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こんなはずじゃなかった


「あのっ……! あたしの前にいた、光属性を持ってる生徒の指導をしていたのってゼッケル先生ですよね? ちょっとお聞きしたい事があって」

「君は……ああ、光属性の魔力が発現して去年編入した生徒ですね」


 あたしの日常は、「幸せ」とから遠いものになってしまっていた。

 他の人は持ってない力を得て、お金持ちの家の養女になって。王子様をはじめとしたお金持ちで身分もある人達とも知り合いになれて……途中まで上手くいってたのに、どうしてこうなってしまったんだろう。

 それもこれも、リリアーヌが田舎で療養してるんじゃなくて、家出してる事が周りにバレたせいだ。しかも、家出した先で何だかよく分からない発明をして有名になってて、それがすっごくお金になる商品だった事で、「利益を生む天才を外国に追いやった」って色々な所からすごい文句を言われてて立場が悪くなっているみたい。

 王太子様の所で働いているジェルマン様がアジェット公爵と話している所を聞いたけど、あたしでは想像も出来ないくらいの桁の金額を「とんでもない損失が出た」と話していた。


 あのままリリアーヌがこの国にいたら、その発明はここで発表されてたはず。それを作るための工場を作ったり、材料を集めたり、その周りで生まれてたお金も全部計算するとすごい損をしてしまったって話だった。

 バッカみたい。ここにいたってリリアーヌが同じもの作れる訳ないじゃん。

 あの人達自分の得意な事だと、何かすごい事やっても家族で寄ってたかってけなしてて、良い結果を出してもちっとも認めようとしなかったくせに。絶対にリリアーヌが自分達より下じゃないといけないって思っててさ。ここ出て、チヤホヤしてくれる人しかいない場所に行ったから伸び伸び出来て、だからそんなものも作れたんじゃないの?

 まぁ、それに、もしここでその……魔石を人の手で作るってやつを思いついたとしても、あれが駄目だここが駄目だって絶対売り物にしようなんて話にならなかったはずよ。それは断言出来る。

 でも、ほんと神様って不公平だな。こんなお金持ちの家に生まれて何不自由なく育って、何でも出来るって嫌味なあの女が逃げた先で成功してるなんて。

 私はずっと酷い目にあってるのに。


「やっぱり、あんまり参考になる話は聞けなかったし、力も貸してもらえなかったな……」


 ゼッケルという男の研究室から出て来たあたしは、あまり期待していなかったとはいえ望んだ返事が引き出せなかった事にため息を吐いた。

 光属性の持ち主とは本当に珍しいらしく、あたしの前は何年か前に卒業生がいたきりらしい。

 その人も平民だったと聞いて、自分の身の振り方の参考にする目的もあって情報収集に来たんだけど……。


 ただ、求めていた内容ではなかった。あたしは、アジェット家から出る方法が聞きたかったのに。それも出来るだけ早くに。

 魔力が見つかってこの学園に入る平民だと、最初に養子にした貴族が就職先まで面倒を見るんだって。面倒を見るとは言っても、魔力持ちの平民に首輪をつけて都合の良い駒にしているだけなので、実質自由はない。

 それも別に、実子じゃないけどコネが使えるから良いじゃん、って思った受け入れたけど、このままじゃあたしにはろくな生活が待ってない。腹いせにどんな仕事をさせられるか……。

 たまに後援者のいない平民もいるけど、そういう人は平民用の寮に入って、学園を卒業したら軍に入ったり国から指示された職場で何年か仕事をする義務がある。借りを作る相手が貴族個人じゃなくて国に代わってるだけで、基本同じようなものだ。


 けど、それで済むならあたしもそうしたい。いっそ今からでもいい。

 ……今のあたしが、アジェット家と縁を切った上でお金に苦労せずに暮らしていく方法が知りたい。こんな生活続けたくない。


 リリアーヌがいなくなってからも、しばらくは問題なく過ごせていた。「功名心から焦ったアジェット公爵令嬢に巻き込まれた弱い立場のニナちゃん」として振舞っていれば、もらえる同情の方が多かったから。無駄に嘆いて見せるアジェット家の人達の話し相手をするのは疲れたけど。

