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気付いてなかった

本日12/15に「無自覚な天才少女は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~」の第一巻が発売ですよ!

もうお手に取っていただけましたか?

 え? 今は12/15の47時なので余裕で当日ですよ?(すっとぼけ)

(発売日に合わせた投稿が出来なかったことを一切無かったことにするムーブ)


 

「あの……リアナちゃん、どうして逃げなかったの?」

「一応目上の……冒険者の先輩ではあるので、穏便に断りたいと思ってるうちに手を掴まれてしまって」

「それで振り払わずにいたの? いや……ああいう時はすぐ逃げなきゃダメだよ~」

「後からまた面倒な事になったら嫌だなと思ってたら……ごめんなさい」


 あんな男相手に「穏便に」と考えてしまうリアナちゃんの思考は、今から簡単に矯正できるものではないだろう。自己評価が低すぎるのと一緒、多分育った環境のせい。


「リアナちゃんが謝る事じゃないよ! ただ……さっきみたいな事があったら、次は……すぐ逃げるか、それが難しかったら周りに助けを求めて欲しい。リアナちゃんは悪くないのに、逃げるなんて嫌かもしれないけど……」

「いえ、大丈夫です……分かりました。あの人にはもう近づかないようにします」

「ほんと、デュークじゃなくてもすぐ逃げてね。ナンパ男のメンツなんて気にしないで、殴ったくらいなら正当防衛で済むから!」

「ありがとうございます……ふふ」


 笑ってくれたリアナちゃんにやっと、少しだけ安堵する。

 ……次があったらボコボコにしちゃっていいよって言いたいけど、逆恨みしてきたら嫌だなぁ。俺がいれば間に入ってヘイトをこっちに向ければいいけど、一日中リアナちゃんと一緒にいるのは流石に無理だから。

 リアナちゃんや俺も助けに入れないタイミングで、アンナさんに何かあったらともちょっと心配してしまう。さすがにそこまでバカな事をするとは思いたくないが。


「他にもリアナちゃんに声かけてる人いるってギルドから聞いてるけど、そっちは大丈夫?」

「うーん。多分大丈夫だと思います」


 言ってから思い出した。リアナちゃんの「大丈夫」は参考にならないんだった。

 あの調子ではデューク以外の面倒な輩に絡まれた時も「穏便に」と考えてしまいそうだなと感じる。さすがにもうデュークの事は避けるだろうけど。……おそらくこの推測は間違ってない。

 優秀だと有名になりつつあるリアナちゃんをパーティーに入れたいと、攻防戦も起きている。ナンパ目的のものは俺が伝手を総動員して全力で抑え込んでるけど、全部は防げてないようだし、いつまた同じことが起きるか。

 自分をあまり大事にしないリアナちゃんに正確に事態を把握してもらうために、俺は伝え方を変える事にした。


「アンナさんが……」

「アンナが?」

「リアナちゃんが、アンナさんがその辺の男にされてたら嫌だなって思う事をされたら、全力で逃げて欲しい。俺がいたらすぐ助けたいけど。抵抗してもいいし、騒ぎにしてもいい。相手がどうなっても絶対何とかするから」

「……フレドさん、意外と過激な事言いますね」

「あ……いや、そのくらい心配なんだよ~」


 無意識に、ナンパ男の生死を無視した言葉を口にしてしまって、失態を悟った。しまった、まだ上手く隠しきれない。

 俺は疚しさから目を見れずにあさっての方向を見て口元だけで笑って見せる。


 最悪だ。……最悪の自覚の仕方だった。


 本当に、最初はほんの少しの同情と自己満足だけだった。こんなに良い子なんだから幸せになって欲しい、危なっかしいから手助けしたいって、ただそれだけ。

 アドバイスだけして船から降りて見送る事も出来たけど、ここでこのまま別れたら俺はずっと気にし続けて、「手を貸してあげれば良かった」と後悔するだろうと思った。だから俺にしては珍しく、気付いたら自分から首を突っ込んでいたんだ。

 物語の主人公のような、きれいな善意じゃない。リアナちゃんの家族の話を聞いて腹が立ったんだ。弟に重ねていたのもあると思う。俺という存在のせいでずっと正当な評価をされずにいた、第二王子に。

 ……いや、今は王太子に正式に指名されたんだっけか。


 だから、そんな家族から離れて幸せになればいい。その手助けがほんの少しでも出来ればと、そう思って。

 ……本当に、最初はそれだけだったんだ。


 「リアナちゃんだっけ。親戚の子、男に絡まれてるぞ」って言われたときも、最初はなるべく騒ぎにせず納めるつもりだったのに。状況にもよるけど、無駄に大事にしてしまったらリアナちゃんの不利益になるから。

 いつもの様に、うまく仲裁するつもりだった。

 それが……あの男がリアナちゃんの手を掴んで、何を言ってるかを聞いたら自分でも信じられないくらいに怒りが沸いてきて、理性が止める間もなく体が動いてしまっていた。


 こんなに怒れたのか、と我が事ながら驚くほど。いやそもそも「自分にも怒りという感情があったのか」とそこから。

 自分が殺されそうになった時でさえ怒りは沸かなかった。王位に興味はないと言ってるのに、という憤りは感じたかな。後は自分が一人目の王子として生まれてきてしまった申し訳なさと、そんな自分の不運に向けるやるせなさだけ。


