表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/165

初めて

 

「専用の場をこしらえて褒めてもらえるなんて、初めてなのじゃ。リアナは表彰……って奴をしてもらった事はあるのか?」

「この街じゃないけど……そうだね。何回かあるよ。でも悪い人を退治したって表彰されるのは初めてかな」

「リアナも初めてなんじゃな!」


 そう……だな。リアナになってからは初めてだ。

 人工魔石を子爵様に売り込んだ時に、宣伝を兼ねてパーティーを……という話は断ったし。

 表彰の話を最終的に受ける事にしたのは、実は琥珀の存在も少し関わっている。ゴード一家の罪を明らかにするのには私だけではなく、琥珀の力無くしては成し得なかった事だから。

 私と一緒に表彰される琥珀から、その機会を勝手に奪うのは申し訳なくて。アンナとフレドさんにも相談した上で、琥珀が同意したので表彰を受ける事にしたのだ。

 孤児院の子達を森で助けた時も、感謝される事にとても喜んでいたから。良い経験になると思ったのだが、予想通りとても嬉しいみたいだ。やっぱり私が勝手に断らなくて良かったな、と思う。

 人から感謝される英雄になりたい、とちゃんと目標を持って冒険者をしてる琥珀はすごいと思う。その夢を叶えられるように応援してあげたい。


 表彰で会う事にかこつけて、私が何か頼まれ事をされないか最後まで心配されたので、今夜は何を言われても全てキッパリ断ると決めている。

 ギリギリまで「やっぱり何か理由こじつけて俺も着いていこうか」って言うくらい不安がらせてしまったし、二人が安心できる報告を持って帰らないと。

 

 ちなみに琥珀なのだが、工房から匂いを辿って彼らのアジトを突き止めたり、仲間の人数などを調べてもらうなどとても重要な活躍をしてくれた。

 でも普通の獣人の鼻よりはるかに精度が高いので、多分匂いだけではなく魔力痕跡も無意識に感じ取っているのではないかと思う。

 匂いの主の魔力の大小まで分かるなんて、ただ鼻が良いだけでは説明がつかない。いつか原理を詳しく調べてみたいとは思うが、関係ない話なので今は置いておく。

 琥珀がもう他には仲間がいないと突き止めてくれたからこそ、あの囮捜査を思いついて罠が仕掛けられた。お陰でゴード一家の罪が暴かれたのだから、貴族からの表彰も当然かな。

 むしろ彼らを言い逃れのない状況で捕まえる事が出来た、一番の功労者と言えるかもしれない。


 あとは、住んでいたアパルトメンに来た三人組の方を琥珀が捕まえたという分かりやすい活躍もあるし。

 しかもその中に過去近隣の領地で指名手配を受けていた犯罪者がいたのだそうだ。

 かつては活躍していた冒険者だったのだが、違法薬物の使用から身を落として、冒険者ギルドを除名された後に強盗などの犯罪に手を染めていたのだと聞いた。

 なんと元々は金級冒険者だったそうで、琥珀が強いとは行ってもそんな人を含めて三人の成人男性を相手によく危なげなく勝てたものだと後から知って胸を撫で下ろした。

 今考えても恐ろしいし、本当に怪我せず制圧出来て良かったと思う。


 何せ、当時その元冒険者……ダルッドを捕まえようとした際には、当地の警察組織に怪我人も出た上に捕り逃してしまったと言うのだから。

 琥珀がそんな、大罪を犯した指名手配犯を見事捕らえたなんて……。その上アンナを守って、過剰防衛になる事なく見事制圧したのはすごい。

 そう、素晴らしい活躍だとは思うけど、戦闘力は大人顔負けだが心や考え方はまだ子供と言っていい。琥珀に今後犯罪者と……人と相対させるような依頼が来かねないなんて怖いな。不安になってしまう。


 冒険者ギルドのギルドマスターのサジェさんは話せば分かる人なので、琥珀にそんな心の傷になりかねない任務を回したりはしないと思うが……一応次に会った時に話を通しておこう。



 子爵の名前でホテルに迎えに来た魔道車から降りると、他のゲストも到着する時間の屋敷の車寄せは大変賑わっていた。

 あらかじめ聞いていた通り街の有力者などの市民をメインゲストにした催しだし明るい時間のパーティーなので、他の招待客の方達も着飾ってはいるがカジュアルな装いである。私もアンナの圧に負けて錬金術師のローブの下を少し華やかな格好をしている。髪も久しぶりに手を加えてもらった。

 琥珀もかしこまった格好は息苦しいから嫌だと抵抗していたが、久しぶりに作ってくれるというアンナのパンケーキに負けて子供用の貸し衣装を大人しく着ている。

 手を繋いだ先を見下ろすと、膝丈のスカートから覗いて揺れる尻尾がとても可愛い。

 綺麗に髪をとかして大人しくしてる琥珀は本当にお人形さんみたいで、着飾らせたくなるアンナの気持ちもちょっと分かるな。


「リアナ……ご馳走の匂いがするぞ」

「立食パーティーだからね。挨拶が終わったら好きなものを食べていいんだよ。でも練習した通り、食事のマナーは守ってね」

「なぬ?! 好きなものを?! 全部食べても良いのか?!」

「さすがに琥珀でも全部は無理だと思うよ。ここにいる人全員の分があるんだから」

「はえー、アンナにまた尻尾の先まで容赦なく洗われた時は悲鳴を上げたが、表彰される上にご馳走食べ放題ならまた我慢してやってもいいな。琥珀は毎日表彰式でもいいぞ」


 神秘的な妖しさ、美しさと愛らしさが共存する狐耳美少女の琥珀だが、喋り始めると一気に外見のイメージが崩れる。そこが琥珀なんだけどね。

 知らない人ばかりで、頭の上の狐耳を警戒させるように動かしていた琥珀だが、食事の匂いを嗅ぎ取って途端に興奮し始めたので笑ってしまった。


 私は……毎日は嫌かな。こうしてたまには良いけど、毎日食べるならアンナの作るホッとする味のご飯がいい。


 エントランスにいた使用人の男性に招待状を渡して名前を名乗ると、本日は是非お楽しみくださいの一言と共にリボンを渡された。

 招待客が胸に着けるらしい。

 土地が変われば文化も変わるんだ、と琥珀の胸にリボンのついたピンを留めた後、自分にも着ける。

 こうして招待客かそうでないか一目で分かるのは便利だと思う。

 表彰式を兼ねたパーティーが行われているホールの扉をくぐる時、漂ってくる食事の匂いを嗅いだせいか、琥珀がくぅくぅ小さい音でお腹を鳴らしていた。

 ……歓談の喧騒に紛れて他の人は、聞こえなかっただろうけど……。偉い人のスピーチで待たされるだろうからと、ホテルで琥珀に軽く食べさせて来たのにちょっと足りなかったみたいだ。

 話が長い人が居ませんように。私は内心でそんな事を祈りながら、「着いたら声をかけてくれ」と言われている子爵様の姿を探した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