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3

 

 気が重くなる用事が終わったので、あとはつじつま合わせのために近隣で適当な依頼を受けるとしよう。

 琥珀の冒険者ランクで下の依頼を受けて仕事を奪うわけにはいかないし、今から行って帰って来られる場所で何か都合の良いのは……。


「これくらいかなぁ」

「なになに……え~……シェルートルの駆除ぉ……? あやつは固いだけで戦っても面白くないのじゃ~」

「でも、これ以外に琥珀が受けるような丁度いい依頼、無いからなぁ」

「しょうがないのぅ」


 ギルドから見せてもらった金級向けの依頼も確認したが求めているような条件のものは見付からず、俺達は掲示板に張り出されたまま半月は経過してるらしいシェルートルの依頼を受ける事に決めた。

 小さいのでも魔導車並み……個体によっては家一軒よりも大きい、ひたすら硬い、亀に似た姿の魔物だ。甲羅は魔法耐性が高い上に普通の武器では傷すら負わせることが出来ないようなやっかいな生物だが、噛みつかれる程近くに寄っていなければ、足が遅いので容易に逃げることが出来る。

 川沿いの水辺にいるのを下級冒険者でも見た事があるだろうが、こちらから不要なちょっかいさえ出さなければほとんど害のない魔物だ。

 ただし、ほんとに甲羅だけじゃなくシェルートル自体も硬いので、よっぽど強い攻撃手段を持っていないと手も足も出ない。琥珀の魔術……に似た「狐火」ってやつ、あれなら余裕で倒せるだろうけど。

 大ダメージを与えられる攻撃方法さえあれば、一応鉄級の討伐記録もあるんだけどね。

 川沿いに行く冒険者が近寄らないようにさえしていれば普段は問題ない存在なんだが……最近個体が増えすぎたせいで付近の植物が食い荒らされて、他の魔物の生息地に影響が出かねるから数匹駆除してくれ、という依頼だった。


 シェルートルの甲羅は硬いが、重すぎて防具の素材などには不向きだし、ああ建材に利用する事もあるんだっけ? でも持って帰るのは相当難しいし、肉はマズイし、魔法薬の素材として内臓は一応需要はあるけど……甲羅を避けて解体する手間が大きすぎる。その上討伐報酬もわりと低いとあって、倒す力を持ってる冒険者からは人気がない獲物だ。冒険者ギルドの貢献評価は入るけど。

 強い人ってさぁ、結構琥珀みたいに、手応えのある魔物とわざわざ戦いたがるんだよね。シェルートルは退屈らしい。慎重派の俺からするとちょっと分からない気持ちだけど。

 

 人工魔石のおかげで魔石の買取価格が上がってるから、うま味が少ない依頼……として他の誰も手を付けてなかったみたいだ。掲示板にあったのに放置されてるなら受けちゃって良いだろう。

 ほっとくと住処を追いやられた他の魔物が人里まで来ちゃったりするからね。

 シェルートルを倒す攻撃は琥珀に任せるとして、他は大体全部俺が担当する。魔物の警戒・索敵は琥珀の方が上だろうけど、地図を読んだり、群れから離れて「はぐれ」でいる個体を探したり、他細かい雑用を色々とね。

 市場に寄って、必要な消耗品を少し買い足してから、二人そろって街の外に出た。



「琥珀、そろそろ帰ろうか。すぐ陽が落ちて寒くなっちゃうから」

「フレドはひ弱じゃのう。まぁしょうがない、ちょっとは体も動かせたし、引き上げるか」


 琥珀は難なくシェルートル三体の駆除を終えた。

 俺? 俺は琥珀の気が散らないように、森の中から川沿いに寄って来そうになる魔物を追い払ったり、倒したりしてたよ。


「さて琥珀に問題です。シェルートルの討伐証明部位はどこでしょ~か」

「なぬ?!」


 完全に帰るモードになって気を抜いていた琥珀は、突然俺がした質問に、あからさまに挙動不審になり始めた。

 森の中を移動しながら最初に説明したはずなんだが、全然ちゃんと聞いてなかったらしい。というか琥珀、お前これ倒すの初めてじゃないはずなのに把握してないのダメじゃないか。


「えっと……あれじゃ……尻尾? だったっけかのう」

「う~ん、残念。シェルートルの場合は、鼻ね。ここんところをそぎ落としたのが、討伐部位」

「そうじゃ、そう言おうと思ったんじゃ」

「はいはい」


 調子の良い事を言う琥珀をさらっと流して解体用のナイフを取り出すと、持って帰る部位の採取も始めた。生きてる時は呆れるくらい硬い魔物だけど、死ねばこうして普通の刃物も通る。

