2-15
そして語り始める、オレという者、オレという人物の始まりを。
それは今はただ記憶の端にある残りカスのような残像。
そんな古ぼけた写真の様なモノを頭の棚から取り出しながら志堂さんへと聞かしてゆく。
そう、あれはたしか十二年前。
当時、オレはまだ五歳という幼子だった。
季節は夏、蝉の鳴き声が嫌という程耳に残る中、気づけばオレはとある施設にいた。
どういった経緯でこの施設に入ったのかは覚えていない。
後で聞いた話だがなんでもオレ親に捨てられたらしく、この施設の前に置き去りにされていたらしい。
もしかしたらそんな過去を思い出さないためにも自ら意図的に記憶を封じ込めてしまったのだろうか?
まあ、そんなことは今語るべきことではないし、どうでもいいか・・・。
とにかくこのころの記憶がオレが覚えている中で最も古いものであり、今のオレの始まりでもあったのだ。
記憶のアルバムをめくりながら思い出すのは同年代の子供たちの騒ぎ声に、古い木造造りの建物特有の木の香り。
施設の先生たちは子供たちをみな平等にあつかってくれたがそれはあくまで表面上だけのものでありオレは愛されていると感じることは無かった。
それもそうだろう、結局は金で雇われている人たちなんだ、そんな人がこんな大人数の赤の他人のガキ共を本当の親のように愛せなんて方が無理な話、とゆうかそれでは施設自体がやっていけないだろう。
まあ、そんな環境で育ったためか幼少時のオレは今と比べだいぶん暗いヤツだった。
どれだけ暗かったかというと、道の隅を行進する蟻たちを永遠と数えていく位には暗かったかな?
そんなヤツだから友達なんて出来るはずもなくいつも陰からみんなの遊んでいる姿を眺めたいたっけ。
先生たちが一緒に遊ぼうと誘ってくれてもかたくなに拒んで、でも本当は寂しくて・・・。
馬鹿だよな、そんなの自分から動かないと伝わらないのに、本当は誰よりも愛されたかったのに。
自業自得とはいえ、あの頃のオレはいつまでも一人孤独だった。
実際体験してみれば分かるが誰にも心をあずけられずにいるのは相当堪える。
特に五歳という幼子には。
下手をすれば人格に多大な悪影響をあたえてしまうだろう、それほどまでに幼少時の経験と人格は深い関係性があるのだ。
オレももしかしたら今の自分とは異なる人間性の無い人物になっていたかもしれないと考えるとゾッとする。
そんなオレが人格者とまではいかないが、人並みになれたのはやっぱりあの人のおかげだろう。
「あの人?」
話を聞いているう内に落ち着きを取り戻したのだろう志堂さんは比較的冷静になってきていた。
「うん、春華さん。俺を引き取ってくれた養母さんのことだよ」
春華さんを養母さんと呼ぶのは正直まだ少しの抵抗がある。
それは別に春華さんのことを母として認められないという訳ではなく、単に初めて会った時の年齢が決して母なんて呼べるような歳でなかった事が一番の原因だろう。
十二年前だから確かまだ十九歳だったはずだ。
そんな歳の女の人を母さんなんて呼ぶのはやはり幼心なりに抵抗があったのだ。
どちらかというと姉さんという方がしっくりくるくらいだ。
十二年、十二年か。
言葉にすれば短いが生きてみれば随分と長いものだったな。
「じゃあ、大西君は今のお義母さんに引き取られたんだね?」
「うん?ああ、そうだよ」
自分で肯定しておいてなんだが、引き取られたという表現は間違いな気がする。
どちらかというと誘拐?
物騒な言葉だけどなんだかこっちの方がしっくりくるなぁ。
なんせあの人いきなり
『今日から君私と暮らすことになったから。早くついてきなさい』
なんて言ってきたんだぜ。
初対面のオレにいきなりだもんな~、いや、さすがにビビった。
もう、拒否権なんて無いってかんじでさぁ。
まあ、それにヒョイヒョイついていったオレもオレなんだけどな。
ちなみに許可はきちんと取っていたそうだ。
「最初は不安だったよ、だって見知らぬ女といきなり暮らすことになったんだ、不安がらない方がおかしいってもんだ。けど考えてみたらさ、あの施設のヤツラだってオレからすれば見知らぬ赤の他人だろ?だったらさ、この人について行ってもなんの問題もないように思えるようになって、あんな集団といるよりこの人と個々で触れ合っていけばこの人も自分のことをちゃんと愛してみてくれるんじゃないかなって、そんな馬鹿みたいな小さな願いをたくしてついて行ってみることにしたんだ。で、オレが今養母さんに愛されえるか?なんて聞かれると正直答えずらいけどさ、少なくてもこの十二年間はとても楽しかった。家族がいて良かったって心から思えるようになった」
言っていて気恥ずかしくもなったがここでやめたら志堂さんがまた混乱するかもしれないと思い最後まで言葉をふりだす。
「オレは大なり小なり家族のいない寂しさと、いることの幸せを知っている。だから理紗ちゃんのリルが居なくなった不安も少しは分かっているつもりだ。いくら犬だからって家族であることにかわりはないからな。オレが理紗ちゃんのために動いている理由なんざその程度さ、理紗ちゃんに自分と同じ思いはしてほしくない。ただそれだけの事なんだよ。志堂さんはどうなんだ?オレとは理由は違うだろうけど理紗ちゃんを助けたいっていう思いは同じなんじゃないのか?」
なげかける問い。
それに志堂さんはビクリと反応する。
「私、私は・・・」




