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思惑



「クソッ!! バカが! こんな簡単な事を失敗しやがって!!」

「ヒィッ……! で、でも俺、俺がしくじったんじゃ、」


 机の上の物を投げ付けられた下男のドンコは太ももにペーパーウェイトを食らって悲鳴を上げた。あーウルセェ、俺もいるのにんな大声出してんじゃねぇよクソ野郎。

 チッと思いつつ親父を見るが、口に出して文句をつけるとめんどくさい事になるので飲み込んでおく。

 伝えにきただけ、自分の失敗じゃない、と言い訳する卑屈な目が気に食わなくて、俺からも膝裏に一発蹴りをお見舞いした。


「何だ? 文句あるのか?」

「ヒッ……な、何でもありません」


 俺に蹴られてみっともない格好で這いつくばったドンコは、気の利いた謝罪もしないまま俺と親父を窺うようにチラチラと見てきた。それがまたイラついて、ドンコの背中を軽く蹴飛ばす。

 雇い主にまともな言葉遣いも出来ないなんて嫌になる。言うとしても「何もございません」だろうが。あまりにもみっともなくて苛立つが、これ以上話が先に進まなくては困る。イライラするのを我慢して親父の言葉の続きを聞いた。


「工房にも家の方にも巡察隊が張っててもう入れない。鍵パクってきて前の持ち主脅してバレずに盗み出せるはずが、こうなっちまったらそれも出来ないだろうが!」


 恫喝する親父の大声に野良犬みてぇに怯えるドンコは、裏家業の方で使ってる人間だが元々頭も悪くて仕事の覚えも悪いし使えないからと一番の下っ端だった。他の連中が全員捕まっちまったせいで、普段は備品を横流ししたのを置いてる倉庫を整理したり荷の上げ下ろしをしているだけの冴えない奴をこうして俺の家に入れる羽目になるなんて。

 捕まったグロッグ達は仕事の失敗と、こんな事態になった責任をしっかり取らせないとだ。


 後の事はともかく、今は目の前の問題を解決しないと。取引するはずの外国の男はもうすぐ街に着いちまうのに、まだ人工魔石の作り方は手に入っていない。

 従業員も引き抜けなかった。つーかそもそも一番重要な所の作り方をあいつらは誰も知らないらしくて、無駄な事に時間だけかかって後から知ってとんでもなく腹が立ったし。

 鍵を盗んで、工房の前の持ち主に協力させるまでは上手くいってたのに。あの爺さんは口封じに殺して、盗んだ事にも気付かれないまま今頃国外に逃げてるはずが、どうしてこうなっちまったんだよ。


 いや、原因は分かってる。あの女とフレドのせいだって事は。元々あいつ気に食わない男だったんだよな、前から俺の邪魔ばっかりしやがって。そもそもあのリアナって女を俺があのまま口説いてれば、盗まなくても手に入れる機会なんてたくさんあったのに。そしたらこんなにヤバい状況に追い詰められる事なんてなかった。

 ギルドの中であんな騒ぎにして間に入ってきた、アレがなければ。

 つくづく頭にくる野郎だよ。いつもヘラヘラしてるから余計に。全部あいつらのせいだ。

 二人とも俺に恥をかかせたお礼にとんでもなく痛い目を見せないと気が済まない。しかしそれも、人工魔石の製造方法を手に入れてからの話だ。今はその方法を考えないと。


「親父、もう少し声抑えろよ。ここの使用人はこっちの事情知らない奴のが多いんだから」

「デューク! お前も何他人事にしてるんだ! 大した事ないはずじゃなかったのか!」

「はあ? 大した事ないフレドに三人がかりで負けたアイツらが弱すぎるんだろ? ならもっとまともな奴を使えば良かっただろうが」


 誘拐が失敗した時に五人、工房で四人手駒を失っている。汚い仕事をさせられるのは家に向かわせた三人以外にはもうこのドンコしかいなかったんだろうが、金を出すなり何なりして腕が良い奴を他に雇えば良かっただけの話だ。

