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終わった話

■□■□■□


 十分運は良かったはずなんだよな。たしかに生まれは恵まれた環境ではなかったのだろうけど。浮気で出来た子供をまともに療育してくれる義理の母が出来たのに、それに感謝するどころか虐待されているかのように振舞って恥をかかせた。

 貴重な光属性の魔力が芽生えて公爵家に引き取られるとなった時に、その男爵家と縁まで切っている。本体は親権を盾に子供を虐げる親から引き離すための制度だったのに、よくもこう悪用出来るものだと調べた時に恐ろしくなったよ。

 本人にも言った事だけど。アジェット家に引き取られた後も、わざわざリアナちゃんを攻撃するような真似しなければ幸せになれたのにね。

 その場合は俺とリアナちゃんは出会えてないけど……でも俺は、リアナちゃんが傷付かなくて済んだんなら、そっちの方が良かったなぁって思う。

 でも、全部もうなかった事に出来ない過去の話だ。


「これ、学校に必要な書類。ニナ……これからは嘘は吐かないで、真面目に生きて欲しい。悪い人だっているけど、貴女が思ってるより……ほとんどの人って親切だよ」

「……。」

「風邪とか引かな……あ…………さよなら。元気でね」


 リアナちゃんの言葉を最後まで聞く前に、ニナは背中を向けて学校の敷地の中に向かって走って行ってしまった。

 別れの挨拶すらせずに。恩知らず、と腹は立つ。でもこうして別れる事になっても良心が痛まないって点で見ると、ある意味良かったのかな。


 クロンヘイムを発つ前に買い物した時から、あのニナって子はずっと不機嫌だった。優しいリアナちゃんは気遣ったりしてあげてたけど、頑なに「何でもない」「ウザい」なんて言ってずっと拒絶してたのはあの子の方だから。最初に学校行く時一緒に挨拶に行こうか、って提案も断ったのは本人だ。「家族でもないくせに」って。

 リアナちゃんは気付いてなかったけど、俺には何となくその理由が分かってた。

 多分あの子、リアナちゃんの身内になったつもりでいたんだろうな。騒動もあって光属性の魔力の研究機関については流れたと思ってたのか、クロンヘイムを出た後もリアナちゃんが自分の面倒を見てくれると考えているような甘えが見えた。

 やっと分かったんじゃないかな、損得抜きでニナの事助けようって動いてくれたリアナちゃんの優しさとか、ありがたみが。まぁ、遅すぎるんだけど。

 それが、「餞別に受け取って」と言われて、自分だけ置いて行かれるのを初めてそこで悟ったんだろう。

 何度かすがるような目を向けていたのは見たけど、結局「私も一緒に行きたい」とは言えなかったみたいだった。

 もし、一言言ってたら、きっとリアナちゃんはニナをミドガランドに連れてってあげてたかもしれない。けどそうならなくて良かったと思ってる。


「……ちゃんと自分の行いを反省して、生まれ変わってくれるといいな……」


 一度も振り返らずに走っていく背中を、リアナちゃんは心配そうに見つめていた。さっき「もし、困った事があったらここに連絡していいから」ってリアナちゃんは連絡先を渡してたけど、多分あの子は意地でも頼らないんじゃないかな、って俺はそんな事を思っていた。

 昼食はどこで食べよう、なんて明るい声で話しかけるアンナさんと琥珀のやり取りを見ながら、俺はエディと並んで、のんびりその後をついていった。



「やっと会えた!! 久しぶりの兄さんだ!!」


 ミドガランドに戻った翌日。竜の咆哮(ドラゴン・ロア)のクランマスターの部屋を訪れた俺は、扉を開けた途端に突っ込んでくる人影。俺は咄嗟に床に踏ん張った。

 覚悟したにも関わらず、リンデメンの街で会った時と同じ勢いでバーン! と抱き着かれて思わず数歩よろめく。相変わらずの反応のクロヴィスに苦笑いしつつ、「ちょっと腕を緩めてくれ」って思いを込めて背中をタップした。


「大げさだな、共振器で毎日連絡してただろ」

「いや、本物の兄さんは別なんだよ」


 いつも通りよく分からない理論を述べ始めたクロヴィスを制止して、俺達は真面目な話を切り出した。

 ちなみに一緒に来ていたエディは、飛びつかれてよろめく俺を支える事なく、さっと一人だけ脇に避けていた。主人を盾にしおって。

 やれやれと首を振りながら応接用のソファセットに腰を下ろす。普段は秘書がいるようだが、俺が来る時は彼も含めて人払いされているので、エディがいつも通り給湯スペースに向かった。


「兄さんが無事に帰ってきて良かった……アジェット家で監禁されたって聞いた時はどうしようかと思ったよ」

「クロヴィスがその言葉使うとちょっと不穏だな……」

「でもこれで、リアナ君とご家族の問題が解決したね。クロンヘイムの横槍もこれで心配しなくて済むし、やっと人造魔石の大規模プラント計画を次の段階に進められる」

「そうだなぁ」


 これで、俺の事を迎え入れてくれるビスホス侯爵家への手土産になるだろう。

 正直、クロヴィスを支持する家にも、今はどこまで王妃の毒が入り込んでいるのか分からない状況だ。敵ではないと確信出来るビスホス侯爵家としっかり縁を繋いでおきたい。

 正面からの糾弾は、宰相であるメドホルミ侯爵や他の取り巻きに潰される。そもそもそれをしたら無辜の民への被害が大きくなりすぎるからやるつもりはない。当然水面下で動いてる訳だが、まともに見えても調べたらあの女を支持していたりするのがその辺に居るので気が抜けない。

 正直……甘い蜜吸いたくて汚い事してるなら対処のしようもあるんだよ。ただ俺の生物学上の父親やメドホルミ侯爵のように、盲目的にあの女に心酔してる輩がやっかいなんだよな……。

 今までもそう……無関係に見える所から主犯が名乗り出て、毎回あの女まで追及の手が届かない。

 それらの生贄は、魔眼の力で作り出しているのは分かってるんだが……洗脳じみたその力を無効化する方法も、対抗する手段も現状ない。

 犯罪者に装着するような魔封じの枷みたいなものが作れたらと思ってたんだが……。現在俺が使ってるものは、俺が「自ら望んで身に着けている」から有効なだけで、あの女にそのまま使えない。そもそも俺が使ってるこれで本当に力を封じる事が出来るのか確証もないんだよな。

 なので現状は手詰まりになってしまっている。


「……ちょっと考えてる事があるんだけど」

「また工場建てる領地に挨拶って名目でしばらく帝都離れるつもり?」

「どうにもならなくなったら、そんな感じで逃げ続けるのもアリだな。いや、今回やろうとしてるのは、もしかしたら解決の糸口になるかもしれないって考えてて……」


 俺は自分の考えた仮説をクロヴィスに話した。

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