 なのに……あいつが外国で有名になったりするから。ああもう、ほんと最悪。ろくでもない事しかしないんだから。家出の原因にされてるの、すごい迷惑。あたしを巻き込まないで一人で勝手に傷付いてて欲しかった。

 前はあんなに「光属性の魔法使い」のあたしに媚びて寄って来ていた他の学生達も、今では話しかけてこようともしない。

 今でもいない訳じゃないけど……公爵家のアジェット家とトラブル起こした養子の平民にちょっかい出してくる奴がまともな訳がないって、よっぽどの頭お花畑じゃなければ分かるし。

 この際あの家から出られるなら学生結婚してもいいんだけど、流石に不幸になるのが分かってる男を選ぶつもりは無い。


 学園では、大体の責任をアマドって教師に押し付けたのでそこまでまずい事にはなってない。だって実際そうだし。アマドが自分の研究のために狩猟会にあたしを無理矢理参加させたりしなかったら、こんな事起きてなかったんだから。

 事件自体がアジェット家の顔色を窺ってか、あまり話題にするのも避けられてる感じだったし。


 幸い、森の奥での事はリリアーヌとあたし以外知らない。「いきなり実戦の場に放り込まれて、魔物を前にパニックになっちゃったみたいで……。実は、あの日の事あまりよく覚えてないんです」って目に涙を浮かべて、調査に来たっていう兵士みたいな人達が来て話を聞かれる度に思い出して混乱してるフリをしてれば強く追及されなくなった。

 学園側もアマドの言葉だけ聞いて特例許可した負い目があるから、「編入したばかりでろくに訓練もしてない子供を、虚偽の実績を元に狩猟会に参加させたこの教員が悪い」って原因のほとんどを押し付けてクビにして、一応解決って事にしてたし。

 あたしが狩猟会に参加させるには足りなかった無能みたいに言われたのはかなりムカついたけど、そこで反論しても良い事無さそうだったからしょうがなく飲み込むしかなくて。

 ほんと……あんなヤバイやつがいるならもっとちゃんと説明しておくべきだったのよ。

 あのアマドだって、「アジェット君の言う事に従ってれば大丈夫」って言ってたのに全然そんな事なかったし、リリアーヌがもっとちゃんと止めてればこのんな事にもならなかったのに。そう考えると、また怒りで頭の奥がふつふつと熱を持ってくる。


 ああもう、こんな事になるんだったら、リリアーヌが狩猟会で一位になろうとしてあたしを森の奥に連れて行ったんです、なんて言わなければよかった。

 調査に来た兵士に話したみたいに、「初めて野生の魔物と戦う事になって、いざ檻に入ってない魔物を見たら怖くて怖くて、気が付いたらリリアーヌ様は怪我をされてて。よく覚えてないし、思い出せないんです」って言っておけば。

 そしたらリリアーヌは良い子ちゃんだからあたしがちょっと無茶したせいだったとかわざわざ言わないだろうし、その後アマドがクビになって終わりだったと思う。……判断ミスっちゃったな。

 だって、あんなに……他の家族に溺愛されてる末妹ちゃんに、怪我させたの私が原因だったなんて……絶対知られるわけにはいかないってあの時は思ったんだもん。


 今のあたしの状況は、かなり悪い。

 狩猟会でリリアーヌが怪我をした責任はアマドに行ったけど、アマドがクビになっていなくなった今、人造魔石の開発者であるリリアーヌを外国に取られた原因を全部あたしのせいにされそうになっているのだ。


「ねぇ、聞きました? アジェット家の養子の話」


 むしゃくしゃしたまま廊下を速足で歩いていると、窓の外から聞こえてきた話に、思わず足を止めていた。……私の話?


