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小悪党

 


 複数人で囲んで良からぬことをしようとしたのは分かっている。未遂だが犯罪を予告したし、現行犯として確保したはいいのだが扱いに悩んでしまった。

 街まで巡察隊を呼びに行く必要があるが、縛ったとはいえ放置はしかねる。縄を解いて逃げ出すかも……という心配もあるが、意識が戻る前に彼らが魔物に襲われたらと思うとさすがに気が引ける。このあたりに魔物はいないから多分平気だとは思うのだが、何事も「絶対」はないし。


 私は足元に転がった男性4人を見下ろしてこの後の事を考えて、面倒ごとになってしまったと少し憂鬱になった。本当は、まだやりたい作業があったんだけど。


 しょうがない、もう切り上げよう。街まで自分の足で歩いてもらうしかないかな。台車のようなものがあればいいのだが、さすがにそんな用意はしていない。このまま地面を引きずる訳にもいかないので一度起こさないと。気付け薬はあったかな……。




「……い、おーーい!! リアナちゃん!!」

「あ、フレドさん」


 採石場から続く埋もれかけた街道を歩いていると街の方から誰かがやってきた。誰だろう、と思うまでもなく、呼びかけられてフレドさんだと気付いたのだが。


「朝に別れたぶりですね……どうしたんですか? そんなに慌てて……」

「い、いや……デュークがタチの悪い知り合い達に声かけて、はぁ……依頼を受けずに街を出たって聞いて……リアナちゃんに何かするつもりじゃって……」


 全力疾走してきたらしいフレドさんは、息継ぎの合間に状況説明をする。私の後ろに縄で縛られて繋がれた当の本人を見て、ホッとしたような表情を浮かべた。


「怪我、してない? 大丈夫だった?」

「はい、私はまったく」

「……間に合わなかったみたいだけど、リアナちゃんに何もなくて良かったよ」

「わざわざ危険を知らせに来てくれたんですね。ごめんなさ……ありがとうございます」


 また口癖のように謝罪しかけて、言い直した私にフレドさんは「それでよし」と言うように笑った。


「俺が代わるよ。このままだとすごい目立つ事になるし、リアナちゃんだと巡察隊の詰め所に着くまでにすれ違った冒険者達に質問攻めに合って進めなくなりそうだから」

「確かに……そうですね。それでは、あの……お願いします」


 デューク・ゴードという男は素行は悪いが顔は広いと聞いている。状況を知らない第三者に何事かと詰め寄られたら、無駄に騒ぎになってしまいそうだ。上手く対応する自信のない私は申し訳ないと思いつつ、縄の端を持つ役を代わろうと言われて素直に渡した。


「とりあえず、リアナちゃんに悪い事しようと企んだデューク達が、返り討ちにされたって認識でOKかな?」

「はい。あの……ごめんなさい。逃げるようにって言われてたんですけど、置いていきたくない荷物もあったし、私でもなんとかなりそうだったから、つい」

「まぁ、進んで危険な手段を取って欲しい訳じゃないけど……避けて通れない事もあるからね」


 確かに……今日逃げても今後ずっと機会をうかがって同じような事をしようと付け狙われてたと思う。

 苦笑したフレドさんは、今走ってきた道をすぐ戻る事になったのに、その疲労感を一切表に出さずに私の隣を歩いてくれる。


「……そう言えばこいつら、どうしてこんなに満身創痍なの?」


 フレドさんが合流してから一言も、言葉を口にしていない彼らを視線で指し示したフレドさんが私に問いかける。ああ、そうだ。少し前から大人しくなっていたから意識してなかった。


「意識を失ってる間に縛り上げたんですけど。最初は従ってくれず抵抗しようとしたので、抵抗する余裕がなくなるくらいのペースで走り続けたんです」

「走って……」

「後ろから攻撃される可能性も考えて、一応魔法反応とかも警戒してましたけど、そこまではされなくて良かったです」

「……自分の立場を理解して抵抗やめたわけじゃないと思うよ」


 最初は「こんなことしてタダで済むと思ってるのか」「今なら許してやるからほどけ」とか騒いでいたけど、走り続けるうちにしゃべらなくなっていたな。

 フレドさんが視線を向ける先の彼らはぜぇはぁと、さっきまで走り続けて乱れた呼吸を整えるだけで精いっぱいのようで、私とフレドさんに恨みがましい視線を向けるものの口をはさむ余裕すらないみたいだった。

