止められなかった。
「それとも何か弱っている今がチャンスだとでも思ったわけ?せこい奴だな!ああ、もしかしてその告白自体がオレを元気づけるための嘘だったりしてな、由美さんは優しいからな!」
「うっ、うう」
漏れる嗚咽。
顔は見せないようにしているが泣いているのは一目瞭然だった。
オレが泣かした?
由美を?
なんてことをしたんだ、アイツはオレを心配してきてくれたんだぞ!
なのに、最低だ!
謝れ!
「なに嘘泣きしてるんだよ!今度は涙で気を引こうってか?」
そんな心とは裏腹に暴言は止まらなかった。
「うああああ」
由美はもう涙を隠そうとはしなかった。
家中に広がる鳴き声、それ以外の音はない。
ないはずだったのだが。
「これはまたすごい場面だね」
「明・・・」
ドアを開け姿を見せる月神明、その顔は相変わらずの笑顔だ。
「失礼、玄関が開いてたもので勝手に上がらせてもらったよ。どうやら白井さんはうまくいかなかったようだね」
「なんだよお前!お前も由美みたいに説教でもしに来たのか」
「うん、それなんだけどね。ごめんね白井さん、もう遅かったみたいだ。こうなる前に学を助けてほしかったんだけど」
「お前なに言って?」
ゆっくりこちらへ近づく明、その手には一本のナイフが。
何でナイフなんか?
オレは訳が分からないまま立ち尽くし、明はそんなオレにナイフを振り上げなんのためらいもなく振り下ろした。
零れ落ちる赤い液体。
この時をもって大西学の日常は完全に終わりを迎えた。




