2-14
大西君を部屋から出さないようにと彼の手を握の私の手。
突然手を握られたためだろう大西君はギョッとした目でこちらを見る。
「志堂さん、どうかした?」
水希の突然の行動にも冷静に答える学ではあったが、心の内ではかなりの動揺をおこしていた。
なんせ偶然とはいえクラスの女子と一緒にホテルに入ってしまったのだ、健康な男子高生ともなれば変なことを考えるなという方が無理な話である。
おまけに志堂水希は学校一の美人ときている、学からすればこの状況はまさに生き地獄、早くこの場を立ち去りたいと思うのも道理である。
だが、一体何のつもりなのか彼女、志堂水希はそれを許してくれない。
(オイオイ、何なんだよ?ここにオレがいてもいいことはねぇーぞ)
水希の不可解な行動に学はそんなことを思う。
だがそんな気持ちとは裏腹に水希の女らしい手に掴まれたことで心臓の鼓動が高まっている自分がいることに学も気づいていた。
「体、冷たいよ。今外に出たら風邪引いちゃう。ちゃんと温まらないと」
学の体が予想より冷えていた為だろう水希は心配そうな顔をする。
いや、これは心配というよりどちらかと言えば困惑してるような・・・。
とにかく彼女はオレが外に出ることを快く思っていないようだ。
「大丈夫だって、このくらい。オレ体丈夫な方だし、こんな雨何ともねぇーよ」
へへっと、いかにも平気そうに語る学ではあったがそれが嘘だという事に水希はすぐに気づいた。
何故ならそう語るその唇がすでに小さく震えていたからだ。
学もそれに気づいたのだろうあわてて水希から顔を逸らす。
「なんでそこまで必死にリルを探そうとするの?・・・私といるのが恥ずかしいから?だったら私が外に・・・」
「違う!」
こんな今にも風邪を引きそうな人を外に出すくらいなら、自分は先ほどの玄関ホールにでもいよう。
そんな水希なりの優しさのこもった言葉だったが、学の言葉にその優しさは断ち切られる。
「ちがう、違うんだ志堂さん。いや、確かにこんな場所で二人っきりなんていう気まずさもあったけど、オレはただ純粋にリルを見つけてやりたいんだ」
その言葉に水希の心は言われようもなき程にかき乱される。
なぜ、なぜ彼はこうも赤の他人のためにここまで動くことができるのかと。
水希自身もなぜ自分がこうまで大西学という人物に心が乱されるのか分からないでいる。
あんなにも人と深く接することを拒絶していた自分が今ではこんなにも大西学という人物に近づこうとしている。
その事実が彼女をさらに混乱させる。
だが、それが好意からかそれとも敵意か、はたまた別の何かから来るものかは分からないが、彼女がこうも他者に対し感情的になるのは”あの日”以来のことだった。
十二年前、自らの妹死なせ、母すらも死に追いやった自分。
何よりも大切なものを自らの手で壊してしまった私。
全て私のせい。
結局私は自身の大切なものを守るどころか壊してしまうようなオロカモノだったんだと自覚できた。
だからあの時より私は”ただ在るだけの”存在になろうと思った。
自己をださず他者を拒絶し人形のように生きようと、そうすれば不幸はもう起きないと思ったから。
けれど、自身と何も関係のない少女のために動こうとする彼を見ていると胸がざわつく。
何なのこの感情は?
なんで私はこうも己の内を見せてしまってるの?
これじゃ人形どころか・・・。
ソウ、マルデニンゲン二モドッタミタイダ。
大切なものを守れなかった私。
大切じゃないものでも守ろうとする彼。
そこで思う、もしかしたら私は彼に嫉妬していたのかもしれない、自分とはあまりに違うその眩しすぎる姿に。
そうそれはまるで空を飛べない人が空を飛ぶのを夢見てた頃のような遠すぎる夢。
今、私の心はジグソーパズルのようにバラバラになりかけている。
十二年前の記憶と大西学への思いがごちゃまぜとなり心のダムはすでに崩壊寸前、言動も思考も滅茶苦茶になってきている。
「そうよ!私が約束したんだもん。大西君は関係ないじゃない!!なのにどうして・・・」
感情をむき出しにして話す水希、目は少し涙ぐんでいる。
それほどまでに認めたくないのか、いや本当は大西学のように誰にでも優しい人になりたかった自分と今に自分のあまりの差に苦しんでいるのか。
彼女の胸のうちなど知るはずもない学はその様にしばし言葉を失うがやがて、
「志堂さん、あの場にはオレもいたんだ、それは約束したも同じだろ?」
と、何時にもなく真剣な顔つきで答えた。
「なんで?なんで、どうして?どうしてそこまで人のために動けるの?」
「それは志堂さんと同じだと思う。あの子を助けたいと思ったから・・・」
「私は!!私は、そんなんじゃない!・・・私は、ただ・・・」
(ただ大西君みたいに変われるかもと思っただけ)
その最後の言葉は言えずに水希は黙り込んでしまう。
そんな水希を見て学も口を閉ざすが、これでは何も解決しないと自ら口を開く。
「志堂さん。一つ言っておくがオレは困ってる人なら誰でも平等に助けるっていう訳じゃねぇーぜ。そもそもそこまで出来た人間でもねぇーしな」
「だったら何で?」
そこで学は再び口を閉ざす。
いまから話すことは学にとっても気分の良い話ではないようだ。
沈黙はしばらく続いたがやがて彼は私にその事実を話してくれた。
「・・・実はオレ親に捨てられたんだ」