 特に負荷とかはかけてないのだが、走るのがとても苦手な人達らしい。特にゴードさんなんて、冒険者のはずなのにあのくらいのペースで少し走っただけで息が切れるとは思ってなかった。ううん……装備が重いのかな。




「え、こいつらそんな事言ってたの?!」


 そうして街に向かいながら簡単に何があったのか説明していくと、なんだか私よりもフレドさんが怒り始めた。「余罪がたんまりありそうだな」と呟くフレドさんに内心同意する。


「その映像記録は証拠になるからギルドマスター……は難しいか。ダーリヤさんか、いなかったらクェドさんって職員を呼んで対応してもらって。犯罪行為をした冒険者を連れて来るって。あ、リアナちゃんは中の映像……絶対見ないようにね!!」


 私は先に街に向かって巡察隊と冒険者ギルドに連絡をしておくように頼まれて、その場を走って離れた。フレドさんが着くまでに状況説明を終わらせないと。なら最速で戻るべきだ。

 幸い人通りのない道なので、通行人にぶつかって迷惑をかける心配もない。街まで走っていこう、とスピード重視で身体強化魔法をかけて地面を蹴った。




「……何でギルドではお前がしゃしゃって出てきたんだよ」


 感心するくらい効率のいい、理想的な身体強化をかけてあっという間に駆けていくリアナちゃんの後姿を見送ると、足を止めて見惚れていた自分に気付いて歩みを再開した。

 ジークの発言は先日の「喧嘩」として処理されたギルド内での暴力沙汰のことを言っているのだろう。その言葉の裏には、「あんなに強いと知っていたら手を出さなかったのに」というどこまでも身勝手な責任転嫁が透けて見える。たしかに、あの場で俺が手を出さなくてもリアナちゃんなら簡単に反撃して自分で切り抜けられた。そしたら実力差を理解して標的にはしなかったはずだけど。

 そうやって、自分が絶対強者でいられる相手だけ狙って犯行を繰り返していたんだろう。


「リアナちゃんが俺なんていらないくらい強いのは関係ない。俺が、お前のあの発言聞いて抑えきれないくらい腹が立った、それだけだ。……ほら、ちゃんと歩けよ」

「チッ……いつもヘラヘラしてるくせに、そっちが素か……」

「どうでもいいやつにはそれ相応の態度を取る。当然だろ?」


 わざと乱暴に縄を引くと、デュークと繋がった三人ごとバランスを崩してたたらを踏んだ。最後尾の一人は転んで顔面から地面に突っ伏す。言い逃れできない状況で捕まった事に相当苛立ってるようで、走って乱れた呼吸が整ってきた途端にリアナちゃんに聞かせられないような悪態が次から次へと出てきた。……先に戻ってもらって良かった。

 その犯行動機にまったく共感も理解も出来ないが、同じような事を今まで覚えてないくらい続けてたってことが窺える。余罪まで全部追及して確実に刑務所にぶち込みたい。女の子相手に、男が数人がかりで、映像記録の出来る魔道具を持って。……黒い噂はあったものの、今まで被害者からの訴えが不自然になかった理由が分かった。本当に胸糞悪い。

 こいつの父親の事を思うと不安だが……最悪、たいした期間しか収監できずに戻ってきたとしても、リアナちゃんじゃなくて俺にヘイトが向くように思いつく限り煽っておく。


 こいつのパーティ-メンバーには女性もいたはずだが彼女達は大丈夫だろうかと心配したが、本当に腹が立つことに相手を選んでるこいつは、自分に近い人間には良い顔を向けていたのを思い出した。

 たまたまリアナちゃんが強くて、その上で自分の能力に自覚が無いから、こいつに目をつけられてしまった。リアナちゃんが、言動通りの駆け出し冒険者だったら被害に遭っていた訳だから……。

 悍ましい。こいつらの前科を想像すると胃の中を冷たいものが撫でて、吐き気すら沸いてくる。今まで被害に遭った人達がいるというのに、身勝手な事にリアナちゃんに何もなくて良かったと思ってしまった。……こんな事、優しいあの子には絶対に言えない。


「……リアナちゃんが巻き込まれる前にどうにかしておくべきだったな」


 便利な奴として中途半端に生きてるうちにすっかり事なかれ主義の嫌な奴になってしまっていたようだ。このままじゃいけない。

 声だけデカい、こいつのパーティーメンバー達の対応もしなければならないし、きっかけになったリアナちゃんが標的にされないように俺が上手く立ち回らないと。


 街に戻ってどう動くか。歩きながら、自分の使える人脈も含めて全力で最適解を考えていた。


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