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非日常 ⭐︎


 依頼する人が見つかるまでフレドさんが請け負ってくれる事になってしまった。こうなったら出来るだけ早く、冒険者ギルドに人を探してもらわなければ。

 冒険者としてはこのところ全然活動してないな、ジュエルバードで指名依頼を受けたのが本当に久々だった。それこそ装備のメンテナンスが必要になるほど。


 今日の用事も依頼を出しに行くからだし……。健康のために朝少し運動するだけじゃ足りないように感じる、やっぱり時間を作ってしっかり体を動かしたいな。このままデスクワークばかりしてると肩が凝っちゃって、勘も鈍ってしまいそうな気もするから。

 久しぶりに一緒に依頼を受けたって琥珀もすごく楽しそうだったし、私も錬金術ばかりじゃなくて冒険者活動や他にも色々したい。

 そう思うと、実家にいた時って学園の時間割のように次から次へと色々な分野の事を学んでいたから毎日新鮮ではあったな。


 いや、またあの生活に戻りたいとか言う話ではなくて。もうちょっと注文が落ち着いたら、人工魔石の要になる溶液だけ三日に一回くらい作りに行って、製造自体はアドルフさんあたりを主任にして任せてしまいたいなって思う。

 そしたらまた孤児院に勉強を教えに行きたいな。あと、偶然アドバイスのような物をする事になった料理屋さんが、とても繁盛するようになったからお礼に是非ディナーに招待させて欲しいって誘われたのもまだ行けてないし、「ホロウと竜の河」を出した出版社から二冊目を書きませんかって話を受けてるけどそれも話を進められていない。

 やりたい事がたくさんあるのに時間が足りないとは、贅沢な悩みだと思う。

 前は「やらなくてはならない事」に追われて毎日忙しくしていた、でも今は実家にいた時より自分でやらなければいけない事が多くてもっと忙しいけど、やりがいを感じているし。

 これで適度な休息日があれば最高なので、やはりそこはどうにかしたい所だ。



「フレドはしばらく仕事で夜留守するのか……、いつもの所にあやつがおらぬのは変な感じじゃなぁ」

「そうだね、居るのが普通だったから」


 いつもはフレドさんが座ってる食卓の空席を見ながら琥珀がつまらなそうにそう言う。夕飯前には、アンナもうっかりフレドさんの分のお茶を淹れそうになったりしていたし、フレドさんはすっかり私達の日常の一部になっていたんだな。

 今日は昼からしっかり仮眠をとったフレドさんは、私が工房を出る時間に入れ違いで入ってもらってそのまま警備をしてもらっている。

 冒険者ギルドに警備に関して問い合わせはしてあるのだが、候補の選定をして私が面談するのに二日はかかるという事だった。

 冒険者ギルドのベテラン職員のダーリヤさんと副ギルドマスターのラスターノさんがしっかり探してくれるんだから、確かに信頼できる人達を選りすぐってくれると思うが……それまで一人で任せる事になってしまうのでフレドさんが心配だ。

 普通、警備なんかは最低でも二人一組でやるものなのに、じゃあせめて私も一緒にやりますと言ったらとても慌てた様子でダメだって言われてしまったし。

 期間雇用で報酬もはずんでるからこれなら腕が良くて信頼出来る冒険者がすぐ集まるし選り取り見取りだ、なんてダーリヤさんは言っていたが、その通りすぐ決まって欲しいな。


「リアナ、フレドは『やけい』ってやつをしてるんじゃろ? どんな事をするんじゃ?」

「うーん……何も起こらないように警戒して過ごすお仕事かな」

「えー、つまんなそうなのじゃ〜」

「でも、何かが起こったら……警備してる所に誰かが入ってこようとしたり、悪い事を企む人が来たりね、そしたら戦う事もある……大変なお仕事なんだよ」

「なぬ! 琥珀も悪いやつを成敗したいぞ!」

「でも誰も来ない平和な夜がほとんどですよ、琥珀ちゃん。何も起こらなかったら一晩ジーッとして待ってなきゃいけない、退屈だけど万が一にも警戒していなくちゃならない大事なお仕事なんですから」


 言外に「琥珀には難しい」と言われてムイッ、と拗ねたように唇を尖らせている。フレドさんの言う通り、夜警の仕事先が私の工房だって隠しておいて良かったな。この様子では自分もと行きかねない。

 琥珀は戦闘能力は高くて勘も鋭いけど、長時間周囲を警戒したりは向いていな……いや、出来ないと思う。短時間で達成できる明確な目標があるとすごい活躍するんだけど。

 まぁ、わざわざ不得意な内容の依頼を受ける必要はない。


「! じゃあフレドの分のデザートは琥珀が食べるのじゃ!」

「ダメですよ、夜勤明けでお腹を空かせたフレドさんが食べるんですから。あっちの部屋の冷蔵庫に置いてきます」


 食い意地の張った琥珀の言葉をアンナがさらりとかわす。そんなやり取りを見て笑ってしまった。

 本当にありがたいなぁ。私が心配がっていたから依頼を受ける事にしてくれたフレドさんだけじゃなくて。こうして夜勤を依頼する事になったため、アンナはわざわざお弁当と、時間を置いても温め直して簡単に美味しく食べられるものを別に作ってくれたりしている。

 こうして協力してくれる人達が身近にいて、私はなんて幸せなんだろう。アンナとフレドさんにはいくらでもお礼を言いたい。琥珀も、なんだかんだ面倒見ている私の方が救われている面があるので、やっぱり得難い存在だと思う。


「さぁ、今日は誰が一番最初にお風呂に入りますか?」


 お風呂に入りなさい、と言うと「まだ入りたくない」「今日はいい」なんてゴネる琥珀をうまく誘導するアンナの言葉に協力しながら、ふと窓ガラスの外を見る。

 夜警の仕事は一晩だからまだ長いだろうな。


 フレドさんに警備を依頼するとなって、万が一の時の事を考えて色々魔道具を渡してある。もちろん攻撃用ではなく、相手を足止めしたり、逃走を補助するようなものだ。

 でも実際に良からぬ事を考えている人達がこのタイミングで本当に来るとは確信していなかったと思う。警備は「している」のが大事だから。

 警備がいて、警戒が厚いと分かれば狙っていたからこそ普通は避ける。


 だから翌日、いや、数時間後にあんな事が起こるなんて。私はこの時全く想像していなかった。

 

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