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「何か大事なお話があったようですけど、挨拶を含めた礼儀をおろそかにしてはいけませんよ」

「うぬぅ、今後気を付けるのじゃ……」

「それで琥珀、何を言おうとしてたの? 孤児院の子供を達を森に連れて行くとか……詳しい話を聞きたいんだけど」


 アンナに「めっ」とされた琥珀は頭の上の狐耳を一度ペションとさせていたが、私が尋ねるとハッとしたような顔になって慌てて今日あった事を楽しそうに喋り出した。

 卒業生、とは孤児院を出て行った、元施設利用者の事だろう。そう呼ぶと聞いた事がある。孤児院を出て成人して冒険者になった……という人から何やら影響を受けたらしい事くらいは何となく分かるけど。

 詳細を話すよう促すと、琥珀が一生懸命説明をしてくれる。話がぽんぽん飛んだり、情報が前後したりして、「それはこういう事?」と所々確認する必要はあったけど、概ね理解する事はできた。


 この話のメインは、その孤児院の卒業生のトネロさんという男性だった。そのトネロさんが、今度パーティーを組んでる仲間と一緒に孤児院に在籍している子供を連れて森に行くのだそうだ。ちなみに連れていく子供は全員で三人。その子達は卒業後冒険者になる事を考えているらしくて、つまり職業見学……のような事を卒業生が請け負っているらしい。

 そこに琥珀も一緒にと誘われたので私の許可が欲しい、という事だった。

 うん、許可を取ろうと考えられるようになったのは成長した。そこは偉いと思う。


「な? いいじゃろ? トネロって奴は、森の中でもネッカの花がないとこまでしか行かんと言っていたから、琥珀なら余裕なのじゃ」

「それは、琥珀なら大丈夫だろうけど……」


 ネッカの花、とは人里では咲かない植物の名前だ。良く目立つ黄色い花を一年中咲かせる背の低い植物で、日陰でもよく育ち街中の空き地や農地の隅にもいつのまにか根付いているけど、人の生活圏の近くだと花がつかない。退化しているが実はネッカの花の起源は魔植物なので、このような特徴を待っている。

 地図でここまで、と示せるものではないけど。魔物が出る場所では少し分け入ると生えているので、この花が咲いてる所より奥に行くのは金属札以上じゃないと推奨されませんよ、という良い目安になるのだ。


 一番下の木札、次の革札から普通は半年くらいで金属札……銅級に上がれるので、ネッカの花を目安に活動する時期は短いけれど……これは冒険者以外の人達の方がよく使う。

 ネッカの花が咲いてない所なら、魔物がほとんど出ないから。ゼロでは無いけど、子供でも脅威にならないような……それこそ私が買い取ってるクズ魔石の取れるような弱くて小さい魔物くらいしか出ないのでネッカの花を頼りに森の恵みを採りに入る地元の人はそこそこいる。

 琥珀が最初に助けた孤児院の子供達は、ネッカの花の事は分かっていながらも「すぐそこにマロに実が落ちてる」「またその向こうにも」と繰り返して思ったより奥に入り込んでしまって起きた事故だった。

 他にもはぐれた魔物が奥から出て来る事も稀にあるけど、たしかに琥珀なら同行してても余裕で対応できるだろう。むしろそういった場合とても大きな戦力になる。

 しかし冒険者の活動内容を教える、にはちょっと都合が悪くないだろうか。危険な仕事でもある、と教えるその場に琥珀がいたら子供達が正しく学べない。勉強の時は机を並べている友達だが、琥珀は金級冒険者なのだ。一般の冒険者志望の子供が参考に出来る事は何もない。


「そのトネロさんは琥珀が金級だって知らないの?」

「うんにゃ! 琥珀が表彰されたのもバッチリ知っておったぞ!」


 誇らしげにそう言う琥珀に、私は予想がちょっとはずれておや、と内心首を傾げた。

 てっきり琥珀が「孤児院に遊びに来てる普通の子供」と思われて他の子のついでに誘われたのかと思ったのだが。そうではないらしい。冒険者の仕事を学ぶ、なんて初めての体験に金級冒険者なんて連れて行ってしまったら絶対その子達に悪い影響が残ると思うのだが。


