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黒幕は誰?


「それにしても、すごいですねぇ。獣人は身体能力が高いのは知ってますけど、子供なのにこんなに強いなんて」

「そうなんですよ〜俺なんて全然敵いませんからね」


 またしても知り合いらしい巡察隊の方と世間話をするフレドさんの後ろで、「琥珀を子供扱いするんじゃない! のじゃ!」と不満を口にする琥珀をしっかり押さえ込んだ。活躍してくれたのにお説教はしたくないのだが、初対面の人にその口の利き方はダメでしょうと注意をする。

 やっぱりまだまだ一人前になるのは遠そうだ。


 ひとまず琥珀が活躍した捕物について、何が起きたのかは把握出来た。琥珀の思い切りの良さが良い方向に発揮されて、最善の結果で収束したみたいで良かったと思う。例えば私だったら、本当に巡察隊を騙った悪い人か確認しなきゃ……なんて無駄に考えて、琥珀ほど素早く臨戦体勢に入れなかっただろうから。


「まぁ、当然だが身分を証明するようなもんは何もなし、か……財布にも現金だけ……見た目の割には持ってるな」

「後でラスターノさんに連絡して古株の職員本部に寄越すように伝えといてくれ」


 どうして冒険者ギルドの副ギルドマスターの名前が出てくるんだろう? と内心不思議に思っていた私に、フレドさんが「こういう犯罪者は冒険者崩れがなってる場合が多いんだよ。あとはもう、人相書用意して飲み屋街の方から聞いて回るしかないけど」と解説してくれた。なるほど、そんな事もあるのか……。

 

「?! ちょ、ちょっと待ってください。その人……茶色い上着の方! 私、その人の顔、見覚えがあるかもしれません」


 私が来た時はうつ伏せで、後ろ手に縛られた格好で転がされていた侵入者の達はよく見えなかったのだが。今は巡察隊が彼らの身元を探る過程でひっくり返して、簡単に持ち物を改めようと仰向けにされていた。

 巡察隊の合間に見えた片方の男に、確かに見覚えがあったのだ。


「こんな品が悪いだけのどこにでも居そうななおっさんに……? どこで関わりを……いや、おじさんの顔ってリアナちゃんくらいの歳から見ると皆同じ様に見えるんじゃない?」

「やめてくれフレド、その指摘はこっちの無関係のおじさんにもダメージが入るぞ」


 何だか辛そうな顔で自分の胸を押さえる巡察隊のダニエルさんにかける言葉がちょっと見当たらなかったので、今は触れずにおく。


「いえ……違うんです、既視感とかそのレベルではなくて……でも、見覚えがあるはずなのに記憶の中とちょっと違う、違和感のような……」


 私はしゃがみ込むと、意識を失ったままの中年の男を覗き込んだ。……目を閉じているから余計に分からないのかも? ちょっと乱暴になるが起こして瞳の色を見てみようか、と手を持ち上げて影が顔にかかったのをきっかけに、この男をどこで見たのか思い出した。


「……あ! この男……誘拐事件の時に私が目撃した犯人のうちの一人です!」

「誘拐って、この街の領主の息子さんのやつかい?」

「はい、子供が監禁されていた廃墟から出てきた……似顔絵も提供してたんですけど、私が見た時にはあった髭がなくなってますね」


 多分そのせいで印象が大きく変わって、すぐ気付けなかったんだろう。あと多分、髪型も変わっているかな。

 巡察隊の人も「言われれば確かにあの人相書の一人に似てる」と確認してくれた。口に出してから私の思い込みだったらどうしよう、と思ったけど他の人も同意してくれて良かった。


「確かあれって、実行犯はリアナちゃんが捕まえたけど主犯らしい奴がまだ見つかってないんですよね?」

「ええ。所有者が亡くなったまま放置されてた元飲み屋がアジトだったのでそこから辿れなくて。周辺に連絡して、街の門でも警戒は続けてますけど……」


 つまりここでの犯行が失敗して、もう移動してしまっただろうと思われていたのだ。アジトから次の足取りが辿れず、現在は行き詰まっているらしい。

 そこで、ふと疑問に思った私は気付いた事をそのまま口にしていた。


「でも、その推測が違ってたという事は、街を離れず誘拐事件の後もずっとこの街に居たんでしょうか?」

「そう……なるねぇ」

 

 また戻ってきた可能性もゼロではないけど、それは私にも違うように思える。失敗して警戒されている街にわざわざ戻らないだろう。

 この街に拠点があるのだと思う。 


「しかし街の門や巡察隊で警戒してただけでなく、宿屋や市場にも人相書を配ったのに、あれきり巡察隊には情報が入っていないですよ? 所有者の有無に関わらず現在使われてない建物も全部調べて、犯罪者が街に潜む隙は無かったと思うんですが」


 つまりその情報が真であるとするならば、彼らは宿は使っておらず買い物もせず、空き家に入り込んだりもしていないという事になる。

 

「なら……拠点を提供して、こいつらが外を出歩かなくても済むように生活必需品なんかの調達にも協力してた存在がいる……そうなるけど」


 フレドさんが何気なく口にした言葉で、その場は一瞬で重い空気になった。

 よそからやってきた犯罪者が誘拐や窃盗を企んでいた……よりも悪い事態になっているのは確実で。私の工房と自宅で起きた事件について、一件落着にはまだ遠いようだ。


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