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「それに、本当に帰ってからに出来ないものは対応してるから」

「でも……使ってらっしゃるの、遠距離共振器ですよね? それで間に合うんですか?」

「ああ、これは特別性だからね」


 私が知っているタイプのものとはかなり形が違うが、クロヴィスさんが度々使っているのを見ているのでそれが遠方との連絡に使う魔道具である事は知っている。

 双子の魔物の魔石を使って作られるこの魔道具は、対になってるものとお互いを共鳴させる性質がある。分かりやすく言うと、共振器の画面に書いたものがそのままもう片方の共振器の画面に表示されるのを利用した連絡手段として使われている。

 普通の通信機は魔導線を引いた先でしか使えないし、魔力波を使った通信はノイズも多く傍受のリスクが大きい。共振器はその点どこにでも持ち歩けるし、ペアになってる魔道具でしか情報のやり取りは出来ない。

 しかし貴重な魔石を使う高価な魔道具な上、一度に伝えられる情報も少なく、距離が離れると画面の同期も時間がかかるようになってしまう不便な面も多い。

 随分画面は大きいけど、これだけで不足なく仕事をするのは天才のクロヴィスさんと言えど難しいのではないだろうか。


「ちょっと実演してみようか。例えばここにメッセージを書くと……」

「……え? 書いた文字が消えて……すぐに返事が来た……す、すごい。共振の同期早すぎないでしょうか……?」


 目の前でサラサラと『この共振器の実演をしてるからそっちも何かメッセージを書いてよ』とクロヴィスさんが綺麗な読みやすい字をつづる。すぐに画面が真っ白に戻ったと思うと、『また何か変な事してるんですか?』と返事が書かれた。すごい、相手の人の筆記してるペンの動きまで分かる程の遅延のない共振だった。

 通信相手の部下がいるというミドガラント帝国まではまだ遠い。この距離なら普通は時間が経って相手の画面にジワ~ッと連絡が表示されて、それを確認した相手が返事を書いて、またこちらの画面にジワ~ッと文字が現れるのだけど……今のは殆ど、目の前の人と筆談でやり取りするくらいの反応に見えた。

 質の良い共振器同士が同じ部屋にあるならともかく、この距離でこんな事が出来る遠距離共振器……初めて見た。間違いなく、コーネリアお姉様の作った物よりも性能が良い。


「別に今までにない遠距離共振器を発明した訳ではないんだけどね。もちろん既存の魔導回路を改良したりはしてるけど……これね、実は双頭竜の魔石を使っているんだ」

「えっ……ドラゴンの魔石ですか⁈」


 国宝として宝物庫の奥深くに仕舞われているか、国の一大事に起動する魔道具に使われているような貴重な存在の名前が出てきて、私は興味深く覗き込んでいた魔道具から驚いて身を引いた。そ、そんな高価な魔石が使われて……⁈

 でも、そうか……。


「……双頭竜の魔石……確かに、核にする質も申し分ないし、双子の魔物とは言えど別々の個体だからどうしても差は出ますもんね」

「そう。だからここまでタイムラグなく共振器が同期するってわけ。元は一つの魔物から採れたものだからね、こうして成功して良かったよ」


 言われたらそうか、と納得するがすごい発想だ。やろうと思ってこうして試して実現させてしまうのがもっとすごいが。

 双頭竜もそういう種類がいるのではなく、おそらく双子として生まれてくるはずが不完全に体の一部が分かれかけたまま生きているのだとされている。

 こういった個体は普通の動物や数の多い魔物ではたまに起こる事ではある。学園の生物準備室で双頭の蛇の標本を見た事もあるし。

 しかしドラゴンでそれが起きて、たまたま人が討伐して魔石が手に入るなんて奇跡に近い。


「やっぱり、ご自分で討伐したんですか?」

「いや、イヤリングになってうちの国の宝物庫に眠ってたんだよ。ただの宝石扱いなんてほんと勿体ない事するよね。で、それを何かの機会で褒章に指定して、これに作り直したんだ」

「ほ、宝物庫の装飾品を……!」


 手を軽く握って中指の背でコンコンと魔道具を叩くクロヴィスさんの手元を見てるだけでハラハラしてしまう。その中には都市の年間国家予算に匹敵するような額の魔石が入っていると思うとどうにも。


「同じものがあといくつか欲しいから冒険者ギルド経由でも探してるんだけど、中々タイミング良く見つからないんだよね」

「あ、当たり前です! 魔道具の核に使えるような魔物の変異種が出たら災害じゃないですか、普通は」


 普通の動物では奇形の一種だが、脅威になる魔物では「変異」として記録される。いち冒険者で対処できるものではなく軍が動くような話だ。

 いや、でもクロヴィスさんなら出来そうなのが……。


「あ、魔石の交換みたいだね」

「じゃあ次は俺が運転を……」


 押し固められただけの土の上でゆっくりと魔導車が止まる。特に決めたわけではなさそうなのだが、動力の魔石の交換のタイミングで何となく三人で運転手を交代している。やはり立場上気を遣っているのか、エディさんがハンドルを握る事が多いが。

 業務として運転する乗合魔導車などと違って、自家用車は特に免許は必要ないのだが、率先してフレドさん達が引き受けてくれている。アンナはちょっと運転に興味を持っていたけど。