 必要な所でケチりやがって、クソ親父。だから最初から全部俺に任せとけば良かったのに。

 後は、またあの女が採掘場で使ったみたいな卑怯な魔道具を用意していたんだろう。あり得るな。じゃなきゃ俺と同じ程度の腕のフレドが三人も相手取って戦って勝てる訳ない。

 フレド相手ならアイツらでも勝てるし、後はお手伝いの女と、獣人つってもまだ一人で依頼も受けらんねぇ実力の冒険者見習いのガキだけだから楽勝だったはずなのに、ほんと使えねぇ。

 

 頭の悪いドンコは居ても邪魔なのだが、他所に連絡に遣れる奴がこいつ以外にいないし、だからと言って屋敷の中をうろつかせる訳にはいかない。

 こんな、パッと見ただけで街のゴロツキだって分かるような奴が出入りしてたなんてモリックの奴に話が行っちまったらまた面倒な事になるからな。


 クソ、名前出したら思い出してまた腹が立ってきた。「私は貴方達ではなくベタメタール子爵家に雇われているので」とアイツの威を借りて、うちの家の仕事を仕切った気になって偉そうな顔をしてるあの男にも何かしてやりたいが……今はタイミングが悪い。

 本当なら、この街だってジェームズじゃなくて俺のもんだったはずだったのに。大昔、俺のじいさんから卑怯な手で当主の座を奪ったディミニクって老人が憎くて堪らない。


 ああ、畜生、あいつらが失敗しなければ。またグロッグ達に戻って怒りが向きそうになったが、何とか頭を切り替えて次の手を必死に考える。


 巡察隊にもこっちの息が掛かってる奴は何人かいるが、他に職を持ってる奴は自分の手を汚したがらない。日和ってる馬鹿どもにはムカつくが、まぁこっちもそんな弱味を見せるつもりはない。アイツらはあくまでも「協力者」でしかないから。

 それに、こっちの仲間にできる程の弱みを握っている奴は巡察隊にいない、深い話を知られるのはリスクが高すぎる。

 こちらに逆らえないくらいの駒じゃないと、俺達がどれだけ怖いか想像が出来ずに事を起こす前に売ろうとするバカが出かねない。


 俺の仲間に手伝わせるか、と一瞬浮かんだがそれもボツにする。一応冒険者だが大した腕もないし、俺がいないと何も出来ないような奴らしかいない、アイツらを使っても成功する絵が見えなかった。

 俺が使った後の女をお下がりでやったり、いい思いをさせた上で共犯にしてるから裏切る心配はないが、実行する能力がないんじゃ話にならねぇ。


 工房にもあの女の家にも今は巡察隊がいる。夜は少し手薄になるだろうし、手引き出来る程度の役職を持ってる奴に心当たりもある。巡察隊の制服で夜番に紛れて工房の中を探すか? 賄賂と引き換えに色々な情報を流させているデルバートという男の顔を思い浮かべた。

 いや……俺は顔が知られてるから、全員こっちの息が掛かってる奴にしないとだが。これをやるにはデルバートに深くを知られ過ぎてしまう。

 どうする。もう取引相手には前金を受け取ってて、俺も既に使っちまってるのに。借金もある。用意できなければこっちがタダじゃ済まなくなるのに。


 良い案が思い浮かばずムシャクシャしながら入ってきた情報に目を通すも、上手い手はそう思い付かない。

 そもそもあの女、今どこにいるんだと思って調べさせると、家で事件が起きて巡察隊の捜査もあるからと一時的にホテルに避難していた。しかもこの街で一番格式の高いホテルの一番良い部屋。

