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26日分を投稿後に書き直してます

昨日22時前に読んだ人はお手数ですが26日更新分の「発覚」を読み直してください

ほんとごめんなさい


 

「ただいま帰ったのじゃ〜」

「戻りましたよ……と、なんか重い雰囲気だね……何かあった?」


 開封できないままテーブルの上の封筒を眺めたまま物思いに耽っていた私は、琥珀とフレドさんの声で現実に引き戻された。

 窓の外を見るともう夕方だ。子爵様の屋敷から帰ってきたのはまだ昼過ぎだったのに……。二人が依頼を終えて帰ってくるこんな時間までぼんやりしてしまったみたいだ。


「それが……」


 涙を拭うタオルを渡してくれた時からずっと見守ってくれてたアンナが、フレドさんに事情を説明してくれている。とは言っても、私がアンナに伝えた「家族に私の居場所が知られてしまって、迎えに来ると言っている」という事しか伝えられる事はないのだが。


「居場所を知ったら家族が連れ戻しにくるかもしれないから、それから守ってもらえるようにって後援になってもらったはずだよね……? どうなったか、詳しく話聞いても良い? それとも、もうちょっと時間おいた方が良いかな」

「……琥珀ちゃん、下のカフェに行きましょうか。夕飯前ですが今日は特別ですよ」

「いや……琥珀も。琥珀も聞いて欲しいの。パーティーの仲間だから、琥珀にもここで話を……」


 やんわりと琥珀を遠ざけようとしてくれたアンナを止める。

 琥珀の実家の話は聞いていたけど、今まで私の話はふんわりとしか話していない。特に、私が家出して偽名を名乗ってる事とか。

 今までは、「うっかり本当の事を話してしまうかも」と耳に入らないようにしていたが、最近は依頼でも守秘義務をしっかり守れている。

 ギルド職員がわざと内容を聞き出す試験のようなものがあるのだが、琥珀はそれに引っかからずちゃんと依頼の内容と依頼主を秘密に出来ていたし。

 先の表彰された活躍と合わせて、今度金級に昇格する事にもなっている。実は私も一緒に金級になるのだが、せっかく評価していただいたのにあの事件から全然冒険者として活動出来ていないな……。


 なので、琥珀の内面も少し成長したみたいだし、これをきっかけに私の過去について共有したいと思って。

 もう子爵様にもこうして話が行ってしまってるのなら、今更琥珀が知っても困る事も無いし。


「えっと、ルームサービスでカフェから何か頼んで、食べながら話そうか」


 そう思って「琥珀も一緒に」と言ったのだが、アンナの言葉で完全にカフェで甘いものを食べる気分になってたんだろう。琥珀が盛大にお腹を鳴らしたので、私は提案を加えた。



「う〜ん……家族のとこに居た時のリアナは、よっぽどすごくなかったという事か?」


 アンナとフレドさんはコーヒーを、私は紅茶を。琥珀はミルカのシャーベットを食べながら、実家を出るまでの簡単な説明をした。

 家族が皆各分野で活躍する天才ばかりで、子供の頃からその天才達から直接色々な事を教わっていたのだと琥珀に話した。

 自分では頑張ってるつもりだったけど、その家族達から一度も褒められた事が無く、元々家族仲は良好とは思っていなかったが、新しい家族として義妹を迎え入れてから問題が顕在化された事。

 狩猟会で、私が功を焦って事故を起こしたと思われたのをきっかけに家出してしまった事を琥珀にも分かるように一つ一つ説明していった。

 大人しく聞いていた琥珀が開口一番そう尋ねてきたが、質問の意図がよく分からない。


「? 家を出た時よりは、多分成長してると思うけど……出来る事とかはそんなに変わってないんじゃないかな」

「琥珀ちゃん。リアナ様は、そのアジェット家にいた時から今のように、何でも知ってて何でも出来たんですよ。お勉強でも魔法でも剣を使った試合でも、私の知る限りでは同年代では全ての分野で一番を取ってましたね」


 何でもなんて、そんな訳無いと訂正するが、私の発言は何故か聞かなかった事にされて話が進んでしまう。 


「ええ?! ……じゃあ、琥珀が知ってる今のリアナと変わらん、何でも知ってて何でも出来るこのリアナの事を……一度も! 一回たりとも褒めなかったのか?!」

「そうなの! 本当信じられないですよね琥珀ちゃん!」


 どうやら琥珀は家族が何故私を認めなかったのか理解出来ず、「その時は実力が無かったから褒めなかったのでは」と仮説を立てたようだ。

 