 ただでさえ琥珀は「こんなの簡単じゃ!」なんて言って孤児院の年下の子供に良い格好をしたがることが多いのに。それでは危険を学べない。

 冒険者は、華々しい話ばかりが有名になりやすいが、危険も多くて大変な仕事だ。リンデメンでも毎年何人かは命を落としているし、その多くは新人になる。職業を決める前に、本当に冒険者になるのか、と怖がらせないといけないくらいなのに。


 普段仲良くしている、でもちょっと抜けたところのある琥珀が気軽に森を進んで簡単に魔物を倒すところを見たら、慢心が生まれてしまわないだろうか。

 実力がかなり離れてる強い冒険者が加わるのは、たしかにメリットもある。強い人から学べる知識や技術も多いし、もしもの時にも初心者達の安全を確保出来る。

 でもその場合は私が初心者講習で教わった『暁の牙』の人達くらい、徹底的に引率役が出来ないとダメだろう。周りを警戒し、基本見守り、森を歩きながら冒険者として必要な知識を教え、必要な時は前に出るような判断が出来る人。


 ……他の子に良いところを見せようと、真っ先に飛び出して自分で魔物を倒してしまう琥珀しか思い浮かばないなぁ。

 それに琥珀は彼らと実力が違いすぎる、普通の人に参考にできる所は無いのに。天才肌なので人に教えるのも得意じゃないし……。

 実際「なんとなく」で冒険者に必要な戦闘技術や索敵、琥珀の言う「妖術」も使いこなしているのはすごいんだけどね。

 ……教師役には向いてない琥珀を、あえて連れて行きたい理由は何なのだろう。

 向き不向きを考えずに「金級冒険者だから」と声をかけたのだろうか?


「このトネロって男はな、最初は琥珀の事をその辺の子供じゃと甘く見て、他の子供達と一緒に『武器の使い方を教えてやるよ』なんて言いおったんじゃ。それをな、琥珀が手合わせじゃと言うその男を素手でぽーんと投げてやって、実力の差を分からせてやったんじゃ。周りで見てたチカやマット達は大歓声じゃったぞ」

「え? 相手の人怪我させてないよね?」

「当たり前じゃ〜。そこはこう、琥珀も手加減してやったぞ。弱いものいじめはしないってリアナと約束したからな。ちゃんと、落ちてきたとこを頭を打たないように受け止めてやったのじゃ」


 琥珀の言葉にホッと胸を撫で下ろした。良かった、怪我人は出なかったみたいで。でも、自分の後輩にあたる子供達の前で、獣人の子供にしか見えない琥珀に負けてしまったそのトネロさんにはちょっぴり同情する。


「それでな、こんなに強い冒険者にはぜひ、週末に森に行く時についてきて欲しいと頼まれてな。どうしても、というから仕方なく頼まれてやったのじゃ」

「……それは、依頼で?」

「? 孤児院のチビ達の兄貴分にちょっとお願いされたのを聞いてやるだけじゃぞ? このくらい手を貸してやるのは普通だってその男も言っておったし」

「分かった。冒険者ギルドは通してないのね」


 金級冒険者に頼み事をするのに、知り合いなのを利用してタダで通すとは……。

 私もお世話になってる孤児院だし、ミエルさんから依頼が来たなら冒険者ギルドを挟んで奉仕活動の一環として無償で仕事を受けても良いのだけどこれはちょっと。

 知り合いに頼まれて買い物に行くのとは訳が違う、きちんとした冒険者活動なのに。

 

 それに聞いた感じ、琥珀をあおって協力させてる印象があったので、それも気になる。

 琥珀本人は煽てられて乗せられてる自覚は無いのだろうけど、説明を聞いていた私はそのトネロさんの事をちょっと警戒した。


 少し気になる話になりそうなので、孤児院のミエルさんに内容を確認しにいかないと。

 これが私の考えすぎで、「冒険者志望の子供達に、普通は見られない金級冒険者の実力の一端を見せたい」とかだけなら良いんだけど……。



 


「無自覚な天才少女は気付かない」コミカライズ1巻が

シーモアさん先行で配信始まってます!!

✧\\ ٩( 'ω' )و //✧ 

他の電子書籍と紙書籍の発売は来年2023年1月4日になります!!紙本派の人はお楽しみに!!


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