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2 ⭐︎

 


「いっそ、警備を依頼出来る人が見つかるまで私が夜工房で過ごそうかな……」

「ええ?!」


 そんなに驚く事を言っただろうか。普段のほほんとしているアンナも珍しくびっくりした表情で固まっている。


「な、夜にあそこで一人で過ごすなんて危ないよ!」

「でも……、私だったら工房の中に入れるし、窃盗犯が来たとしても返り討ちに出来ますよ」

「いや、そうなんだけど! 事実だし、リアナちゃんに勝てる相手なんて実際そういないんだけど心情的に同意したくない……!」


 アンナもその横で無言でうんうんと頷いている。いつもは二人とも強いすごいと私の事を実際以上に褒めそやすのに、今回に限っては何故か過保護だ。

 二人が言うように私が本当に、平均的な金級冒険者に勝るくらい強いなら、工房の警備も心配せず難なくこなせるはず。それとも、二人は私が家族にずっと認められず自信喪失してるからとか、そういった配慮で褒めてくれてたのかしら……?

 だとしたらその言葉を間に受けて自信満々で警備しますって言い出した自分がちょっと恥ずかしい人になってしまうのでは……。


「リアナ様。リアナ様がとても強いのと、鍵を盗まれて泥棒が来るかもしれない工房で一晩過ごすのとは、全く別の話なんです。よろしいですか?」

「は、はい。ごめんなさい」


 私はアンナの勢いに押されてコクコクと首を縦に振った。学園に通い始めた年に「ジェルマンお兄様の試験の成績を超えたい」と徹夜を続けた時に叱られたくらいの怖さだった。


「それにしてもどうしてリアナちゃんが自分で……だったら俺が依頼受けるよ。俺なら悪い奴の買収に乗ったりなんかしないし」

「フレドさんは当然信頼してますけど……。私の方がフレドさんより強いから、警備するなら自分でやった方が良いと思って」


 適材適所という言葉があるのだから、この配役が正解だと思うのだが。何の疑問もなくそう言った私に、フレドさんはまたポカンとした顔をしていた。


「はは……あはは! そうだね、リアナちゃん俺より強いからなぁ」

「だ、だってフレドさんも……いつも言ってるじゃないですか……」


 思わず語尾が弱くなってしまったがそれを吹き飛ばすようにフレドさんが笑った。


「ああ、違う。嬉しいんだよ。いつも自信がないリアナちゃんが、自分の実力をしっかり認めるような事が言えたのが」

「本当に、実力と比べればまだ少しではありますがご自分の力を認められるようになって、大変喜ばしい事です……!」


 私はそう言われて、今更フレドさんに向かって堂々と「自分の方が強い」と宣言したのに気付いてなんだか恥ずかしくなってしまった。


「でも夜警を自分がするって言うのは許可できないなぁ」

「まったくです」


 結局改装までの工房の警備は、冒険者ギルドを挟んで警備する人を急いで探してもらうのと、依頼できる人達が見つかるまでの数日はフレドさんが引き受けてくれる事になってしまった。


「だって、リアナちゃんが思いあまってこっそり夜に工房に行かないか心配で……警備してる人がいれば任せて安心できるでしょ?」


 うう……いくら不安だったからって「自分でやろうかな」なんて言わなければ良かった。

 

「丁度今受けてる依頼何もないし、明日日中夜警の準備してその夜かな。今日の夜にもう来てたらたらどうしようもないけど……」

「今日工房を退出する時に、鍵とは別に誰かが開けたら跡が残るような仕掛けをしてきたんです。もしそれに異変があったら開ける前に巡察隊に通報しますね」

「さすがリアナ様ですね、抜かりなく警戒されてて素晴らしいです」


 いつにも増して私を褒めるアンナにちょっと気恥ずかしくなりつつ、頭の中のやる事リストを更新する。

 明日はまず警備を依頼する信頼出来る冒険者を探してもらえるように頼まないと。報酬は多めに出すからなるべく急いで欲しいってお願いすればすぐ見つかるかな。フレドさんがこう言ってるからと甘えっぱなしにはしたくない。


「あとは、俺がしばらく工房で夜警するのは琥珀には内緒にしておきたいな。面白がって自分もやるって言いかねない」

「それは……」

「確かに有り得そうですね……」


 成長してきた琥珀だがまだまだ危なっかしいところもある。むしろ、私達に気を許すようになって、最初の頃は借りて来た猫のように大人しく従っていたのに最近出来てない事も。

 夢中になっちゃうと家に帰る時間を忘れて遊んでいたり、市場で興味を持ったものを見つけると繋いだ手をすり抜けて走って行ってしまったり。

 三日前も市場ではぐれてアンナに雷を落とされていた。ペタンと伏せた耳でお説教を受けていたのを思い出してつい笑ってしまう。


 フレドさんにも「部屋に来るのは良いけど俺の寝室には入らない事」と言われてるのに入っちゃってて、よく叱られてるけど。寝室に入って何かをするわけではないらしいのだが、これについてはダメって言われてるのをわざと破って怒られるのをちょっと楽しんでいるように見える。

 これについてはふざけてやっているのは分かるが、まだこういう所があるから一人で依頼を受けさせられないかな。


 とりあえず琥珀は戦闘能力だけなら大体の金級冒険者には勝ってしまうくらいには強いけど、だからこそ不安なのである。

 だって寝てる時に、琥珀が本気で気配を消して抜け出してしまったら私では多分気付けない。野営の時の盗賊や魔物など、こちらへの敵意があれば起きられるけど……。

 

「琥珀ちゃんが甘えるようになったのは、子供の成長としては正しいんですけどね……弟と妹の面倒を見てた時を思い出します」


 経験豊富なアンナの発言にはとても説得力がある。

 とりあえず、フレドさんが夜不在になるのは琥珀には依頼だと説明するが詳細は話さずごまかす事になった。

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