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本日6/1は「無自覚な天才少女は気付かない」2巻の発売日です!!

レーベルは新しく創刊された「アーススター ルナ」から発売されてます

早いところはもう書店様に並んでいル用です。

書き下ろしもたっぷりあるし

特典も頑張ってたくさん書いたのでぜひよろしくお願いします!!


特典などはこちらで全部確認できます

https://www.es-luna.jp/bookdetail/3tensai2_luna.php



「ただ今戻りました……あれ?」


 無人の室内に一瞬首を傾げそうになるが、時計を見るとちょうどお昼休憩中の時間だ、多分みなさん昼食を摂りに行ったのだろう。


「ああ、リアナさん、お帰りなさい」

「アドルフさん」


 工房の中を眺めながらぼんやり考え事をしていた私の後ろから一人入ってくる。ここで働く錬金術師の一人、アドルフさんだった。最初は工房長、と皆さんに呼ばれそうになっていたのだが、どうにも慣れなくて。部外者のいない工房の中では名前で呼んでもらっている。

 私が何か問う前に、「僕は家が近いので、節約も兼ねて食事処に行かずに自宅で食べてるんですよ」と教えてくれた。

 まだ午後の仕事の開始の時間にはなっていないのだが、アドルフさんは魔力操作の練習をしにきたらしい。


「精密な魔力操作が出来ないとこの人工魔石は作れないですからね。でもまだ製品化できるレベルのものは……このままでは正直いつリアナさんが満足するものが作れるのか」


 思ったようにいかない焦りは私も感じていた。アドルフさんもそうだが、皆さん私が指示した通りに地道に魔力循環の練習もしてくれている。なのに習得できないのは、私の教え方が下手だという事だ。

 でも私には、いくら考えても今よりいい方法が思い浮かばない。魔力操作の上達についてできる限り調べもしたけど、どの本にも似たような事しか書いていなかった。

 作業内容の原理は単純な話なのだが……どう教えるのが一番正しいんだろう。子供が魔法を習い始めたら最初の日に習う魔力鍛錬と基本は同じ事。それを、精密な操作ができるようにまで高めないといけない。


「でも、自分は魔力操作苦手だから錬金術師になったと思ってましたけど、リアナさんに教わって随分上達しましたよ。普通の魔術師と同じくらいには」

「そうなんですか?」

「小さい頃に教わってたらなぁ、そしたら僕は魔術師になれてたでしょうね。……ああでも、今では錬金術師って仕事自体が好きなので、魔術師になり直そうとは思いませんよ!」

 

 一瞬転職の心配をした私を安心させるように、慌ててアドルフさんが否定する。私と喋りながらもテキパキ用意していた魔力操作の練習に使う器具が揃ったのを見て、私も自分の仕事をする事にした。

 どうして私は、こんなに真面目に仕事をしようとしてくれている方に使い物になる作業手順一つ示せないんだろう。天才錬金術師のコーネリアお姉様だったらこんな、工房で雇った人を困らせる真似なんてしないんだろうな。

 いや、魔力操作で言うなら国の魔術師のトップにいるお父様を見本にするべきだろうか。どちらも今はお手本にできる距離にはいないけど。


 私が実際に魔力操作を教わった幼い時の事を改めて思い出してみる。用意するのは魔力に与える影響をほぼ無視できる成分の平たいガラス容器、不純物を取り除いた純水、ヴィルッキの花びらを圧搾した色水。ヴィルッキの花びらは魔力の属性、強さに反応して色が変わるので、クロンヘイムではよく指標に用いられていた。植生の違うこの国ではヴィルッキはほぼ流通しておらず同じ役目のグロルマディンという水草の煮汁を使っているが、それのせいではないだろう。実際ヴィルッキの花びらも何度か使って練習してもらったけど変わらなかったし。

 それぞれ指標となる植物性の色水を、純水で満たしたガラス容器の中に垂らす。色が均一になったら、容器に手で触れて魔力を流す。

 ガラスの中の色水は、流れる魔力に反応して様々な変化を見せる。属性が変われば違う色になるし、魔力の強さが変わると色の濃淡で反応する。私の時は、指示された色・指示された模様を素早く出す……それがなかなか上手くできずに何度もダメ出しをされたな。

 火・雷・火・雷と素早く切り替えて流すとヴィルッキの花びらのエキスが溶け込んだ水は魔力の属性に反応してオレンジと青の縞模様になる。属性の切り替えがうまく行かず、切り替える前の魔力と色が混ざってお父様のやったような綺麗な縞模様にならないと、最後の方は半泣きになって練習していたな。指標になる色が魔力を流して練習するうちに薄くなってしまうので、この練習用の色水を何度も作り直したっけ。