 じいさんから地位を奪った男の孫、この街の子爵が手配したのだと思うと余計に腹が立つ。自分の力で手に入れた権力じゃないクセにそれを得意満面で使ってるんだろうな。

 同い年なのに俺より背も小さくて、頭も悪かったくせに。

 アイツらも事件を口実に身の丈に合わない贅沢をしてるのを知ってまたムカついたけど、お陰で一つ良い手を思いついた。



「錬金術師ギルドから、人工魔石の秘匿特許について問い合わせが?」

「え、ええ、工房の規模がかなり大きく変わるから、自分は詳しく分からないんですですけど……契約魔術の更新が必要らしくて」

「確かにそうですね」


 侵入者が来たのをきっかけに錬金術師リオの工房を改築する。その話に後援してる子爵のジェームズ・ルッシェ・ベタメタールが金を出すからもっと堅牢でデカい工房を作れと口を出した、これは事実だ。

 俺はこれを利用する事にした。実際に数人で営業してるような工房から、話が進んでるような、錬金術師を数十人雇うようなデカい工場にするなら。技術秘匿に使う契約魔術そのものを変える必要がある。

 その時には契約で縛るもの、この場合は人工魔石の製法や、作る時に使うという魔力を操作する魔道具とやらの設計図みたいなものも用意しなければならない。

 今回は本物の錬金術ギルドの職員であるトバルクを、今まで受け取った賄賂と横領をネタに強請(ゆす)って協力させている。散々上手い汁を吸わせてやったんだから、最後にこのくらい役に立ってもらおう。


「あの様な恐ろしい事件がありましたし、外は物騒ですから。ベタメタール子爵と、錬金術ギルドのギルド長がこちらのホテルに足を運んでくださるそうです」

「いつまでに用意すれば良いですか?」

「急ですが、工房の改装開始も近付いていますし、できたら今夜と……難しいようでしたら明日以降でも構わないそうですが。子爵邸の方に、日時を指定した連絡を寄越すようにとおっしゃってました」

「こちらの都合で子爵様の予定を延ばしていただくわけには……分かりました、今夜お待ちしてますとお伝えください」


 よし、案の定。平民は相手が貴族ってだけで下手に出るからな。貴族の家に使いを遣るだけでも恐れ多いだなんて嫌がるから、ああ言われて別の日に出来る訳がない。


「錬金術師ギルドの方で、必要な書類と魔術師は用意していきますので、最後にそう言って出て来た」


 ホテルの外で合流したトバルクから個室のある料理屋で話を聞く。ローブを着せて錬金術師の助手のフリをさせていたドンコから、確かにそう言っていたか、他に余計な事は言ってなかったかを確認した。


「なぁ、これで錬金術師ギルドには黙っててくれるんだろ? 俺にも迷惑がかからないようにやってくれるんだよな?」

「それを約束できるのは、ちゃんと人工魔石の製法が手に入ってからかなぁ〜、ま、安心しろよ、上手くやるから」


 行きずりの犯行にしか見えないようにすると言ってあるが、まぁ無理だろうな。トバルクは犯罪者になるしかない。明日には街から出て違う身分を手に入れてる俺や親父には無関係だが。

 これの実行犯に出来る手駒は手配できなかったが、どの道すぐこの街からいなくなるんだから後からバレようがもうどうでもいい。こっちが釈放に向けて動いてないと知られたら、巡察隊に捕まってる奴らもいつ白状しちまうか分からないし。むしろすぐ逃げないとこちらの身が危ない。

 捨てた元カノ達が俺を逆恨みして事件にするとか、訴えるとか言い出してて元々その時からしばらく街を離れる予定だったし。戻ってくる予定がなくなっただけ……ほんとダルいな、合意だったじゃねーか。

 


 事件が失敗したせいで警戒ムードだけ残ってるのが面倒臭いな。アイツらの失敗を恨んでも今更どうにもならないけど、腹が立つのは仕方がない。

 調べたが、ホテルでアイツらを警備している巡察隊は三人。全員で着いて来る訳にもいかないから来ても二人。うち一人はちょっとした頼み事なら言う事を聞かせる用意がある。

 一番面倒なリアナの方は別件で冒険者ギルドから呼び出すように手配したので、アイツは来られない。

 契約魔術の更新に必要になる、人工魔石の製法。それが記されたノートは工房の中の金庫に保管されてて、それを実家からついてきた信頼のおける侍女って奴も開けられる、そこまで調べた。

