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非日常の襲来

 


 フレドさんは弟さんと五年ぶりに会うのをひたすら不安がっていたけど、私達はそれほど心配していなかった。フレドさんも、会うのが嫌なんじゃなくて「どんな顔で会えばいいんだ」という悩み方なので、解決は本人にしか出来ないだろうし。

 それより私達は、弟さんがこの街についてからの事に目を向けないとだ。

 弟さんとの向き合い方に悩んで腕を組んで天を仰いでいるフレドさんは一旦横においておく。


「エディさん、クロヴィス殿下は……いえお忍びである事を考えて『クロヴィス様』とお呼びしてもよろしいでしょうか」

「そうですね、ご本人が望んだお忍びですし、過剰な敬称を付けなければ何と呼んでも差し支えは無いと思われます」

「では……そのクロヴィスさんは何人でこの街にいらっしゃるんでしょうか?」

「それが、困った事に手紙にはその辺りが何も書いてないんですよね。最速の手段で……と言うからにはこの街に来るのは必要最低限の人数だとは思いますが」

「あら、それは困りますね。ご兄弟の再会を祝したディナーの手配をしようと思ったのですが……」


 ロイエンタール王国に、ミドガルド皇太子として訪問する以上、急とは言えロイエンタール王都には使節団で来ているはず。お忍びなのでそこから数人でこちらに向かうはず……四、五人くらいか……多くても十人には満たない数だとは思う。

 でも到着する日時も人数も分からないのはちょっと困るな。このホテルのレストランなど、「近い内フレドさんの弟が来る」って話をしておけば当日融通を聞かせてくれそうな所もあるけど、来る人数によってはレストランの個室では入らないかもしれないし。

 そもそも何時に着くか分からないのでディナーが出来るかどうか。先触れがあるとは思うんだけど……。


「手紙に『研究について話が聞きたい』と書いてありましたし、私は工場の見学とかが出来るように手配しておきましょうか」

「秘匿している技術もありますし、一応部外者ですから、文字通り話せる範囲について話すだけでご満足されると思いますよ。見学を希望されたらその時受け入れについて考えればいいかと」


 たしかに……フレドさんの弟さんの希望を聞く前に予定を埋めるべきではないか。でも来ると分かってるのに予定らしい予定が立てられないの、やっぱり居心地が悪いなぁ。

 そんな中、真面目な物腰や外見に反して意外と楽天的な所が強いエディさんが、「常識外れの無茶を要求するような方ではないですし、まぁ何とかなりますよ」とすごい……心臓に毛が生えたような豪気な事を言っている。とても強い。

 隣で不安そうにしているフレドさんを見ると、なるほど二人は良い組み合わせだなと感じた。

 私も悲観家でよくクヨクヨして弱音を吐いてるけど、アンナが元気付けてくれるし。


「そうだ、良い事を思いつきましたよ。エディさん、クロヴィス様の腹心の人数を教えてください」

「腹心?」

「はい。その人数を下回る事は無いと思うので、少しはおもてなしの見通しが立てられるかと」


 確かに、腹心の人数から大きくズレる事は無いだろう。護衛の関係上一人二人は増えるかもしれないが、最低限の人数は予測が着く。

 色々分からない中最良のおもてなしをしたい、と意気込むアンナだったが、さらに窓外の言葉がエディさんから告げられる。


「腹心……」

「ええ。部下はたくさんいるでしょうけど、今回はお忍びですし、フレドさんにとってのエディさんのような……特に信頼している人だけで固めると思うんですよね」


 それに、エディさんは政争は落ち着いたとは言っていたが、フレドさんを担ぎ上げる勢力もいた。本人達は敵対を望んでなかったし、フレドさんは辞退したがっていたと本音を知ってる人じゃないと連れてこれないだろう。

 腹心と呼べるのは多くても五人くらいかな、そう思ったんだけど、エディさん大分悩んでいる。


「……クロヴィス様の側近の方達ってそんなにたくさんいらっしゃるんですか?」

「いえ……腹心、そう考えると……いないんですよね」

「……えっ?」

「ええ?」


 またしても予想外の答えに、アンナと二人、揃って聞き返してしまった。


「あの方は優秀過ぎて、自分にも他人にも厳しく……心酔している者も周囲に多いのですが……」


 クロヴィス様にもフレドさんにとってのエディさんのような、幼少期から一緒に過ごす乳兄弟や、他にもご学友が何人かいらっしゃったようなのだけど……。優秀すぎるクロヴィス様に誰もついていけず、今も側近として仕えているものの、本当に「上司と部下」だけの関係で、心を許して信頼している存在……と考えると周りにいないらしい。

 なので誰を連れて来るか、何人で来るか予測もちょっとつかない、と。


「ま……まぁ、そんなに大人数にはならなそうですし、ある程度幅を持たせて準備しておけばいいですね」


 重くなりかけた空気を払拭するように、アンナがパッと表情を切り替えて明るい声を出した。そうよね、私達まで思い詰めては良くない。


「あの、アンナ、私……人のおもてなしを準備するの初めてだから、色々教えてね」

「ええ、もちろんです」


 では明日から、フレドさんの弟がいつ来ても良いように考えておこう、という話になって、この日はフレドさんから見たクロヴィス様の話などを色々聞いていた。

「クロヴィスは子供の頃はチョコが好きだったな」なんて微笑ましい話も聞けた。「成長するにつれて周りの目を気にしてあまり食事も一緒に摂れなくなったから、今も好きかは分からないんだよね……」なんて胸が苦しくなるような一言もあったけど……。

 こうして、私達は和やかな夕食を過ごした。翌日……街中が大騒ぎになるような事件が起きるなんて、露ほども思っていないまま。

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