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発覚 ⭐︎

 

 

 完璧に隠し通すのは無理だと言われていた。いつかは家族が私の居場所を知る事になると分かっていたが、想像してたより早くなってしまったな。

 人工魔石の開発者としていくつか記事を書かれていたが、子爵様から伝え聞く限りではその私の写真をアジェット家の誰かが見て気付いたらしい。


「それで……リアナ君のご家族が君を迎えに来たいと言って、クロンヘイム王国の公爵家から連絡があったんだ」


 人工魔石の共同事業の後援になってもらう時に、詳細は伏せたけど大まかに話したため「家には黙って出て来たんだろうな」とは気付かれていたとは思う。

 けどそんな若い人なんてたくさんいる。前科を隠していたりした訳ではなく、締結した時には私はもう成人していたし、この国の市民権も得ていたために問題視されなかっただけ。


 もし発覚しても貴族としては「隣接してない外国の公爵家に家出娘を差し出すより、人工魔石の生み出す利益が優先されるはず」と考えていた。見付かったとしても、この契約で守ってもらえるはずだったのだが。

 交渉の段階を飛ばして初手で家族が来てしまうなんて考えてなかったな。

 応接室で向かいに座る、ベタメタール子爵は気まずそうに続ける。


「私は『アジェット家のリリアーヌという女性は知らない』と答えている。だが私の返事は関係ないようで、訪問すると連絡だけあってね」


 子爵としてはそう答えるしかないだろうな。実際本当の名前も身分も明かしてなかったし。


「何、君は我が街の大事な産業の発明者だ。ご家族が無理に連れ帰るなんて言ってもお帰り願うさ」


 ……いや……そう言われても、ちょっともう信用できないな……。

 表彰式は遠慮したいですって言った時も同じように「断っておくよ」って快諾してくださったのに、結局街の有力者側の要望を断りきれず私が出席したし。

 今は本心から言ってるのは分かる。でも……結局押しが強い方に負けてるから。

 私の家族を実際相手にしたら、数日後には「一度ご家族と話し合ってみよう」とか絶対言われそう。

 それを言ってしまったら私もそうか。子爵様が困ってもいいや、と何を言われても表彰式をキッパリ断ってれば良かったのだ。そしたら記事にしっかり顔が写った写真が載るのももう少し遅かったかもしれない。


 今までの対応が対応だったのでずっと不安に思っていたが、やはりアジェット家からしっかり保護してくれるとは期待しない方が良いだろう。

 帰り道で、子爵家が私をホテルまで送ってくれる魔道車に揺られながら「まだ家を買ってなくてやっぱり良かったな」と思ってしまった。



 お父様とお母様に、錬金術師リオが私だってバレてしまったみたい。

 帰ってきてまずアンナにそう溢した私に、「作戦会議が必要ですね」と返された。


「子爵との話し合いでお疲れでしょうから、まずはお茶でも飲みながら少しリラックスしましょう」

「うん……ありがとうアンナ」


 琥珀は今日フレドさんと冒険者ギルドの依頼を受けている。いつも琥珀をホテルまで送ってくれるので、その時に一緒に話を聞いてもらう事になった。


 朝見た時は狩猟会の事件の再調査で関係者が供述を変更した事について、私の返事が書いてあった魔道共振器だったが、ライノルド殿下からの新しい連絡が映し出されていた。

 予想通り、それは私の家族が「錬金術師リオがリリアーヌだと知った」というもの。


 その中で「人工魔石についてコーネリア卿に尋ねていたので、それが原因かもしれない」と書いてある。錬金術師リオの名前をそこで知って、後日写真を見るきっかけを与えてしまったと思ってるのかな。

 謝罪もしてくれたが……既に想定していた事だし、これは殿下の責任ではない。

 元を辿れば、自分の出自を隠したいはずの私が「一般人として目立たず暮らす」というのが出来ていないせいなのに。


 魔道共振器の小さな画面からでも伝わってくるとても申し訳なさそうな雰囲気に、真面目だなぁと思ってしまった。

 わざわざ姿を消した私を外国まで探しに来て、無事を知って泣いてくださった姿を思い出して胸が温かくなる。

 家庭問題で家出したという面倒くさい事情を聞いた後も、こうして親身になってくれているし。優しい方だとは知ってたけど……改めて、なんて良い人なんだろうと思う。

 アンナも、フレドさんもそうだけど私は本当に人の縁に恵まれてるな。

 ……いや、嫌なご縁もあったから、もしかしたらそっちで釣り合いが取れてるのかもしれない。


 私が気になったのは、その後に書かれた情報の方も。

 今までの殿下の連絡では、「令嬢が家出するなんて、子供の教育がちゃんと出来ていない」とささやかな面を攻撃していたらしいドーベルニュ公爵家。彼らがそれを知って「外国でリリアーヌ嬢がこのような大発明をしている。国を出て行った原因であるアジェット家は、大変な国益を損なった」と糾弾したのだという。

 書いて伝えられる画面の大きさの関係で詳細は窺えないが、詳しく聞く必要がある。慌てて画面の文章を記録用のノートに書き写すと、こちらの返事を書くために画面をまっさらな状態に戻した。

 狩猟会の事もまだ聞こうと思っていた事があるのに、それが終わらないうちにこんな事が起きるなんて。

 ライノルド殿下の持っていた精度の高い魔道共振器だが、これだけ距離が離れていると画面が同期するのも結構時間がかかる。

 返事はいつ来るだろうか。しかしここでヤキモキしながら画面と睨めっこしている訳にはいかない。

 今出来る事をしないと。とりあえず、「迎えに来る」と家族から決定事項として伝えられた話をどうにかする方法を考えなくては。



 ……もう少し気持ちの整理がついたら、無事を知らせる手紙は出そうと思ってたんだけど。まだ私の気持ちは家族と連絡が取れるような状態じゃない。当然手紙もまだ出していない。

 

 今顔を合わせたら、私、家族達を責める言葉しか出てこない。過去まで全部遡って、恨み言を言ってしまうだろう。あの時はこんな結果を出したのにお父様は一言も褒めてくれなかった、覚えてる限り。去年の音楽祭でお母様は二位の子は誉めていたのにコンクールで最優秀賞を取った私には「頑張ったわね」の一言もくれなかった、あの時も、この時も。

 思い出すと悔しさで涙が出そうになる。

 アンナがそっと私の背を撫でて、手触りの良い小さなタオルを手渡してくれた。想像する通りきっと、家族にも私にもお互い良い結果にはならないだろう。


 会いたくない。放っておいてくれたら良いのに。

 家にいた時は私の事を「一度褒めたらつけあがるから」と、決して認めようとしなかった存在なのだから、捨て置いても良いのでは?

 事情が知られた以上、公爵家としてはそういう訳にいかないのだろうけど、と斜め後ろから冷静に見ている自分が答える。


 家族が皆天才と呼ばれる中で、一人だけ、一流に遥か及ばないと自覚しながらもがくのは苦しかったな。家族と比べられずに、やっと私一人の力を評価してもらえるようになったのに。

 周りの人が「あの天才の家族だから」と気を遣っているんじゃないか、お世辞で褒めているんじゃないか。やっと、そう思いながら頑張り続けなくてもよくなった。


 子爵様から渡された「ご家族の言葉を通信機から起こしたものだが、読むかどうかの判断は任せる」と渡された封筒も、まだ見る勇気が出ない。

 通信機経由の言葉なら、内容をこの国も子爵様も知っているんだろうな。

 何も解決にはならないのに。テーブルの上に置いた封筒を、私はしばらくぼんやりと見つめていた。


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