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「あの……フレドさん、ご相談がありまして」

「ん、なになに?」

「ご相談と言うか報告と言うか、……実はフレドさんと話し合う前に自分の中で決めてしまってて。勝手にしちゃってそこはほんと申し訳ないと思ってるんですけど……」

「なに?! え、ちょっとこわ……俺なんかしちゃった?!」


 宿に報告して、子供サイズの服を買ってきてフレドさんの部屋に立ち寄った私は詰め寄るように謝罪を口にしていた。フレドさんの言葉に我に返って顔を上げる。フレドさんの部屋に入ってすぐ、ガバっと頭を下げた私に大層困惑してる様子だった。


「ご、ごめんなさい……! 私、伝えなきゃって気持ちが暴走しちゃって……」

「いやいや、びっくりしただけだから。で、何かあったの? リアナちゃんがそんな思いつめた顔で相談……というか報告があるって言うなら、大事な話なんでしょ?」


 温泉から戻ってきたばかりらしいフレドさんが、髪の毛から滴る水をガシガシと拭いながら私に落ち着くように促してくれる。

 変な勢いがついていた私はようやく心の中で立ち止まって、話すことを整理してからひとつずつ言葉にしていった。


「あの、私今日……この宿の庭で昨日の子に会ったんです。琥珀って呼ばれていた……」

「ああ……ギルドの前で喧嘩起こしてた獣耳の子ね」

「冒険者資格が剥奪されて、ここの従業員の知り合いに食べ物をもらいに来てたんです。その子に……強くなりたいから弟子にして欲しいって言われて」

「え?! ……あ、いや続けて続けて」


 一瞬ぎょっとした反応を見せたフレドさんに、一人で話を進めてしまった事に反省が募る。多分、私がこの後に続ける話が分かったんだろう、フレドさんは少し苦笑していた。


「でも私、そう言われる前から……昨日からずっと、何か出来たんじゃないかって考えてたんです。私自身がランクだけで一人前とは言えないのも、出会う人全て、何か出来るからって介入するわけにはいかないのは分かってるんですけど……」

「……なるほど」

「私……私なら、今後この子が何か起こしそうになっても、止められる。間違えそうになってもどうにかできる、から。そ、それに! とても心強い仲間になると思うんです」


 途中から何が言いたいか自分でも分からなくなってしまう。付け足したように仲間にした後の話をしたけど、正直自分でも「今するべき話じゃなかったな」と思った。


「まぁ、リアナちゃんなら出来るだろうね。昨日も軽くあしらってたし、上手く手綱を握れると思う。でも……出来るっていうのと、『やらなきゃいけない』って別の事だよ。たまたま知り合っただけの他人に、リアナちゃんがそこまでしてあげる義務は無い」

「それは……」

「助けてあげたいって誰に対しても思えるのは、リアナちゃんの良い所だと思うけど」


 どうしてあの子に関わろうと思ったのか、自分でもうまく言葉にできない。何故、なぜと思考の奥に問えば問うほど掴みどころなく消えてしまう。


「……あの様子じゃその辺の5歳児より厄介だし、なのに力だけはあるからすごーく大変だよ?」

「でも……ごめんなさい。何て言うべきなのか分からないんですけど……私、あの子とここで別れて関わらない事を選択したらこの先ずっと後悔してしまうし……」


 自分なら出来るから、後悔するから、それももちろんあるけど、そうじゃなくて。


「私があの子の手を取りたいって、そう思ったん……です」


 色々理由はついているけど。そもそもこれは私がやりたいと思ってるだけ。私のワガママだ。ちゃんとした理由なんてない。

 パーティー申請してまだ一回目の依頼を受けてないうちからこんな事を言い出して、きっと呆れられてしまっていると思う。当然、フレドさんが反対したら自分の出来る範囲で責任を取るつもりだった。私の瑕疵で自分を除籍すればギルドに関してフレドさんにデメリットは発生しない……他の面でも思いつく限りの事をしよう。


「リアナちゃんがやりたいなら、しょうがないなぁ」


 だからまるで何でもないと言うようにそう告げられて、逆にそっちを想像してなかった私は理解するのに時間がかかって少し固まってしまった。


「え……あの、反対しないんですか……?」

「ん? 反対して欲しかった?」

「や、違います……けど!」


 慌ててブンブンと頭を横に振ると、なら一件落着だとばかりにフレドさんは笑うだけ。


「残りはアンナさんのとこに向かいながら話そうか」


 どうしてこんなに簡単に受け入れてくれたんだろう。宿の廊下を移動しながら、窺うように隣を歩くフレドさんの顔を見てしまう。いつものふにゃっとした笑みで、いつもの口調で話すフレドさんだ。


「リアナちゃんはいつも……なんと言うか……いつも人の頼みを聞いてばかりでしょ? 自分から何かしたいって聞いたの初めてだから」

「そう……ですか?」

「そうだよ~、初めて。ギルドの依頼でも、向こうが欲しがってるのをわざわざ受けてあげてるじゃない? 自ら動くのも、昨日のギルドの前みたいな、緊急性の高い人助けだし……」


 それは消極的に生きてるというか、私に主体性がないからだと思う。人に感謝されたいって心の中で常に思ってるから、誰かが求めてる仕事をやりたいだけ。家に居た時からずっとそうだった。自分で学びたいと行動したことは何もなくて、家族に言われるがままでしかない。褒めてもらえるかもしれないって、そのためにやってた。

 でもフレドさんが言い換えると、気恥ずかしくなるくらい素敵な事に聞こえてしまう。そんな立派な考えでやってるんじゃないのに。


「だから俺がリアナちゃんがやりたいって思った事、手伝いたくなっちゃったんだよ」


 ……自分「も」やりたいと、そういう事にしてくれるフレドさんの優しさが眩しすぎる。


「フレドさんは……私の事を甘やかしすぎだと思います」

「え?! そ、そんなことないでしょ~。さっき、かなり意地悪な聞き方とか、試すような態度も取ってたじゃん……?」


 真摯な対応とは思ったけどまったくそう感じなかった、と伝えるとなんだか意気消沈していた。とても冷たく接したつもりだった……らしい。

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