 さっきの事だって、きっと自分に起こってたらこんな感情は沸かなかった。実際似たような経験もあったな。

 昔居た街で、副ギルドマスターの娘に言い寄られていたのだ。割の良い依頼を回さないとか、重要ではないけど知ってると得するような情報を隠されたり。そのくらいの、リアナちゃんよりはだいぶマシな状況だったけど。


 その時の俺は面倒になるのが嫌だと諦めて強く抵抗せず流したが、顔見知りの女の子が同じような目にあってたら流石にその場は割って入るかな。

 今のがリアナちゃんでなくても、同じようにしただろう。空気読めないフリしてやんわり間に入って、言ってる内容もやばかったからそこはちゃんとギルドにチクるけど、でもそれだけ。

 それが普段の「冒険者フレド」らしい対応だ。

 デュークが若い女の子にちょっかいかけるのなんて初めてじゃないし、しょうもない繋がりのくせに裏の人間との関わりを臭わせて後輩冒険者を軽く脅してるのは知っていた。けど正義感出して解決しよう、正そうなんて思ったことも無かったのに。


「フレドさん、大丈夫ですか? さっきどこか怪我でもしましたか?」

「! ううん、何でもないよ。慣れないことしたからドキドキしちゃってるだけ」


 不自然な程に口数の少なくなった俺に心配そうな顔を向けてきたリアナちゃんの意識を、ごまかすように話を逸らす。

 バカか。絶対に……絶対に気付かれてはならない。

 実の家族に傷付けられたこの子が、せっかく信頼してくれるようになっていたのに。これに気付かれたらきっとリアナちゃんは裏切られたと感じるだろう。


「もっとスマートに助けられれば良かったなぁ~、ごめんね騒ぎにしちゃって」


 俺はいつもみたいにヘラヘラ笑えてるだろうか。不審に思わず流してくれるといいのだが。


「いいえ! …私の代わりに注目集めるような事をしたんですよね。ごめんなさ……いえ、ありがとうございます」

「そんなんじゃないよ、ちょっとイラッとして、つい手が出ちゃっただけ」


 今日イライラしてたから八つ当たり入っちゃったかな~なんてわざと軽口も叩いておく。

 対応は間違ったけど、結果的にリアナちゃんから注意を逸らせたから良しと言うことにしておこう。あの場にいたほとんどの奴は騒ぎを起こした俺の事しか記憶に残らないと思う。

 ……ほんとに八つ当たりなら良かったのに。


 自分でも不思議なくらい怒りが沸いて、否応なしに自覚してしまった。もっと前に気付いていれば良かった。そしたらどう隠すかちゃんと考えられたのに。

 こんなタイミングで……リアナちゃんの事を「特別な存在として好き」だなんて、知りたくなかった。

 腕を掴んでいたのも、デュークが放った言葉も、だからあんなに自分は腹が立ったんだと、さっき初めて気が付いた。人から向けられる恋愛感情にはとても敏感で、どんなにわずかでもすぐに察して避けられるのに。自分に対してはここまで鈍いなんて笑いそうになる。

 


「フレドさん、あの……」

「ごめんね、晩ご飯におじゃまする予定だったけど今日は無理っぽい。ほんと、慣れない事するもんじゃないね。今更緊張してお腹痛くなってきちゃった」


 胃に手をあててオーバーリアクションで痛そうな顔をして見せる。心配させたい訳じゃないけど、他のうまい手が思い浮かばなかったのだ。


「大丈夫ですか?! 胸やけはしますか? 痛みはどんな感じの……みぞおち、それともおへその方ですか? どうしよう、……消化器系のトラブルに効く魔法薬は……」

「いやいや、そんな大層なものじゃなくて! 食欲ないくらいで寝てたら治るやつだから!」


 また「売ったらいくらになるんだ」と言いたくなるような高性能なポーションを出そうとしてきたリアナちゃんに、慌てて待ったをかける。突然自覚して心臓だけ無駄にドキドキしてるけど、仮病でそんなものを使うわけにはいかない。


「そうですか……?」

「うん、だから、ごめんね。アンナさんに謝っといてくれるかな。俺、今日は早めに寝るよ」

「何か食べたいものとか、必要なものとかは」

「大丈夫だよ~簡単に食べられるものも一応あるし……明日もお腹痛かったらお願いするかもしれない。ありがとね」

「はい……お大事になさってください」


 お腹が痛いって、我ながらカッコ悪い逃げ方だなぁ。

 別れの挨拶を口にして、苦笑しながら自分の部屋に入る。入ってすぐ、明かりを付ける事も忘れてズルズルとドアを背に伝い床に座り込んでしまった。


「……マジか~……」


 はぁ、とため息をついて薄暗い部屋の中、両手の平で顔を覆う。

 自分の感情を自覚したら、リアナちゃんとどうやって喋っていたか途端に分からなくなってしまった。ああ~……15歳の、8つも年下の女の子に保護者面して接してたくせに、その子に恋愛感情を抱いてしまうなんて……自己嫌悪で死にそうだ。

 これでは、リアナちゃんにちょっかいかけてる男達に何か言う権利なんて無いじゃないか。いや、当然これからも言うけどさぁ。


 明日にはいつもの俺に戻らないと。今日みたいな態度のままだったらリアナちゃんもアンナさんも、周りの人も不審に思うだろう。

 ……だから、今日だけ。今日だけはみっともなくジタバタ悩ませて欲しい。

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