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「……フレド、それ壊れてるんじゃないのか?」


 来客者達が帰った後、フレドさんは憔悴した表情をしていた。椅子に座って大きくため息を吐いている所に琥珀がフレドさんの顔を……正確にはフレドさんがずっと着けている黒い装具を指さす。


「ええ? ……そもそも力を抑える方は、原動力が必要なものでもないし、ちゃんと機能してるはずなんだけどなぁ」

「だってこの変な眼鏡があれば、女が変に寄って来ないって言ってたじゃろう。全然効いてないようにしか見えんぞ」

「いやいや、俺からすると効果覿面で快適だったけどなぁ」

「あれでか? 難儀じゃなぁ」


 労わるように肩をぽんと叩く琥珀にフレドさんがちょっと笑った。

 でもこうして改めて見ると、フレドさんってすごく人から……好かれちゃうんだなって思う。もちろん、ミドガランドに来るまでの道中の方が、何も防ぐ手段が無かったからすごかったけど。

 フレドさんは「この厄介な目のせいで」と言うが、見ていて「目の力だけではないのでは」と思う事も結構多い。装具を着けててもフレドさんはスタイルが良くて背も高くて、あんなに親切で紳士的なんだから。魔眼の力を打ち消してこうして目元が見えないくらいでは、全然フレドさんの長所が隠せてないと思う。


「でも、失礼な女が結構目立ったね。体に勝手に触れた奴まで……もういっその事……」

「だめだめ! クロヴィスが出てくると話が大きくなりすぎる! だいたい、何の名目で話するつもりだよ……クロヴィス殿下は今日ここにいなかったはずだろ?」

「そんな、僕だって分からないように手を回すに決まってるじゃないか」

「却下」


 ぴしゃりとはねのけられたクロヴィスさんが若干面白くなさそうな顔をする。

 そんなやり取りを見て、モヤモヤしていた私も何とか冷静になれた。


「でも兄さん、実際どうするの? ジンプキンス子爵令嬢だけじゃなくて、今日来てた令嬢達に言い寄られたら。どう見ても兄さんの婚約者目当てで連れて来てたよね」

「ジンプキンス子爵は良識のある方だから、中途半端な立場の俺相手とは言えど本気で皇子に婚約申し込むなんてしないさ。流石に爵位が低すぎる。他の家も……その辺も一応考えて、強引な手を取られないように、この商会作るのに高位貴族は頼ってないし」

「それはまぁ……でも令嬢本人達が暴走する可能性もあるじゃないか」

「接触するのに取れる手段なんてこの店に通い詰めるか外商呼ぶくらいだろ? でも俺は普段はここに居ないし、居留守も使えるから大丈夫だよ」


 フレドさんのその発言に、クロヴィスさんは渋々危険性を訴えるのを一旦辞めた。本当に渋々。

 そう言えば、商会に関わる関係者に、夫人ではなく未婚の娘さんを連れてきている人、多かったな。

 でも……そうか。フレドさんはそのうち、身分のある女性と結婚するんだよね。そう思うとすごく寂しくなってしまった。

 どうしてだろう……本物のお兄様が結婚する時だってこんなに心細く思ったりしなかったのに。ジェルマンお兄様は、違う棟だったけど同じ敷地内で生活するって分かってたからかな……。


「ちょうどいいって言ったら何だけど、ちょっとここを離れる予定があって。まぁしばらく帝都から離れてれば冷めるでしょ」

「あ! そう言えば兄さん、ポリムステル用の新しい紡績工場用の候補地の話してたよね。今日の感触だともっと人気出そうだから、今のうちに増産体制整えた方が良いよね。自分で見に行くの? ノルバディッドだっけ。視察って名目で僕も一緒に行きたいなぁ」

「いや、俺がクロヴィスは流石に執務が立て込んでるだろ?」

「言ってみただけだよ」


 元々本気じゃなかったらしいクロヴィスさんは、フレドさんに釘を刺されてあっさり引いた。


「ノルバディッドって……、帝都から西にある領地ですよね?」

「うん。候補じゃなくて選定済みで、そこはもう決まりかな。開拓してない平地がいくつかあるから、工場に都合良さそうなんだ。リアナちゃんは早速ポリムステルを使ったドレスの注文受けてたよね。後で誰から受けたのか教えてくれる? 一応、俺が把握してる限りの好みとか伝えられるから」

「あ、ありがとうございます」


 そうだ、注文受けてたのに何考えてたんだろう。私もついて行きたい、って考えちゃうなんて。

 どうしてこんな無計画な事をしようと思ったのか、自分でも分からない。でも口に出してなくて良かった……。


「でも、今日の兄さんも相変わらずすごかったなぁ。互いに競わせるようにして出資者から更に融資を取り付ける手腕なんて、やっぱり僕の執務室にこそ欲しいよ」

「クロヴィスは正面から資金引っ張れるだろ。俺みたいに話術でごまかすようなやり方は、それこそ高位貴族には通用しないだろうし」

「いや、十分いけると思うけどなぁ」


 フレドさんは、クロヴィスさんとの会話に意識がいっていて、私が不審な様子だったのには気が付いてないみたいだ。

 女性に囲まれてたフレドさんを見てからやっぱりモヤモヤが完全に晴れなくて、私はこれ以上変な事を言わないうちにアンナと琥珀を連れて私達の家に帰る事にしたのだけれど。

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