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encounter  作者: RIO
34/59

2-17

「大西君まだかな・・・・」

星の見えない曇り空の下私はそう呟く。

ここは先ほどのホテルから数十メートル程離れた場所にあるなんのへんてつもない公園。

普段なら子供たちの騒ぎ声で賑やかなこの公園も夜になると寂しいくらいに静かで、まるで海の底に落ちたかのようにも感じられる。

そんな場所に私は一人。


いやその表現は少し違うか。

実際は大西君もいるのだが、彼は今トイレに行っていて居ない。

うん、正しくはこうだ。

たぶんあの雨でお腹でも冷やしてしまったのだろう。

まあ、つまり私は大西君のトイレ待ちのためにここにいる訳で・・・。


「はぁー」

それにしてもこんな風に人を待つのって退屈だなぁ。

これがもしデートでその相手を待っているっていうのなら話は変わってくるんだろうけど・・・。

辺りは雨が降ったためか熱を失いまるで音すらも凍てついたように寒く静かで・・・。

そんな音のない不気味な空間にいたからだろう、普段なら聞き逃すような物音に気付くことができたのは。


「-ッアー」


木々のざわめきにまぎれてくるこの音はなんだろう?

よくわかんないけど人の声?

うっ、何だろう?

先ほどまでは何も聞こえない静けさが不気味だったけど、いざ人の声が聞こえるとそれはそれで不気味に感じてしまうな。

そう思いつつもやはり一度意識してしまったものを無視するのは難しく、ついついそんな思いとは裏腹に私の耳はその声に意識を集中してしまうのであった。


「ハッ、何だよコイツ?ビショビショじゃん。うぇー泥とかついててマジ汚ねーし」

「たぶん雨のせいだろう、可哀そうじゃん震えてるし。うん?首輪がついてる、捨て犬か?飼い主に捨てられるなんて惨めなヤツだな、こんなんじゃこの犬も辛いだろう。・・・どうだ?いっそ俺たちでこの犬の苦しみを終わらすっていうのは」

「おっ、いいねーそれ。同感、こんな惨めに死んでいくよりはここで楽にしてやった方が確かにこの犬にとっても詩やわせじゃん。く~俺達って優しい~」

そうして闇に響き渡る下品な笑い声はこの寂しくも美しかった静寂を無残に穢していく。

「んじゃ」

ゆっくりと伸びていく腕は少しずつ犬へと近づいていく、むろんその命を終わらすために。

その死はもう避けようがない絶対的なもの、誰かの邪魔が入らなければもはや回避は不可能だろう。

そう誰かの邪魔がなければ・・・。


「な、何してるんですか貴方たち!」

夜の公園に似つかわしくない女の声、その声の主志堂水希の方へと二人の少年は一斉に振り返る。

「何、この女?」

そう呟く一人の少年。

なにって、そんなのこっちも分かんないよ。

何で私こんなことしてるんだろう?

あんな犬のために。

わかんない。


「ってか、結構可愛くね。なになに、俺たちと遊んでほしいの?」

もはや犬など眼中にないといった様子で私の方へと歩み寄ってくる男たち。

その眼にはもはや理性など宿っていない。

どうしよう、逃げたいけど怖くて足が動かない。

それにもし私が逃げてしまったらあの犬が・・・。


「あれ、逃げないの?なら、いいってことだよね」

目を瞑る。

男は笑いながら私の体に触れようとして、一つの雄叫びとともに目の前から吹き飛んだ。

「がっ!」

宙を舞う体、おそらくは自分が殴られたという事実に気づくことなく彼は完全に意識を失った。

「テメーら!!その子になにしてんだー!!!」

「大西君!?」

「なに、アンタ?」

言葉と手どちらが先だったか、突如として繰り出してきた男のパンチを学はそれこそ当たり前のように受け流し、同時に回し蹴りを食らわした。

「ぐっ!」

こうしていとも簡単に不良たちは学の手によって倒されたのであった。



「大西君なんで・・・・」

「なんでじゃない!なにやってんだこんなところで!!一人でうろつくのが危ないってわかんないのかよ!!」

初めて見る大西君の本気で怒った顔。

それは怒りよりむしろ心配の方が大きく出た言葉。

だから、

「ごめんなさい」

とすぐに謝ることができた。

「・・・いいよ、もう。君を一人にしたオレも悪いし。でっ、なんでこんなことに?」

「それは・・」


以下、回想


「なるほどね、この犬がリルと思ってそんなことを。でも志堂さん残念だけどコイツはリルじゃないよ」

「・・・そう、なんだ」

うん、それは何となく気づいていた。

世の中はそんなにうまくは回っていないんだからそんな偶然ありえないだろう。

結局私はリルを見つけることが出来なかったという訳か。

そんな悲壮感が胸を埋めていく中、

「けどよかったじゃん」

なんて言いながら大西君だけがにこやかに笑った。

「良かったって何が?」

「だってこれできちんと証明されたわけだろ志堂さんの手でも救えるものがちゃんとあるってことさ」

「あっ」

「志堂さん、自分は人を不幸にするなんて言ってたけどそんなことないさ。少なくてもこの犬は志堂さんのおかげで助かった訳だし。オレだって・・・その・・・志堂さんと今日一日一緒にいて結構楽しかったし、幸せだよ。ってアレ?」

目の前の突然の出来事に戸惑う大西学。

それもそのはず目の前の少女志堂水希が突如として泣き出したのだから。

「えっ、あの、志堂さん?」

学は分からない彼女の涙の理由が。

学のその言葉に彼女がどれだけ救われたかが。

ただ嬉しくて流した涙。

それが一年前の出会いでした。

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