 しかし琥珀が誰でも私を褒めて当然、みたいに思ってるのがその発言から窺えて、ちょっとキュンとしてしまった。嬉しい。

 憤慨して大変白熱し始めたアンナと琥珀、二人の対応にちょっと困って、助けを求めるようにフレドさんの方を見てしまう。


「いや俺もさ〜、それ聞いた時リアナちゃんの家族にほんとふざけんなよって思ったから……」

「フ、フレドさんがですか?」

「あ〜、ごめんね家族の事を悪く言っちゃって」


 ニコニコしたまま突然毒を吐いたフレドさんにびっくりしながらも、話を元に戻す。

 家出した私だが、人工魔石がきっかけで勝手に書かれた記事のせいでその家族に見つかってしまった。迎えに来ると一方的に連絡が来たけど、正直会いたくなさ過ぎてどうしようか困ってるという話までをした。


「リアナちゃんの才能ならどの道……いつかは見つかってしまうのは予想出来たから、だからこそこんな時のためにあらかじめ貴族を味方につけておいた……はずだよね?」

「そうですね、子爵様からはほぼ一方的に迎えに行くと連絡してきた家族から、守ってくれるとは言われてますが……正直、あまり期待できないだろうな、と思ってしまって」

「……ああ〜……」


 問い合わせがあって「錬金術師リオ、いやリアナ君の事だな」とは気付きつつも一旦は知らないふりをしてくれた。

 けど表彰式についてだけを見ても、そのうち家族側に譲歩するのではと不安を感じてしまう。その話を伝えていたフレドさんもこの意見に同意してくれた。


 確かに子爵様との間には「私が人工魔石を製造販売している限り、子爵様は私をきちんと守る」という契約を結んでいる。

 だから事件が起きた時に、私の身の安全を守るためにこうして警備のしっかりしたホテルを手配してくれた訳である。義務だから。


 しかしこれは後援となる貴族と平民の間で使われる契約だ。自由度も低い。

 元々は他の貴族からの手出しを防ぎ、後援となる貴族に「具体的にこういった内容でちゃんと支援します」「不当な扱いはしません」と縛るためのものだ。


 私は、この「支援」の中に「確執のある家族がいる、もし接触してきた時には保護を求める」と盛り込んである。

 当然、ある程度の状況は想定していた。「私の家族を含む第三者によって略取などが行われようとしている時、ベタメタール子爵は錬金術師リオ及びリオの仲間の身を私兵を派遣して守る」とか、他にも色々。

 家族が私を捕まえて無理矢理連れて帰ろうとする……とか、そのくらいの事が起きれば守るための口実に出来るだろうけど。でも、まだ何もしていない外国の貴族を領地に入れないとか、そこまで出来るものではないし。


 確執があると伝えてる家族との間に入ってはくれるだろう。

 一番の問題は子爵様が間に入った、その後事態が好転する未来が全く描けない事だろうか。

 

「そうか、あの気弱そうな男が家族から身を隠すのに役に立たないからリアナは困ってるんじゃな」

「琥珀、相手は貴族だから…………外で言っちゃダメだよ」

「分かっておるぞ」


 琥珀の言葉を反射的に否定しかけて「いや、否定するのは違うな」と思い直して忠告に止めた。


「あー……この街さ、暮らしやすいから俺はホームタウンにしたんだけど。つまり冒険者……というか平民が働きやすい街なんだよ。税金も物価もあまり高くないし、冒険者ギルドの力が強いから理不尽からしっかり守ってもらえる。この街は多分錬金術師ギルドとか、商人、職人ギルドとか他も同じ感じだと思うんだけど」

「そうですね。平民目線で見ると魅力的な街だとは思います」


 表彰式の件で子爵に怒っていたアンナもそこは同意した。私も、誘拐を解決してお礼を言われた時とか、魔石事業などで関わり始めた時は偉ぶらずに同じ目線で話してくれるし純粋に「良い人だな」と思っていた。いや、今でも良い人だとは思っているんだけど。


「暮らしやすいのは、平民の声が反映されてるから……つまり、この街を治めてる子爵が、ギルドとかの主張を受け入れ続けてるせいだった」

「……なるほど」


 すごく納得できた。……ああ、そうか。良い人だと感じたのは、良い意味でも悪い意味でも、貴族らしくなかったからで。

 人の意見をちゃんと聞いてしまう人、だったんだろうな。それで自分も損をしてたし、周りにもかなり負担を強いていた。子爵の奥様などは、「だからゴード一家と縁を切ってくれと婚約者時代から言っていたのに」と愚痴までこぼしていたし。


