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その日のことは覚えている。
今もここに残っている。
忘れられることなんて出来ない。
彼女との出会いを。
あの日のことを。
あの男との出会いを
~encounter~
十月十二日深夜。
この日も僕は獲物を求めて人気のない夜道を歩いている。
無論、獲物とは野良犬、野良猫の類のことだ。
片手には以前購入しておいたポケットナイフを握りしめ、夢遊病者のように夜の街を徘徊していく。
月明かりもない今夜は隠れるのにはうってつけであり、彼は自身の異常性を隠すことなく存分に吐き出していた。
息は獣のように荒く、口元は耳まで裂けているのではないのかと思わせるほど綻んでいる。
そしてその精神は今異常な興奮状態の中にある。
それもそのはず、彼はつい五分ほど前まで一匹のいたいけな子猫を解体していたのだから。
つまりこの徘徊は本日二匹目の獲物を見つけるための散歩。
血の付いたナイフを眺め先ほどの子猫のことを思い出す。
可愛らしい鳴き声や、ビー玉のように真ん丸な綺麗な目。
体は小さくまるでぬいぐるみのようで、ナイフを脳天に突き立てたときのあの一瞬の痙攣。
どれもこれも本当に愛しくて思い返すだけでゾクゾクしてしまう。
特にあのナイフを突き立てる瞬間なんてまさに最高だ、脊髄に電気を流したような衝撃が走り脳はまるで麻酔を直接ぶち込んだような高揚感が襲う。
なんでこんなことが起こるのかはよくわからないけどあの衝撃をまた味わいたくて僕は実験を繰り返す。
それはまるで麻薬のように体の奥へと浸透していく毒のよう。
多分このころには何かが狂ってきてたのだろう、度重なる実験での僕はおかしくなってしまったのだろうか?
それとも何の成果もあげれないことにストレスを感じてこんな風になってしまったのだろうか?
あるいは初めから僕は狂っていたのか?
最近はこんなことを考えることが多くなった。
それでもここでやめたらそれこそ殺してきた命は何の意味もないじゃないかと自分に言い聞かせながら実験を繰り返す。
でも本当は気づいている。
この殺しはもはやただの娯楽だと。
いつの間にか逆転していた目的と過程。
不死の研究とは関係のない命を奪うという行為。
それは罰せられるべき悪。
すぐにでもやめるべきことだ。
けど・・・
「けど、やっぱおもしれーなコレ」
ナイフの刃に写る歪んだ口元からもらす言葉は彼の素直な感想。
恐れく誰もが異常だと嫌悪するその気持ちを男は当たり前のように肯定した。
「そうですか、それは良かったですね」
それはとても静かでそれでいて少し人を馬鹿にしたような生理的に不快と感じる声だった。
男は夜の街には不釣り合いな白衣を着こなし、目元に刻まれるシワや黒髪の中から覗く白髪がそれなりの年であることを物語っていた。
こちらへと向けられる笑みは心を落ち着けるどころかまるで逆なでするようなもので、男の第一印象は一言でいえば嫌な奴であった。
「あっ」
予期せぬ遭遇者に焦りながらも血濡れのナイフをズボンのポケットへと押し込む。
無理に突っ込んだためむき出しの刃が途中肌に突き刺さり鋭い痛みを感じたがそんなこと気にしてはいられない。
あんな血だらけのナイフ、それこそ見られただけで一発アウトだ。
このあたりは街灯も無いし、それこそすれ違うほどの距離に立たなければ気づかぬほどの闇夜だ、だからナイフの存在に気付かれているはずなどないのだが・・・
「そんな急にしまうと危ないですよ~。それに血はちゃんと拭わなきゃ」
寒気がした。
怖いと思った。
気づかれてたんだ初めっから。
体中に絶望が広がっていくのを感じる、それと同時に僕の人生は終わったと理解した。
興奮の熱はとっくに冷め、顔は蒼白。
そんな僕の様子に気づいたのか男はそっと肩に手を置き、
「大丈夫、そう緊張しないで。ゆっくりと深呼吸をしなさい、落ち着きますよ。安心しなさい私は君の願いをかなえるために来たのですよ」
そっと呟いた。
力強く威圧感のある手、学者を思わせる風貌とはうって変わっての格闘家のような太い腕だ。
「僕の願いだと?」
「ええ、君の願いは生物として至極当然で正しいものです。私と彼女はその手伝いがしたいのですよ」
「彼女?」
そう、彼が指摘するまで気づかなかった、ここにいる第三の存在に。
「あっ!!」
男の背後からひょこりと顔をのぞかせる人物、そこのは僕と同じ時堕学園の制服を着た少女が立っていた。