 今夜来るお貴族様の予定に合わせるためには、工房にアンナって女を遣って取りに行かせるしかない。フレドが着いてくるかもしれないが、そのくらいはどうとでもなる。

 ……はぁ、それにしても。こいつも開けられるなら、最初から元錬金術師の爺さんじゃなくてこっちの女の方狙っておけば良かった。女なら誰かと駆け落ちしたように見せておけば楽に消せただろうし、夜まで監禁しておく間楽しめたのに。


 物陰で待っていると、工房に向かうために目当ての人物が出て来た。ついて来た巡察隊は一人きり。

 やっと運が向いてきた、と思った。

 二人の後ろを距離をあけて歩きながら、時折後ろも警戒する。誰かがついてきてる様子はなかった。警戒しすぎか? いや、今度こそ失敗できないんだから、冒険者もしているプロとしてはこのくらいは当然だろう。

 工房に到着して、「アンナさん」と顔見知りになってるらしい中にいた巡察隊と会話をしてるのが聞こえてきた。何喋ってるんだ、さっさと帰れよとイライラしながら様子を伺う。

 変装はしてるしあのアンナって方は俺の顔は知らないだろうけど、目立つ真似は出来ない。工房が立ち並ぶこの辺りで通りすがりを演じるのはキツイ。

 店先で小さな商品を売ってる木工店の前で物色しているフリをして、時間が経つのが遅いとまどろっこしく思いながらひたすら待つしかなかった。


 くそ、やっとかよ。

 イライラしすぎてどうにかなりそうなくらい待たされて、キレそうになる寸前にようやく出て来た。それを見て待機していたドンコに合図を出す。

 予定していた通り、巡察隊の残ってる甲から十分に離れた所で小銭を渡して指示をしてあったスラム街のガキが数人出てきて騒ぎを起こす。警備していた奴がそっちを警戒する様子を見せた隙をついて、反対側から女の鞄を奪って走り出した。


「キャアアッ!!」


 鞄を掴んだ弾みで女が引きずり倒されたが、俺の知った事ではない。追跡されないように使った、煙幕を張る魔道具で目が効かない中自分だけはゴーグルで視界を確保してそこから走り抜けた。



「はぁ……クソ。なんで俺がこんな、犯罪者みたいな真似を……ちくしょう……」


 騒ぎからだいぶ離れた所で路地裏に入って、誰の家か分からない目に入ったゴミ箱の中に着てた外套とさっき奪った鞄を捨てる。

 巡察隊が騙されてくれるのを期待して、中に入っていた財布はその辺にいた物乞いにくれてやった。目印になりそうな物を手放すと、ようやく一安心出来る。

 中に入ってたノートと、設計図……これで人工魔石を作るのに必要な魔道具を作るのだろう。聖書みたいな無駄に高そうな装丁のノートの方も見たが……俺は錬金術師じゃないので所々分からない言葉もあるけど、しっかりとどう作るか、材料まで細かく記されていた。


 なるほど……あの固いんだか柔らかいんだかよく分からない感触の人工魔石とやらは、樹液で固めて作るらしい。勿体ぶって作り方を秘密にしてる割には、随分安い素材で簡単に作れるんだな。俺でも作れるんじゃないか?

 これをアイツらに渡せば今のクソみたいな状況から抜け出して、新しい場所でイイ暮らしが出来る。そう考えると気分が一気に明るくなった。

 ……そうだ。これ書き写しておいて、向こうで落ち着いたら別のやつらにも売りつけよう。そしたら倍儲かる。

 帰ったら祝杯を上げようかな。クソ親父はアレでも俺の父親だし、今は機嫌が良いから一緒に祝ってやっても構わない。

 良い銘柄の酒を持って帰るか、ジェームズのやつにツケろって言えば……そう考えて思いとどまる。子爵家に勝手にツケたら次は通報するって商店街の顔役から面倒な事を言われてたな……。