 運転ミスで事故が起きるのも怖いが、やはり運転の良し悪しで揺れも酷くなるので、舗装されてない場所では頼らせていただいている。


「いや、兄さんは午前中ずっと運転手だったでしょ。次の街まで僕がハンドルを握るよ。リアナ君、良かったら前で話相手になってくれない?」

「えっと……私で良ければ」


 私はクロヴィスさんの誘いに乗って、後ろから降りて助手席に移動した。この魔導車は貴族が良く使うタイプの、運転席とそれ以外の乗車席の空間が完全に分かれてるタイプなので、後ろに載ってる人達と会話が出来ない。

 エディさんは「私は喋りながら運転するのは苦手なので」と言っていたけど、クロヴィスさんは黙ってると退屈なのだそうだ。

 琥珀が起きてた時はずっと助手席で、魔導車から見えるものに「あれは何じゃ?」「次の街はどんなとこじゃ?」なんてずっと話しかけてたらしいけど……後からそれを知って焦ってしまった。「楽しい時間だったよ」と言ってくれたクロヴィスさんはかなり心が広いと思う。



「……なるほど、既存の共振器の魔導回路にそんな改良点が……」


 そしてクロヴィスさんは運転席に移ってからも大変興味深い話をしてくれた。きちんと運転しながらよくこんな複雑な話が出来るなと感心してしまう。

 私はマルチタスクが出来なくて、一回集中するとアンナが声をかけたくらいでは気付けなかったりするので感心してしまう。


「リアナ君が持ってる奴も弄ってみようか? 今より同期速度は速くなるはずだよ……いや、君なら自分で出来るか」

「いえ、これは借りものなので勝手に改造するのはちょっと」

「あはは。出来ないって言わないのがいいね。結構難しい事を言った自覚があるんだけど」


 難しい……事だっただろうか? 自分で思いついた訳ではない、やり方を今全部口頭で説明してもらったのに。たしかに大分細かい作業が必要になるけど、幸い精密作業もそこそこ得意だ。正確に細かい魔導回路を引くのも苦手ではない。

 絵を習っていたからかな。基礎も技術も教えてくださったアンジェリカお姉様に感謝しないと。


「この前の時は兄さんの九歳の春まで話したよね」

「そうですね。春の建国記念日の式典で、クロヴィスさんがフレドさんと久しぶりに顔を合わせて退屈な式典の途中途中でお喋りをした話を聞きました」


 魔道具についての話がひと段落すると、話はいつもの流れになった。フレドさんに聞こえないとこに誘われたから、多分そうだろうなと思っていたけど。

 前回話を聞いた所を思い出しながら子供の頃のフレドさんとクロヴィスさんを想像する。頭は良いけど、だからこそ下手な大人よりも賢くて、周囲と軋轢を産みがちだったクロヴィスさん聞いててハラハラするエピソードが多い。

 でも、クロヴィスさんはフレドさんの話をするのが好きなんだなぁと毎回しみじみ感じる。とても楽しそうに話すのだもの。

 私の方も、「フレドさん子供のころから気遣い屋さんだったんだな……」とか発見もあるし、正直楽しい。


「しかし、リアナ君には話し甲斐があって嬉しいよ。エディなんかはせっかくの兄さんの話をすぐ聞き流すからつまんなくて」

「あはは……」


 そう、最初はフレドさんの過去を知ってるエディさんの方が昔話の相手に誘えば、と思ったんだけど。クロヴィスさんの意向で私がこうして聞かせてもらっている。

 エディさん曰く、「同じエピソードを何十回も聞かされてれば、仕えてる主人の話と言えどさすがに飽きます」だそうで。私は十分興味深く聞かせてもらっているけど……。


「それで……その式典の後に白の庭園を使ったパーティーがあるんだけど。兄さんの相手を取り合った女の子達に取り囲まれて、身動きも出来なくなってて大変そうだったなぁ」

「前聞いたお話でも似たような事になってましたけど、昔からすごかったんですね……」

「うん、すごくモテるんだよね。まぁ見てたら分かるかな? 僕は、兄さんが大勢から好かれてるのはちょっと誇らしいんだけど、気の毒に思う事も多いかな」

「そうですね、確かに……」

「変な女が寄って来そうになったらリアナ君も気を付けてあげてね。君が横にいたら大体は諦めると思うから」


 そう言われて、想像してみる。そうね、私も……例えば道を尋ねるために知らない人に声をかけなきゃいけないとなったら、二人組よりも一人でいる人に声をかけるだろう。


「分かりました……! 微力ながらフレドさんの力になりますね!」

「うーん、なんか勘違いしてそうだけど、まぁ結果は同じだからいいかな。そうそう、その式典の時に王族と高位貴族の子供達で建国時を再現した短い劇をやるんだけどね……」


 その劇でフレドさんは、帝国の祖となった王に加護を与えた神様の役をしたそうだ。


「当時はとてもきれいだなぁ、流石兄さんだって思ってたんだけど。大人になった今思い出すと可愛かったなぁって思っちゃうよね」


 私が見られない、その幼少期の話を聞くたびに「いいなぁ」って思ってしまう。でもこんなの小さい子供の独占欲みたいで、恥ずかしいから誰にも言ってないけど。


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