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夜風の冷たい風がサラリと病室へと流れ込んでくる。
月明かりを浴び風に髪をなびかせるこの少女は何だかとても絵になっていた。
「何なんだ君は、どうしてオレの名を?」
自分のことだが何とも微妙な質問をしたものだと思う。
他にも大きな疑問なんてあるだろうに。
とは言えこれも気になることだし何よりもまずは接触が肝心だしまあ良しとしよう。
別に変なことは言ってないし。
ウン、言って無いはずなんだが、なぜ彼女はこんなにも困惑した眼差しをこちらへ向けてくるのだろうか?
そんな顔をされるとこちらも困る。
「えっと・・・どうかした?オレなんか変なこと言ったかな」
「いや、ただ君とはいったい誰に言ってるんだ?」
「ハッ?」
えっ、なんだつまり彼女はオレの質問が自分に向けられたものだと理解できていないということか。
「誰にって君だよ、君!他に誰がいるっていうんだよ」
少し失礼かもしれないが次は分かりやすく指を指してやる。
それでようやく理解できたのか
「なんだ私の事か、それならそうとちゃんと言え。君なんて変な言い方しないでさ。私にはセナという名があるんだ、今後、私を呼ぶときは名で呼べ」
顔に似合わない少し乱暴な口調でそう語る。
「えっ名前?」
「そう、名前。ちゃんと名前で呼ばないとお前の質問にも答えないぞ、大西学」
(そう言われてもな、見知らぬ女の子を急に名前で呼ぶのは少し抵抗がある。せめて苗字ならまだしも)
「あの、どうしても?」「どうしてもだ」
(なんだこのわけの分からん状況は。つーかオレも何てれてんだよたかが名前だろ、べつに臆することねーさ。気合入れろ気合!)
「あーじゃあ、セナさん・・・」
自分なりの精一杯の一言だがそれを彼女は待ったと、止めた。
「何故、さん付けをするんだ?呼び捨てで良いからやり直せ」
「なっ!!」
(何なんだよこの女、本当に!普通に呼んだだけであれだけ恥ずかしかったのに次は呼び捨て?バカか!)
くそ、そもそも何故オレはこんなにもこの女に対してこうも動揺してるんだ?
この女が美人だから?
たしかにそれもあるだろうなんせ今まで見たことも無いほどの美人なんだから。
けど本当にそれだけか?
本当にそれだけでこうも動揺するものか?
何かちがう。
そう何かが違うんだこの女そんな気がする、だからなのか?
「オイ、いつまで黙ってるんだ」
我慢の限界が来たのだろう、彼女はベッドから立ち上がるとオレの方へと歩みよるってくる。
足音一つ立てない美しい足取りだ。
だが彼女の静かな足取りとは対照的にオレの脈動は彼女が近づくごとにその激しさを増していく。
(何だ、この感覚、体がうずく)
見ると彼女は目の前まで来ていた。
息を呑む、それほどまでに美しかった。
顔とかそんなのじゃなくてもうその存在がとても綺麗に見えた。
自分という存在がとても小さく見えてしまうほど。
それが嫌で、自分を縛るこの謎の感覚が苦しくてつい彼女から目をそらす。
そんなオレを見て彼女は不適に笑い
「はぁー今日は名前を呼んでくれないみたいだし帰るかな、元々顔をみせるためだけに寄ったんだしな。じゃあな、大西学また会いに来るよ」
と独り言のようにつぶやいた後まどから飛び降りていった。
「ちょ!!!ここ三階!」
ベッドから飛び出し辺りを見渡したがそこに彼女の姿はすでに無く、そんなオレをあざ笑うかのごとく寒空の下星たちだけが美しく輝いていた。
逃げる、逃げる、逃げる。
ただひたすら逃げる。
あまりにも走りすぎて意識が朦朧としてくるが止まる訳にはいかない、止まったらあの手に捕まる。
だから逃げる。
だけどもう気づいてるどんなに逃げようと無駄だということに。
だって相手は獣だどうあがいても獲物である俺が逃げる術などありはしない。
ほら、そうしてるあいだにやってきた。
俺の臓物を取り出そうとあの手が伸びてくる。
意識が削られる、視界が赤く染まる、何も感じない。
狩が終わったあと獣は笑っていた血だまりのなか狂ったように一人楽しく月の下で。
第1章 終
いやーやっと終わりました1章続けて2章も頑張っていきたいと思います。
どうか最後まで応援よろしくお願いします。