 しょうがない、今は大事な荷物もあるし、目立ちそうな真似はやめておこう。


「お帰りなさいませ」

「ああ」


 家にいる年増のメイドに普段は挨拶なんてしないんだが、今日は機嫌が良いので返事をしてやった。

 ヤキモキした様子で屋敷で待ってたらしい親父の部屋に入ると、俺の顔を見るなり「人工魔石のノートは?」とそれだけ聞いてきやがってムカついた。一緒に祝杯をあげてやってもいいと思ってたのに、その分が丸ごと苛立ちに変わる。


「俺に全部やらせて待ってただけのくせに、お疲れ様くらい言えないのかよ」

「はぁ? なんだお前父親に向かってその言葉は」


 しばらく言い争いをしていたが、こんな事で時間をかけてる場合じゃないと俺が大人になってやる事にした。……待てよ。ノートも設計図も俺がこのまま持って、親父は置いて行ってやろうかな。

 俺はチラリと親父の顔を見る。一人で逃げた方が身軽だし、俺の取り分が増えるな。そもそも結局こうして動いたのは俺なんだから全部もらう権利があるんじゃないか?


「どうしたんだ、デューク。早く見せろ……まさか失敗して取ってこれなかったんじゃないだろうな?」

「は? 誰に言ってるんだよ。今巡察隊の牢に入れられてるバカどもじゃあるまいし、俺が無様に失敗する訳ないだろ」


 売り言葉に釣られて、俺は服の下に密着するように身につけられる、貴重品用のボディバッグからノートと設計図を取り出して目の前に突きつけてやった。

 まあいい。一度見ただけでこのノートの中身を覚えられるような頭はしてないのは知ってるし。


「これがあの……人工魔石の……これさえ、これさえあれば金が」

「おい、酒で濡れた汚い手で触るなよ。インクが滲んで読めなくなったらどうすんだ」

 

 買取価格を下げられたらどうするんだ。まだ書き写すのも出来てないし、価値を下げられたら困るんだが?

 親父の腕を掴んで止めた所で、ノックもなしに扉が開いた。


「……おい! 呼んでないのに勝手に入るんじゃねぇ!」


 親父が呼んだのか? 人払いしとけよ、分かるだろ。

 隠さなければ、と一瞬ビビりそうになったが、学のない使用人ではこれが何なのかも分からないだろう。あまり見せたくないのは確かなので、すぐ様追い出そうと扉の方を振り返って怒鳴ってやった。

 見覚えのない使用人……誰だ? そもそもこんな若い女なんて、うちにはいなかったはず……。


「ベルヌーク様、聞いた通りです。今日立て続けに起きた職人街と住宅地の事件、それに先ほど私が被害にあった強盗の犯人であると、言い逃れようのない確かな証拠になると思いますが」

「ええ、誠に。これで親戚だからと今まで甘い対応をしてきたジェームズ様も目が覚めるでしょう」


 使用人……じゃない。使用人のお仕着せに似た冴えないワンピースを着た、さっき……ずっと跡をつけてた女だった。

 そいつと一緒に部屋の中に入ってきたモリックを見て、頭から足のつま先まで一気に冷たくなるような、そんな感覚がした。


「……モリックさん、何の話ですか? ちょっと今込み入った話をしてるので、後にしてください。あ〜っと……出資してた錬金術師が新しい発明をしたと、その内容を見てた所なんですよ」

「ゴードさん、言い逃れても無駄ですよ。隣の部屋でベルヌーク様も一緒にさっきの話を聞いていたので」

「えっと、俺には内容が見えないんですけど……本当に何の話で?」


 この部屋にはちゃんと結界が張ってあるんだから、そんなカマに引っかかると思ってるのか?

 この場は何とか凌げば良い、それで俺の勝ちだ。夜まで隠れて、取引をして、明日にはもういない。俺は余裕を込めて、人当たりの良い笑みを浮かべながら女を見た。

 色気のないひっつめた髪にそばかすの浮いた頬。でも俺が前もって調べてた時より……背が小さくて、美人に見える。

 あれ? このアンナって女……紫色の目だっただろうか。

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