表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/165

良い兆し

 ニコニコしてる琥珀と一緒に帰宅した私はフレドさんを呼んできていつも通りに四人で夕飯の席を囲む。その時に琥珀が子供を救った事。子供達も怪我がなく、孤児院の方もとても喜んでくれた事を二人に伝えた。

 二人からも褒められた琥珀は更に得意満面になる。


「それで……琥珀が助けた孤児院の院長さんがぜひ改めてお礼をしたいと言ってくださったんだけど。二人に相談したい事があるの」

「その孤児院に、何か問題でもあるのでしょうか……?」


 私は二人に、琥珀が助けた子供達のいる孤児院の経営について、援助したいと思ってる事も含めて話した。向こうが気にせずに支援を受け取ってくれるのに何かいい手はないかと。


「うーん……リアナちゃん、自分が解決できそうだからって何でも関わろうとするのは悪い癖だと思うよ」

「うっ……」

「そうですね。私も……それは、そう聞いてしまうと心は痛みますけど。でもリアナ様……錬金術工房として登録して営業を始める日も近付いていて、売り物も用意しなければならないのに、関わっている余裕ってありますか……? 大丈夫ですか?」

「ううっ……」


 二人の指摘にギクリとしてしまう。まさに図星だったからだ。


「なら琥珀があいつらを助ける! リアナじゃなくて琥珀が勝手にやるなら文句ないじゃろう?!」


 その言葉に3人でギョッとする。……余程、涙ながらに感謝されて、嬉しかったらしい。何か力になりたいという思いがちょっと暴走しているように見える。よほど琥珀に強い影響があったのは感じたけど、ここまでとは。

 結局、「余計な事をしかねないから」という理由で私も付き添う事になった。冒険者として復帰する琥珀が、自分で稼いだお金を何に使うかは自由だけど。感謝されたいから施しを与え続ける、というのは健全な状態ではない。

 その使い方に若干……いやかなりの不安があるので、琥珀の手を取ると選択した私が責任を持って監督する、という事に。


「援助するにしても、もう少しリアナちゃんの起業が落ち着いてからの方が良くない?」

「だ、大丈夫です! 昔はもっと忙しかったけどこなせてましたし! まだ全然余裕あります」

「リアナ様、あの異常な過密スケジュールのあれを基準にしないでください!! 睡眠とお風呂以外常に何かの作業や締め切りに追われていたじゃないですか!」


 久しぶりにアンナに叱られてしまった。

 無理はしない、睡眠時間はきちんと確保する、と約束した上でいくつか条件を付けて琥珀とあの孤児院に力を貸す。お金や物だけ上げれば良いものではないというのに琥珀も納得してくれて。うん、そうね。お金は稼げていたけど一人でいた琥珀はまともな生活を送れてなかったもんね。

 寄付のような、物だけで解決するのではなくて琥珀や私が援助できなくなっても破綻しない方法でそれを考えなければ。


 うーん、でも私としては……とりあえず日中、私が琥珀と一緒にいられない時に預かってくれるだけで助かるんだけど。私は琥珀が寝た後も、錬金術工房の開業計画を記したノートを広げたままその事について考えて頭が一杯だった。


 基本今は、琥珀と私がほぼ常に一緒に行動してる。でも錬金術工房として商品にする魔道具や魔法薬も作りたいし、それが難しい場面も頻繁に出て来るだろう。現在は錬金術ギルドの作業スペースを借りて作っているけど、琥珀は「臭いからここに居たくないのじゃ~」と錬金術ギルドに行くのを嫌がるのだ。

 においが合わないのはさすがに可哀そうで。嗅覚も違うし、きっと私が思うよりつらいのだと思う。


 琥珀は戦闘に夢中になって暴走気味になる事がまだあるので、不測の事態で琥珀を制止できる人の居ない状態ではまだ依頼に出られない。

 アンナの事は率先して手伝うようになったけど、正直……とても有能なアンナにこの面積の住居であまり手伝いは必要ないみたいなのよね。アンナは家事が終わると趣味の手芸にあてているけど、琥珀はそういった方面に興味はないらしく、ちょっとやらせてみたけどすぐ興味を失って退屈そうにしていたらしいし。

 でも今回みたいにその度に部屋でずっと待っていなさいというのも活動的な琥珀には酷だろう。

 

 琥珀も趣味らしい趣味がないからなぁ。美味しいものを食べるのがとにかく好きだと言っていたから、それが趣味と言えば趣味だろうか? 不当な料金を払っていた可能性も高いが、冒険者としての稼ぎは全て食費に消えていたらしいので、余程人生の楽しみなのだろう。

 国に帰らないのは「食べた事がないものが山ほどあるから、旨いもん全部食べたい」というのも理由にあったらしいし。作るのは好きじゃないみたいで、目玉焼きを焦がしてからは料理に関してはお皿を並べたり野菜を洗ったりくらいしか手を出さないようになってるみたい。

 しかしさすがに食べ物だけ与えて放置するわけには……。


 それに、今は常識と共に当たり前の礼節も覚えてきたけど。文字や簡単な計算も教えたい。冒険者としての活動にも絶対必要だと思うの。文字が読めたら全部覚える必要は無い。冒険者用の技術書には挿絵があっても魔物の討伐部位や素材、解体方法は文字が読めないと理解しづらいし。

 力のコントロールは出来るようになったけど、それだけでは足りない。

 書いてある指南書を持ち歩いて、必要に応じてその依頼で使うところだけ目を通し直せばいい。計算も、複雑なものでなくても報酬の計算や買い物で困らないくらいの知識は必要だと思う。


 そこまで考えて思いついた。これ……あの孤児院で教えてもらえばいいのではないだろうか。

 正直私には、何も知識がない子供に一から文字の書き方や計算の仕方を教える技術はない。実家にいた時は師事している家族達の、他のお弟子さんに時々私が教える事もあったけど、あの人達のお弟子だから皆さんその分野の中ではトップレベルの方達なのよね。

 知識や技術の土台がない相手に、そもそもその土台を教えるって、どうすればいいのかまったく思いつかないのだ。ほんと、言われたことは出来るけど、一から考えるの苦手ね……。

 戦闘技術については、感覚派だけどしっかり基礎がついてる琥珀は私でも教えられるけど。


 その点孤児院なら、就職のために一人立ちする子供に教育もする。孤児院の職員なら読み書き計算は絶対に出来るし。確実に私よりも子供に一から教えるのが上手いはず。

 この報酬にってお金や食料を渡せるし、「琥珀の教育に使ってください、使い終わったら差し上げます」って言えば本や文房具など教材も自然に寄付できる。

 他の子供の分も渡すのは……琥珀は競争相手がたくさんいた方が上達が早いと思うから、で押し切れないだろうか。


 思いつくままに、寝支度をしていたアンナにそう話すと、「向こうの都合もありますけど、それならお互いメリットもありますし提案してみたらいかがでしょうか」と賛成してもらえた。


 明日フレドさんにも伝えてみよう。とりあえず明日は改めてお礼を言いたいとおっしゃってたミエルさんを訪ねて、提案してみよう。

 これは私の願いが入った予想でしかないけど。琥珀にとって良い出会いになると思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