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-1日目―
家を出て空を見上げる。
相変わらずの鉛色の空、もうどれだけの時、青空を似ていないだろうか。
そんなことが頭をよぎった。
よそう、今はそんなことを考えても仕方がない。
そう自分に言い聞かせ私は今日も学の家へと向かった。
「悪いわね由美ちゃん。わざわざ来てもらったのに」
「いえ」
「学の奴、最近部屋からも出てこようとしないで。まったく困ったものね」
「そう、ですか。じゃあ、私はこれで。また明日来ます」
「ええ、そうしてあげて」
私は悲しそうに微笑む春華さんに見送られながら学の家を後にした。
最近はこんなやり取りを毎日繰り返している。
そしてそんな私をあざ笑うかのごとくコイツは今日も私の前に姿を現した。
「やぁ、どうやら今日も学を連れ出すことは出来なかったみたいだね、白井さん」
「明・・・」
由美の前に現れる男、月神明。
彼女と同じクラスに在籍するこの男は毎朝、由美が学の家を訪れた後決まって姿を見せるようになった。
「なんなのよ、アンタ!なんで毎度毎度私の前に出てくるのよ!!」
不気味。
今、由美が明に対して感じているものはまさにソレだった。
明は別に由美に会いたくて来ているわけではない。
いや、例えそうだとしてもそれは好意とかそんな純粋な思いからでは決してない。
それは由美自身も分かっている。
だからこそおぞましかったのだ明のその理解できない行動が。
「ひどいな。前は学を含めた三人でよく登校してたじゃないか」
「それは!」
「うん、わかってるよ。白井さんはただ学と一緒に居たかっただけだよね。本当は僕のことも邪魔だと思ってた、そうでしょ?けど残念だね、今はその大好きな学と一緒に居ることが出来ない。しかもとうの学は他の女のことで頭がいっぱいなわけだし、本当に報われないね。まったく、あの事件からもう一か月もたったっていうのに学に会うどころか、話もできていないなんて。君には失望したよ、白井さん」
「!!」
体中をかきめぐるのは途方もない怒り。
確かに学に対して何もできていないのは事実だけど、それをどうしてなにも行動をしていないコイツにここまで言われなくちゃいけない。
あまりの悔しさに、涙を浮かべながら明を殴りつけ、・・・けれどその拳は以前のように明に届くことはなく寸前のところで彼の腕により阻まれる。
「ッ!!」
「悪いけど、こちらももう時間がないんだ。白井さんでもだめならば僕は動かなくちゃいけない。けれどそれは僕の望むところではないんだ。だから白井さん、どうか学を救い出してあげてほしい」
そう述べる明は先ほどまでの傲慢な態度とはうって変わっての、まるで神に懇願するようにせっぱ詰まった顔を見せた。
そのあまりの変化に由美はあっけにとられる。
「アンタ、一体何を言ってるの?・・・いた!」
由美の問いには一切答えず明はつかんでいた由美の手をねじ上げる。
「さぁ、白井さん。今すぐ学のところへ戻るんだ。そして彼の中から志堂水希を消し去るんだ。わかったね」
更に腕への力を込める明、折られる。
そんな確信が由美の中で生まれようとしていた時、痛みは急激に薄らいでいった。
「何してんだよお前!」
明の行動を阻む新たな腕、その人物の姿に由美は驚きの声をあげる。
「海堂!?」
「お前、月神!女に手あげるなんて何考えてるんだよ!!」
「君には関係のないことだよ」
そう冷たく言い放つと明は由美から腕を離し海堂の腕を払おうとする。
けれどここで明にとって予想外のことがおきた。
手が、動かない?
そう、まるで万力に挟まれたかのように固定され振りほどけないのだ。
「くっ!」
今度は強引に体ごと引っ張ってみるがそれでもびくともしない。
なんだ?この尋常ではない力は。
このままではらちが明かないとふみ、海堂の腹を蹴るという強行手段にうってでる。
こんな至近距離では大した威力は出ないが、それでも相手を驚かすくらいになら有効なはずだ。
「ぐっ!!」
思い通り海堂は二三歩よろめき後退する。
「イテ-、お前!」
「悪いけど君にはかまってられないんだ。それより白井さん僕の言葉を忘れないでね」
それだけを告げると明はもう用がないとでもいうように去って行った。
「なんだアイツ?なあ、白井」
状況が分からず由美に尋ねる海堂、けれど当の由美は呆けたように立ち尽くす。
「オイ、白井。大丈夫か?」
そんな由美に気付いた海堂は心配そうに声をかけてくる。
「え?うん、大丈夫」
「そうか、月神のことはあまり気にするなよ」
「うん」
それだけ話すと二人はもう口を開くことはなく学校へ向かった。
けど、道中の由美の心境は穏やかなものではない。
アレは、何?
先ほどの光景を思い出し、気分が悪くなる。
たぶん海堂はソレに気付いていない。
二人から離れた場所にいた私だからこそ見れたんだと思う、明のあの腕を。
海堂を押しのけたとき、一瞬服がめくれ腕をあらわにした明。
しかしそこで見たものは、隙間なくまるで蜘蛛の巣のようにひび割れた肌だった。
明、なにかの病気なの?
時間がないってどうゆうこと?
分からないことばかりで頭が混乱してくる。
こんな時、学がいたら。
そんな思いが由美の心に広がりつつあった。
-同時刻、大西家-
一つの扉の前で大西春華はため息をつく。
「由美ちゃん、今日も来てくれたわよ」
扉越しの会話、しかし部屋の主からの応答はない。
「辛いのは分かるけど、一回くらい会ってあげてもいいんじゃないの?」
なお、会話を続ける春華だったがやはり反応はなく、会話はただの独り言へと成り果てた。
そんな状況を確認したところで春華は再び大きなため息をつき扉の前から離れた。
こんな渦中の中心にいる部屋の主こと大西学は、一人ベットの上に倒れ伏せていた。
別に寝ているわけじゃない。
ただこうして目を閉じていると何時でも記憶の中の彼女に会えるからそうしているだけ。
そして再び目を明かると目の前に彼女がいるのではないのかと、そんな淡い期待をよせているだけ。
開いては閉じ開いては閉じる。
けれど目を開けるとそこには誰もいなく、いつもの見慣れた部屋が広がっているだけ。
そんなことに涙が溢れそうになった。
「水希」
思い出の中の彼女の名を呼び、学は再びまぶたを閉じる。
今度こそまた会えると信じながら、意識は記憶の海へと沈んでいった。