 自分の失敗談を思い出すと、ちょっと憂鬱な気持ちになってしまう。


 現在私が求めているのは、どの属性でもいい。この平たい容器の中の色水に魔力を流して、一色に染め上げる。そこに視認できるような濃淡があってもいけない。と言うもの。

 私がお父様から魔力操作を教えられた時と同じように、むしろその後教育用の本も参考にして伝え方も変えたりしたけどうまくいっていない。皆さんは「自分が子供の頃に習ったのよりずっと分かりやすい」と言ってくださっているけど……お父様が私に教えた時のようにうまくできない。

 いや、お父様に教わったのはだいぶ昔の事だから私が記憶違いしているのかもしれないな。あの時……お父様から初めて魔法を教わったのは4歳の時だった。子供の、特に幼い方が魔法の才能は伸びやすいからと言う理由だったと思う。他は文字の読み書きと計算、ピアノを家庭教師の先生達に教わっていたけれど。

 初めて家族に「教師」と「生徒」として向かい合って、とても緊張してしまった。それは強く記憶に残ってるけど、お父様の言葉は一言一句までは覚えていない。


 私の魔力操作についてはなんとか1日でお父様の合格が出た。ああそうだ、あの時。お父様ご自身は子供の頃は1刻もかからずに魔力操作を習得したのだと、さらにその日の授業が終わる頃には魔法を二つも習得して使えるようになっていたのだが、と残念そうに言われたんだっけ。あの時は「さすがお父様、とってもすごい魔法使いなんだ……」と子供らしく尊敬しながら見上げるしかできなかったけど。

 魔力操作を教えるコツとか聞いておけばよかった。いえ、子供の私が今の状況を見越したそんな質問出来るわけないのに。


「あの……アドルフさんの意見を聞かせてほしいことがあるんですけど、ちょっと窺ってもいいですか?」

「リアナさん、工房長なのに腰が低すぎますよ……普通は『今日からこうやって作れ』って言われたらそれに従うものなんですけど……まぁとりあえず、僕の意見が参考になるなら、どうぞ」

「実は、魔力操作の補助をする魔道具を作ろうと思ったんですけど、私がそういったものを用意したら、皆さんが失礼だと感じないかどうかが心配で」

「え?! そんな、ただでさえ今納品できるレベルの商品作ってるのリアナさん一人なのに新しく開発をする余裕なんてあるんですか……?!」


 私が心配していたのは別方向の心配をされて、思わずびっくりした顔をむけてしまった。

 怒ったり態度に出したりはしないだろうが、「技術を信用されてない」と失礼に感じる人がいるかもしれないと思っての相談だったのだが。


「失礼だなんて……いや、その心配は、無用だと思います。というか、しちゃダメですよ。錬金術師は職人でもありますから、自分の技術が足りないところを道具で補うのは悔しいとバネにこそしても……失礼だと言う方が筋違いですからね」

「それならよかったです。ありがとうございます、私あまり『普通』ってものがよくわからなくて……」

「まぁ〜それは見てればわかりますけど……でも、僕たちの技術が追いついてないから負担をかけてるのに……いやでも、練習して上達するのにいつまでかかるか分からない現状の方がまずいからな……」


 え、そんなにおかしい所が?! どこ……一体どこに……?!

 思い悩むアドルフさんに、私のどこがどういう風に普通じゃないのか尋ねようとしたら昼食から他の錬金術師の皆さんも戻ってきたのでお喋りは終了してしまった。……次、休憩時間に話す機会があったら聞いてみよう。

 

 工房の状況把握と改善について考えながら、無心で動かしていた手が納品予定分の人工魔石を作っていく。「定属性・定量・定圧で魔力を流す魔道具」を形にするのは明日になりそうだ。

 ここ数日人工魔石関連で帰宅が遅くなり気味だったから、今夜はみんながご飯を食べてる時間にちゃんと帰ろうっと。アンナは私が忙しすぎるんじゃないのかってここのところ心配し通しだったから、これで少し安心してくれるだろう。


「それでは、また明日もよろしくお願いします、アドルフさんもあまり無理せず、遅くなりすぎないように帰宅してくださいね」

「はい、じゃあいつも通り僕はもうちょっと練習してから……片付けて戸締りしますんで。こちらこそ、明日もよろしくお願いします」


 他の人がもう帰った工房の中、作業机の隅に置いていた自分の鞄を回収して、挨拶をしてから退室する。家が近いからと言っても、こうして残って練習してるアドルフさんはとっても熱心だと思う。その姿勢は私も見習いたい。


「天才が難なくできた事でも、やっぱり僕達には再現するのも難しいんだよな〜。あーあ……最初よりはだいぶマシになってるけど、まだ使い物にはできそうにないな……しょうがない、凡人には練習あるのみだ」


 私の頭の中はすでに明日作る予定の魔道具について考えを巡らせていて、背中を向けた扉の向こうで独り言として何気なく呟かれた言葉は耳に入ってこなかった。

 そうして、「私のどの辺が普通じゃないですか?」って聞こうとしていたのも、すっかり忘れていたのだった。

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