「やっと報いを受けるんですってね」

「ドーベルニュ公爵家が糾弾していた件でしょう?」


 あいつら……リリアーヌとよく一緒いたのを覚えてる。リリアーヌが怪我して領地に戻ってる事になった時、心配してる王子様に「一緒にお見舞いに行きましょう」なんて誘ってた女もいたので特によく覚えていた。

 中庭は西日で明るくなってて、校舎の中にいるあたしには気付いてないみたい。

 あたしはそっと窓辺に近寄ると、見えないようにその場に屈んだ。


「ようやく、と感じもありけれども。あの方のせいで我が国の産業が他国の後塵を拝する事になったと思うと、足りないくらいですわ」

「魔石の鉱脈があった領地は、あの新しい魔石のせいで税収に大打撃ですからね。せめて我が国で発表されてればまた違いましたが……」

「本当に。原因を厳しく罰する事で、アジェット家への怒りを解いて我が国を優遇してくださるといいのですけど」

「でも、あの方はまだ未成年ですから、罪には問えないのではなくて?」

「未成年だからでしょう。ドーベルニュ公爵家も子供が犯人だと言われて拳を振り上げるわけにはいきませんから」


 私はそんな会話を聞いて、血の気が引いた。

 ……このままではリリアーヌがこの国から消えてせいで儲からなかったったって、それを全部あたしのせいにされてしまう。分かる、アジェット家は貴族だ、きっとやるだろう。あたしが全部悪いって事にして、見せしめにあたしを消して、それで終わりにするつもりだ。

 しかもそれをリリアーヌへのお詫びにして、また仲良し家族に戻ろうとしてる。絶対嫌だ。あたしがこんな目にあってるのに、逃げた先でも幸せになってるあいつがこれ以上手に入れるなんて。


 どうする、どうする? 逃げたいけど、お金もない。

 もしもの時のために現金を確保しようとは前から考えてたのに、お貴族様って自分でお金を持ち歩く習慣がなくて、お小遣いすらない。家の名前を出せば後から使用人が払っておくとか言われて、街でのお買い物が恋しいって強引にお忍びで買い物に行った時も財布は護衛の男が手放さなかった。

 アジェット公爵家の廊下とかに飾ってある小さい飾りの美術品っぽいのや銀食器とかをくすねて確保してあるけど、それを買い取ってくれる場所も知らないからお金に出来ない。

 

 こうなってからずっと、ここから逃げる算段はしていた。でも逃げるあてなんてない。

 逃げるのに手を貸してくれそうな知り合いもいないし。あたしみたいな光属性を持った貴重な魔法使いが働く先を探してたのに、アジェット家を無視して紹介できないとか……そもそも魔法を勉強して学園を卒業してないとどこも雇ってくれないなんて。

 血縁上の親であるあの男爵家なんて頼れないから、ここから逃げたら住むところも生きていくのに必要なお金もない。そんな状態の未成年の女なんて、しかもあたしは可愛いから不幸になる未来しか見えなかった。

 怪我はちょっと上手く治せないけどその辺の魔物は余裕で倒せたし、冒険者になればいいのになんて言われた事もあるけど。

 でもあたしは、必死になって、危険な目に遭いながら命がけでお金を稼ぐ……そんな生活絶対イヤだ。当然娼婦みたいな仕事も無理。あんな底辺の肉体労働者になんてなりたくないから、絶対幸せになれるように頑張って来たのに。

 

 最悪だ……どうして神様はあたしにだけ意地悪なんだろう。生まれてから今までが最悪だった分、せっかくこれから良い暮らしが出来ると思ったのに。



 ここで聞ける情報はこれ以上なさそうだ、と判断したあたしは帰るために門の方に向かった。……学園のエントランスにアジェット家の魔導車は見当たらない。

 リリアーヌの怪我について嘘ついてたのがバレた日から、アジェット家の人から怒りを向けられるようになった私の事を使用人達はぞんざいに扱い始めた。今日は迎えが来ないらしい。

