2-10
「志堂さん、どうかした?あっ、もしかしてなんか用事でもあった?」
私が何時までも黙っているからだろう大西君はそんないらない心配をしてくる。
「ん~、大丈夫。それよりその子迷子かなにか?」
私の横で目に涙をためこちらを見つめてくる少女この子はいったいどうしたのだろうか?
「う~ん、それがさ、オレが聞いても全然答えてくれなくてさぁ。志堂さん、ちょっと聞いてみてくれない?」
うっ、やっぱりそうくるよね。
私も子供は苦手な方なんだけど・・・この際そんなこと言ってられないかと、腹をくくる。
「えっと、どうしたのかな?黙ったままじゃ分からないよ。なにか困ったことがあるならお姉ちゃん達に言ってみて。ねっ?」
「・・・・・・・・・」
依然続く沈黙。
これ以上の手段が思いつかない私たちは互いに途方に暮れる。
もういっそうのこと警察にでも送ろうかと思いたったとき、
「・・・・が、いないの」
っと、風に流されるほど小さく儚くだが、勇気のこもった声で初めて少女が言葉を発した。
「え?」
うまく聞き取れず再び耳を澄ます。
「リルがいないの・・・」
今度は確かに聞き取ることができたが、それが少女の限界だったのだろうその後は再び黙り込んでしまった。
「リル?」
聞きなれない言葉を口に出してみる。
何のことだろう?
何かの名前?
よくわからず頭をひねっていると、
「ああ、犬の名前だよ。この子の家で飼っている」
そう、思わぬところから答えがでてきた。
「えっ、大西君。この子のことしってたの?」
「ああ、この子理紗ちゃんって言ってさ、オレん家の近くに住んでんだ。それでよくこの子が散歩に連れて言っている犬の名前がたしかリルっていったはず」
「・・・・・」
「どうかした?志堂さん」
「うん、別に。ただそこまでこの子のことを知っているのに私が聞くまでこんなことも聞けなかったんだ大西君」
「あっ」
大西君の口から洩れる痛みのこもった一言、そこで気づくなぜ私はこんなにもトゲのある言い方をしてしまったのだろうか?
なぜこんなに腹が立っているのだろうか?
この理紗ちゃんをより不安な気持ちにさせたから?
たぶん其れは違う。
この気持ちはそんなんじゃなくてもっと単純な、自分自身の気持ちから零れ落ちている気がする。
そう、何か自分の思っていたことが裏切られたかのような。
だとしたら私はこの大西学という人物に対してどんなことを思っていたんだろうか?
「そうだよな、オレがもっとしっかりしていればこの子もこんなに不安がることもなかったんだ」
ポツリと漏れる言葉。
見ると大西君は目を伏せ、本当に悔いているように見える。
そんな姿を見て気づきた、なぜ自分が起こっていたのかが。
簡単な理由、私は単に大西君には気づいてもらいたかったんだ、この子の気持ちを。
そんなのただの私の羨望。
無茶で理不尽なことだけど大西君にはどんな些細なことでも人を傷つける立場にはたって欲しくなかったのだ。
そんな馬鹿な思いを抱いてた事を素直に反省し彼に頭を下げる。
「ごめん、言い過ぎた。私なんかが言うべきことじゃなかったね」
そうだ、他者と関わらないようにしてきたのになんで私はこんなに感情的になっていたんだろう。
こんな感情もう捨てたはずなのに・・・。
彼には申し訳ないことをしてしまった。
だから謝った。
けれどそんな私の態度を見て彼の方があわてだす。
「ちょ、何してんだよ!今のは完全にオレが悪いんだから志堂さんが謝ることなんて何一つないだろ。俺の方こそゴメン。なんか志堂さんに嫌な役割押しつけて」
そうして私と代わるように頭を下げる大西君。
そんな彼の姿を見ていると何故か胸が温まってつい顔がほころんでしまう。
そしてうれしく思った。
ああ、やっぱり彼は人に対し本当に優しいんだと実感できたから。
そんな彼に触発されてしまったのだろうか?
この少女を自分が助けてあげたいと思ってしまったのは。
思えばこれがあの忌まわしい日から他人を拒絶していた私が初めて自分から人に近づこうとした瞬間だった。




