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苦手な事

 


 家族に見つかってしまうのは避けられないと考えて、そうなった時に連れ戻されないよう守ってくれる立場の貴族から保護をしてもらう。それを目標に成果を出そうと決めたものの、それが実現できるかどうかはまた別の話。

 その評価される実力が無い私には無茶な計画だが、やらないわけにはいかない。だって、それ以外に貴族から保護をしてもらえる方法なんてないから。他の……私がこの国の貴族と婚姻を結ぶというのも一瞬考えたが、協力させる人にも申し訳ないし、この手は使うつもりはない。


 外国とはいえ、公爵家から要請されたら余程貴重な存在でない限り引き渡しに応じるしかないだろう。それを突っぱねてもらえるくらいの価値を示さないとならない。

 このリンデメンの街の領主は子爵様で、近隣のいくつかの町や村を含めた一帯を治めているが、出来るなら領主様の父親である侯爵様の力を借りたいところ。お子さんを助けたお礼にと領主邸に招かれているので、まずはそこで子爵様に顔を売る予定である。


 冒険者としての活躍は正直難しい。あまり危険な事はして欲しくないとアンナに止められたというのもあるが、短時間で貴族から保護を受けるほどの冒険者になるには「強大な敵」が必要になる。

 幸いなことに、近年ではそんなに強力な駆除対象の魔物なんて滅多にいない。ごくまれに発生しても、普通は各地の軍が動く。凄腕の冒険者がアドバイザーとして着くことはあるが、そういった場合は長年冒険者として活動してきた方がギルドから指名されるので、私が入る隙間はない。このまま活動を続ければそこそこ有能で便利な冒険者にはなれると思うが、それでは庇護を受ける程の存在にはなれないだろう。

 強大な魔物の出現情報が出るたびに世界各国を移動して討伐して回る冒険者もいるが、ごく稀な例である。


 アンナは音楽や、絵画、文筆を含めた芸術方面の活動をすすめてくれたが、まずコンクールや芸術家の出入りするサロンへの伝手がないのでこれも難しいだろう。フレドさんも何故か自信満々で、「見る目がある人に一回見てもらえば絶対パトロンになってもらえる」なんて言っていたが……二人は私へのひいき目が入っているから、それを全部は信用しかねる。

 さすがに過大評価しすぎだと思うのだが、二人は認めようとしない。芸術家を抱えてるような立場の方は大体王都にいるので、この街から離れたくない私は気が乗らなかったのもある。


 なので一応現実的な道として、錬金術師として本格的に活動しようと考えていた。この国でもクロンヘイムでも共通の、成人になる16歳の誕生日を過ぎてからになるが。なのでそれまでの1カ月ほどは魔道具製作の準備期間にあてる予定だった。


 錬金術でも、ポーションなどの魔法薬についてはちょっと自信があるのだが。人体に使う魔法薬を販売するには魔法薬製造の免許が必要なので、トノスさんに作ったような一般的な魔道具で何か作ろうと思っている。

 クロンヘイムの魔法薬についての資格は持っているけどここでは使えないし(試験と実務の一部は免除になるが)そもそも本名で取得した資格なので出すわけにいかない。ポーションを知り合いにあげるとか自分の仲間に使うとか、そのくらいは慣例的に許可されているけど。それを逆手にとって無認可で製造販売されてるポーションも巷にたくさんあるが、貴族のお抱え錬金術師を目指すには相応しくない。


 いくつか「こんなものを作ろう」という構想はしているが、その内どれかが無事商品化までいくのを祈るばかりだ。フレドさんの言う事には開発が出来る錬金術師がそもそもとても貴重らしいから、私でも何とかなるんじゃないかと希望的観測を抱いている。……あ、これ。もしかして、少しは前向きに考えられるようになってるんじゃないかな。


 今日はその試作品に使う、魔道具製作の材料を確保しに行くために森に向かっている。街でも購入できるが自分で用意した方が安上がりだし、素材の状態もきちんと把握できるから。

 フレドさんは心配性なのでついて来たがったが、今までも何回も一人で入ってるし浅いところで用事は済むから大丈夫だとなんとか納得してもらった。フレドさんの事を慕う女性達の事を思うと、私の都合で付き合わせるのってやっぱり申し訳ないし。

 でも、誘拐事件に自分から首を突っ込んだせいで、フレドさんの過保護が加速してる気がする。


「誘拐犯の一味もほとんど捕まったみたいだよ、良かったね」

「捜査してくださった巡察隊の皆様のおかげですね」

「いや、リアナちゃんの描いた人相書きの尽力が半分以上あると思うよ」

「そうでしょうか……」

「そうだよ! あんなそっくりな人相書きが無かったら巡察隊も確信持って逮捕なんてできなかったんだから。広場で一枚いくらで似顔絵描いてる人も見るけど、それに負けないどころか『一瞬見ただけなのに!』ってびっくりするくらいそっくりだったって聞いてるし。間違いなくすごい特技だよ」


 私が関わった誘拐事件は翌日にはほとんど終息していた。あの中で一番立場が上だな、と感じた帽子の男だけが捕まってないが、人相書きは領境を越えて共有されているので時間の問題だと巡察隊の人が言っていた。手下だったらしい男達は皆捕まったそうだし、協力者が居なければ身を隠すのにも限界があるだろう。

 誘拐犯は身代金と共に、数名の犯罪者の保釈を子供と引き換えに要求していたとか。聞くつもりは無かったんだけど、聴取を受けている巡察隊の街本部で聞こえてしまって……。

 検討する前に子供が無事発見されたから、収監されていた犯罪者が解き放たれるような事にはならずに済んで良かったけど。


 確かに運良く、速やかな誘拐事件の解決につながる情報を提供できたが、こうしてフレドさんに面と向かって褒められると恥ずかしい。家族以外から褒められるのは社交辞令が入っていると思って正面から受け取ってなかったから。「さすがジョセフィーヌ様のご息女ですわ」「稀代の魔術師と呼ばれるアジェット公爵もさぞかし鼻が高いでしょう」と色々称賛の言葉をもらったけど家族の威光あっての評価だとしか思っていなかった。実際そうでしかなかったし。

 それ以外だとこうして心から褒めてもらう事はアンナ以外にはなかったので、慣れない。そわそわするけど、……でも嬉しい。


 アンナに褒めてもらうときは「ありがとう」って素直に喜んで答えられるのに、何でフレドさんに同じように言われると、こんなに気恥しくなってしまうんだろう。嫌じゃないの、すごく嬉しいんだけど。


「リアナちゃんは自己評価が低すぎるよ! ……まだ俺の褒め方が足りないかな?」

「ち、ちがいます! 私が、いつまで経っても客観視できてないだけで……」


 そう、いつも、照れちゃうくらい褒めてくれる。私に自信を持って欲しいってしてくれてるのもあるだろうけど。その言葉が全部心から言ってくれてるなって分かるから、そう思うと嬉しくてそわそわして、何故かその場から走って逃げたくなってしまう。


「フレドさんも、あの、怪我しないように気を付けてください!」


 結局、無理矢理話を変えて、また半ば逃げるように冒険者ギルドに向かうフレドさんから離れてしまった。今までアンナ以外に友達がいなかったせいで、こういう時にどういう態度を取るのが正解なのか分からない。

 世の中の人は、親しい人に褒められて、ベッドに突っ伏して「わー!!」って叫びたいくらい照れた時どうしてるんだろう。


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