 多少事情を知ってて、こういう指示が出来る使用人はあの家ではそこそこ高い地位にいる、貴族出身のやつらだ。

 お貴族様は本物の悪意を知らないみたいで、降りかかる嫌がらせはこっちが拍子抜けするほど大した事ない。怪我させるどころか痛い事もしてこないし。治安の良い場所で散歩程度の距離を歩かせるとか、こうして貴族令嬢なら与えられて当然の事をちょっと奪うだけで、あたしがショックを受けてメソメソ泣くとでも思ってるみたいでそこは笑える。

 よその家に「引き取った養子を虐げてる」なんてアジェット家が言われかねない事は出来ないから、暴力をふるったり食事を抜いたり持ち物を壊したりもしてこないのだ。もちろん、効果があるフリはしてるけど。


 でも、もうこうなったら、覚悟を決めて逃げるしかないかもしれない。

 質屋に心当たりはないけど、酒場とかで尋ねれば店を教えてもらえはするだろう。貴族の家から持ってきたと一目で分かる物の買取なんて足もとを見られてしまうと思うけど、この際仕方ない。

 今日から、本格的にあの家から逃げる事を考えて準備しないと。そうとなれば、換金できそうなものを集めなければ。


 王都の貴族屋敷が立ち並ぶ区画に向かって、学園から引かれている石畳の道。そこを歩きながら現状を解決する方法が他にないか考える。

 でもいい考えなんて何も浮かばなくて。どうして、どうしてあたしがこんな目に。これほど追い詰められるほどの事はしてないのに。あたしはただ、自分の幸運に感謝せずに悲劇のヒロイン面してたあいつをちょっと痛い目見せて、代わりに可愛がられようと思ってただけなのに。

 誰か、あたしをここから助けてよ。

 アジェット家の屋敷が見えて来る頃には、演技でなく、本当にちょっと涙が浮かんでいた。

 

「はぁ……やっと帰ってきましたか」

「グ、グレゴリーさん……」


 屋敷の中であたしを待っていたのは、公爵様の代わりにこの屋敷の中の事を掌握している執事だった。その表情を見ただけで、何かまずい事が起きたのだと直感する。

 そう言えば、見慣れない魔導車が敷地内に停まっていた。まさか……遅かった? もう捕まえに来たの? 


「……貴女も聞く必要のある話があります。鞄を置いて身嗜みを整えたら、一階の応接室に来るように。公爵様達とご客人がお待ちです」

「は、い……分かりました」


 部屋に入ってのろのろと学園の制服を整えながら、あたしはずっと頭の中でぐるぐる考えていた。……いっそ、今すぐこの窓から外に出て、この家からも押し付けられそうな責任からも逃げてしまいたい。


「……お待たせしました。アジェット公爵家に魔法使いとしてお世話になっております、養子のニナ・アジェットです」


 生きていける保証があったら、すぐにそうするのに。

 結局あたしは窓から外を少し眺めて、言われた通りに応接室にやって来た。ドアをノックして、習った通りに養子として挨拶をして頭を下げる。

 中に入るまで、あたしはよっぽど「やっぱり逃げた方が良かったかも」って迷ってたけど、その考えは頭から消えた。

 逃げずに言われた通りにこの部屋に来て良かった。そう確信するような転機が、この部屋で待っていたのだ。


「ああ、君がニナ・アジェット君だね。初めまして。今、保護者であるアジェット公爵家の方達とお話をしていたんだ」


 その人は、あたしの目を見てふわっと笑った。その途端、水の中に入ったみたいに周りの音が遠くなる。

 その人から目が離せなくなって……グレゴリーさんに背中を押されるまで、一番手前に座るように言われた声も聞こえてなかったみたいだ。


「初めまして。私はフレド……ここから北にあります、ミドガランドという国の第一皇子の筆頭秘書官をしております」


 す、と小さいカードが渡される。どうやらこれは名刺というものらしく、公爵様の座る前にも同じものが置いてあった。あたしはそれを両手で受け取ると、胸の前で持つ。ふわっとシトラスの爽やかな匂いがして、とてもドキドキした。

