3-5
人は他者を自身の鏡として己を顧みるというが、こうして彼女を見ていると自分がまだまともだということを確認することができた。
「ねえ、君も一緒にやろうよ!楽しいよ~」
「い、いや僕は・・・」
言いながら彼女から目を背ける。
「なんで?面白いのに」
キャッキャッと騒ぐ彼女の姿はまるで愛らしいものを前にしてはしゃぐ女子高生のようで、いや事実そのとうりではあるのだが、彼女の場合はその愛でるものが常人とは大きく異なっていた。
「こんな、なんでこんなことを・・・」
「なんで?何が?変なこと聞くね君、そんなの楽しいからに決まってるじゃん」
「そんな理由でこんなことを!?信じられない」
「こんなコト?」
「だから!こんな人の・・・人間の解剖なんて」
血みどろの彼女、その前方にはもはや人間だったなんていうのが信じられないほど無残な姿をした一つの肉塊。
「なんでそんなに怒ってるの?君だってしてたじゃない解剖。それと何が違うの?」
心底訳が分からないという顔でこちらを見る彼女。
「全然違う!僕が行ってきたのは実験だ!!動物を使っての!君の、こんな快楽のためだけの殺人なんかと一緒にするな!」
「ああ、不死になるための研究、だっけ?同じだよ。動物を殺しているっていう点も自分が満たされるためにほかの命を奪うという行為も君と私に一体どれだけの差があるの?そりゃ、世間的に見たら罪が重いのは私だろうけど命を奪うという行為には何ら変わりはないじゃない」
「そ、それは・・・」
まるでそれが正論のように僕を説き伏せる彼女。
無論、彼女の言っていることが正しいだなんてことは思はない。
むしろその言葉により彼女の異常性が一層きわだったくらいだ。
なのになんで、こうも彼女の言葉が胸に刺さる?
なんとなく分かる、たぶんそれは彼女の言うように彼女と僕が本質的には何ら変わらないということを僕自身がすでに認めてしまっているからだ。
命を命と思わない狂人、それが僕等の正体。
「もー、そんな困った顔しないで。少しいじめすぎちゃった?別に君を責めているわけじゃないんだよ。っていうか私にはそんな権利ないし。あの人が言ったでしょ、私たちはただ君の手伝いがしたいんだよ」
あの人?
あの人というのはあの嫌なやつのことだろう。
「手伝いって何の?」
「もちろん君の願い不死についての」
「・・・・・」
「正直な話、今の君のやり方じゃ不死なんて無理。けど安心して、あの人の言う通りに行動すればきっと願いはかなうよ」
「何を言ってるんだお前!」
「だーかーらー、君の手伝いって言ってるんじゃん。でも今はまだ準備段階なんだけどね」
「準備って何の?」
「んー主に君のかな?」
ビシッと血だらけの指で僕を指す彼女。
「僕?」
「そっ!君さ、不死の実験とか言って動物たちを殺しているみたいだけど肝心の人はまだ一度も殺したことがないそうじゃん。なんで?」
「それは・・・」
「だから私が手伝う」
「え?」
すっと僕の手を握り締める彼女。
やわらかくて繊細なとても女の子らしい優しい手。
その血だらけの手が僕を包み込む。
動物と何ら変わりのない人の血液、そこに険悪感はない、自身を血で染めることなどもはや日常になっていたからだろうか、不思議と安心感までわき心が落ち着いてきた。
「で、どうする?私たちと手を組む?それともまた一人で無駄な実験を繰り返す?私はどちらでもいいけど、どのみち君はもう落ちるしかないんだから、どうせならとことんどん底まで落ちてみるのも面白いと思うけど」
確かにもう僕はもう日常へと戻ることはできないそういった道を選んだ自らの意思で。
だからそこに後悔は無い。
けれどそのために多くのもの多くの命を奪ってきた、それらを無駄にすることはできない!
なら・・・。
「もし本当に僕の望みがかなうというのなら、僕は奈落だろうとどこにだろうと落ちる覚悟は出来ている。たとえどんな犠牲を払おうと願いがかなうのならば僕は・・・喜んでその申し出を受けるよ」
誓いの証に彼女の手を強く握り返す。
其処の僕の覚悟を感じ取ってくれたのか、彼女は穏やかに微笑んでくれた。
とてもとても、邪悪な笑みだった。
第3章 終