「いや、ほんと……申し訳ない」

「? どうしてフレドさんが謝るんですか?」


 スーーッと流れるように美しい動作でテーブルに手と額をついて謝罪する格好になったフレドさんにギョッとしつつ、思い当たる事がなかった私は疑問を口にした。

 アンナも不思議そうにしている。

 琥珀はフレドさんをチラッと見ただけで、ミルカのシャーベットを食べ終わった底に溜まっている溶けた雫を一生懸命スプーンですくって舐めていた。

 

「この街にリアナちゃん連れてきたの俺だから……」

「あ、……いえ、確かにそうですけど、フレドさんのせいでは……」

「それに、この事態を予想出来ずに軽々しく『貴族の後援を得よう』なんて提案もしたし。誰の力を借りるかもっと吟味してれば、少なくともリアナちゃんがここまで困るような事にはなってなかったと思う」


 テーブルに額をつけている格好なので今の表情は分からないが、本気で申し訳なく思ってるんだろうなというのは伝わってきた。

 確かに、ベタメタール子爵じゃなくて、もっと貴族的な考え方をする人だったら私の家族とのトラブルは上手く回避出来てたのかもしれない。でもそこはきっと、私が「ここで暮らしていきたい」と思う街ではなかったと思うから。

 それに、結局決めたのは自分である。誰かのせいではない。子爵に人工魔石事業の話を持ちかけると判断したのも私だ。

 とりあえず、フレドさんに頭を下げられるなんてすごく落ち着かないので大丈夫ですと言おうとしたのだが。


「いや、ダメだな。こう言われたらリアナちゃんは絶対許しちゃうに決まってるんだから。ごめん、今の無かった事にして」

「は、え、ええ?」


 ガバッと勢いよく頭を上げたフレドさんと、その内容にまたうろたえて声をかけ損ねてしまった。……確かに、動揺したまま「大丈夫です」と答えるところだったな。私の事をよく分かってると感心してしまう。アンナの次くらいに理解してるんじゃないだろうか。

 それは良くないし、許されたくないという事なのだろう。

 何となくだがそう理解した私はそのまま、さっきの話にはこれ以上触れずに話を進める事にしたのだが。


「……せめて、俺のミスなんで、少しでも挽回を……えーと、次に行く場所はこんな事が無いようにちゃんと調べるね……他にも、希望を聞いて候補もいくつか出して……」

「え?」


 フレドさんが気を取り直すように口にした言葉に、思わず途中で疑問の声を投げかけてしまった。

 どうしたの、と言いたげなフレドさんがハッと何かに気付いたようで眉を寄せる。


「まさかこのままリンデメンで暮らすつもり? それはやめた方が良いと思うよ……いや、決心したなら勿論力になるけど……」

「いえ、そうではなくて……あの、フレドさんも一緒に来てくれるんですか?」


 目を合わせたまま、二人でしばらく無言になってしまう。

 しばらく固まってたフレドさんだが、わざとらしく目を逸らすと強引に話を変え始める。


「えーと、ごめん。なんか、自分のせいだって思ったら頭がわーってなってたみたいで。ついていく気満々で話しちゃったけど、今のも聞かなかった事に……」

「ぜ、絶対嫌です!」

「……う」

「あ、嫌っていうのは、フレドさんがついて来るって話を聞かなかった事にするのが嫌って事で、その、……フレドさんにも、一緒に来て欲しくて……」


 誤解されそうな返事をしてしまったのを慌てて言い直そうと思ったら、何だかすごく余計な事まで勢いで口から出てしまった気がする。

 自分で言っておきながら、何を喋ったか後からじわじわと言葉の意味を理解すると、途端に耳まで熱くなって来た。

 しまった……こんな、こちらの都合を押し付けてフレドさんを困らせるような事を言ってしまうなんて……。


「人工魔石の事業は全部渡しちゃっても良いけど、街からは離れたくない……んだよね?」

「そう思ってたんですけど……」


 工房の人達とは良い関係を築けている。アパルトメンのご近所さんや、市場や行きつけのお店にたくさん知り合いも出来た。ミエルさんや、孤児院の子供達とお別れしたくない。

 冒険者ギルドにも錬金術ギルドにも顔見知りが出来ていつも良くしてもらってるし、出版社のデレールさんからも、二作目の話をいただいている。

 だから子爵様は頼りないけど、この街は出たくないなって悩んでたのに。


 なのに突然、街を離れる寂しさが半分くらいなくなってしまった。

 どうしてだろう。自分自身でもよく分からない。

 アンナが「とりあえずそろそろ夕ご飯にしましょうか」と話を切り替えてくれるまで、私は首を傾げたまま考え込んでいた。

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