 すごく素敵な人……あたしが今まで見てきた中で一番。喋り方も優しいし、こうして座っていても分かるくらい背が高い。ゆるくウェーブする黒髪を横に流すように固めていて、清潔感もがあるのにどこか色っぽい。男の人なのに艶っぽい顔立ちには、親しみやすそうな笑みが浮かべられている。

 色付きのレンズが入った眼鏡は一見妖しくもあり、仕立ての良い上等な服に身を包んだこの男の人のアクセントにもなっていた。瞳は……ピンク色、かな? こんな色初めて見る。

 そして彼の後ろにこの屋敷の中で見た事のない男が立っているのに今気付いた。恐らくこの人の部下だろう。


「それで……秘書官殿、本当なのですか⁈ ミドガランドにこのニナを引き渡せば、リリアーヌが帰って来るとは……!」


 アジェット公爵の口から出て来た言葉に、あたしは心の中でギョッとしていた。

 ……でも、よく考えると。それもいいかもしれない。こんな所早く出て行きたいと思ってたし、周りの貴族が言ってたけど、ミドガランドって実力主義で平民でも良い条件で取り立ててるって……クロンヘイムと違って平民の血からも強くてやりにくいって文句として聞いた事がある。

 それに何より、そこなら新しい環境でやり直せる。

 ……あたし、もしかして助かるの?


「いえ、アジェット公爵……私は『提示した問題が解決したら、リアナ錬金術師が連絡に応じる可能性も十分にある』と申し上げたのです。断言は出来かねますね」

「そ、そうだったな。はぁ……リリはどうして誤解も解かせてくれないんだ」

「うーん、誤解だとおっしゃるなら、まず対話するために自分はそのような意図はなかったと分かる行動をとってみてはいかがでしょうか」


 笑みを崩さないまま、決して強く否定せずに、フレドと名乗った男は話を続ける。態度や口調は公爵を敬ってて、下から話しているのが分かるのに、話の主導権はこの男が握っていた。

 あたしは……会話を聞いているうちにわずかな違和感に気付いて、ドキドキしてきた。

 やり取りをもっと聞くうちに確信する。この人、一回も公爵の言葉を肯定していない。巧妙に話を進めている。

 あたしも自分の思い通りにしたい時に似たようにするから、あたしだけは気付けたのだ。

 でも、公爵はすっかりこのフレドという男を信頼してしまっているように見えた。公爵様の後ろで話を聞いていたグレゴリーの事も横目で確認したが、こちらも目に希望が灯ったような表情をしていた。

 この提案を呑めば、リリアーヌと和解して全部元通りで、あの魔石を作る工場も領地に作れるとすっかり思ってる。


「リリアーヌは……貴殿の言うように、ニナに寛大な処置をしたら私達の謝罪も聞いてくれるだろうか……」

「少なくとも、厳罰は望まないと本人が言っていました。このままでは今より印象が悪くなると思いますよ。ご家族なら当然ご存じでしょうけど、リリアーヌ嬢は加害者への過剰な制裁は望む方ではないですし」

「も、もちろん分かってる。ニナの処遇については考え直そうと思っていた」

「ええ、承知しております。ドーベルニュ公爵家に対して一時的に見せる姿勢も必要だったのですよね」


 貴族を相手にして、こうしてこの場を上手く操って、自分の目的を果たせるその手管に強く惹かれた。

 表向きあたしは養子を解消されて放逐……って事になるけど、外国で一から平民としてやり直せるのは分かった。あたしが元々なりたかった貴族みたいな豪華な暮らしは無理そうだけど、ここから逃げられるならもうそれでもいい。

 時々難しい言葉があって全部は理解できなかったけど、少なくとも今の状況から抜け出せるって事は分かる。だから「ニナ君も、この条件で進めていいかな」と聞かれた時、あたしはなんて返事をするか迷わなかった。


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