 討伐部位の他には舌と、目玉くらいでいいか。あとは魔石……体が大きい魔物は心臓まで到達するのがまず大変なんだよな。

 自分じゃあまり倒さないデカイ獲物相手にえっちらおっちら格闘して、やっと魔石を取り出す。肝臓などいくつかの部位は一応買い取ってもらえるけど、解体する労力に見合わないので見送る。

 琥珀に爬虫類系の魔物の解体について教えつつ、「そこ引っ張って」とかやりつつ、無事持って帰るものを回収し終わった俺達は冒険者ギルドへと戻っていった。モンドの水のパーティーメンバーが待ち構えてたらどうしよう、とちょっと思ったけど、何も無くて良かった。いや、さすがに考えすぎか。

 依頼帰りの冒険者達で混み合う時間帯になる前に戻って来た俺達は、スムーズに討伐証明の提出といくつかの素材を買い取りを終わらせる事が出来た。



「あ、琥珀、フレドさん! お帰りなさい……あの、フレドさん依頼から帰って来て疲れてる所に申し訳ないんですけど、ちょっとここに座ってもらって良いですか?」

「え? なななな、何で?」


 琥珀を送ってきて開口一番、迎えてくれたリアナちゃんにそう言われて、俺は思いっきり挙動不審になってしまっていた。

 まさか、リアナちゃんに、冒険者ギルドでの午前中の一件がもう耳に入ってしまってるのか……? クソ、誰だわざわざ教えたのは?!


「フレドさんの目について、またちょっと試したい事があったんですけど……ごめんなさい、やっぱり違う日にした方がいいですか?」

「は、へっ? あ、なーんだそっちで……も、勿論良いよ。協力するする! 何すればいい?」


 丁度心当たりがあったせいで思いっきり変な反応をしてしまったが、良かったそんな話か。

 俺は食い気味に協力を申し出た。早く話題を変えたい。「何の話だと思ったんですか?」とか深く聞かれても困るし。


「えっと……ちょっと眩しさを感じてしまうんですけどいいですか? 目……虹彩を撮影したいんです。接写で」

「オッケーオッケー」


 俺は軽く承諾した。これまでも、変装や認識阻害に使う魔道具が俺の目に関してだけ役に立たない事などをデータに取っている。そうそう、自分でも色々目立たないように試行錯誤した事あるけど……何故かそういった魔道具で色を変えたり隠したりも出来ないんだよね。不思議だ。

 一瞬ぴかっと光るので、瞼を閉じないように頑張って開けててください、と頼まれた俺は椅子に座って前を向く。心構えを聞いていた通り一瞬だけ眩しさに耐えて、撮影はすぐに終わった。


「じゃあ私、現像してきますね」


 知的探求心に突き動かされてる最中のリアナちゃんは、現在の興味がそこに向いているらしく、俺の変な態度も一切気にする事無くリビングを出て行った。

 この豪華な部屋には使用人用の部屋もあって、そこにも風呂場がある。そこを、ホテル側に許可を取って一時的に暗室にしてるらしい。


「それで、フレドさん、何があったんですか?」

「す、するどいなぁ、アンナさんは……」

「例の呼び出しですよね? 首尾はどうなりましたか」


 エディにはしていた話だったが、アンナさんに説明するために最初からざっくり説明する。魔導映写機の現像、という事はたしか紙に薬品で映像を定着するまで真っ暗にしておかないとダメだから、しばらく戻ってこないだろう。

 頭の中でそう計算した俺は、自分が上手く断れなかったせいでリアナちゃんを巻き込んだ自覚はあるので、コソコソ動いた事を白状した。それで、俺がどういった思惑で動いたか、冒険者ギルドでどんな話をしたかと、一応ギルドにもこう報告してある、と簡潔に伝える。


「フレドさん……ちょっとだらしなくないですか? 『俺はリアナちゃんが好きだから君の気持には答えられない』とか、そのくらい言っても良かったのに」


 真剣な顔で最後まで聞いていたアンナさんのとんでもない発言に、俺は思わず、飲みかけていたお茶を吹き出しそうになって、むせた。


「で?! そ、何でアンナさ……ごほっ、ごほっ」

「だって、そのくらいの嘘でガッカリさせて差し上げてもいいんじゃないでしょうか? 自分が振られたからってリアナ様に八つ当たりするような人なんですから」

「アッ、そういう話ですか……ウン、嘘で……いや~、でも似たような事はした事あるんですけど、効果が無かったと言うか、ある意味逆効果だったのでやらない方が良いと言うか……」


 俺は昔、言い寄られた時に「好きな人が居る」という嘘をついてやり過ごそうとしたとある一件の事を、詳細はボカして説明した。効果あって諦めてくれる人もいたけど……「誰?」「何て名前?」「あなたに相応しい女か見極めてあげるから教えて」と激しい追及をされて、余計面倒な事になった時があってね。いや、もう……誰なのかを知ってどうする気なのか、とめっちゃ怖くなって……そのすぐ後、依頼を利用してあの街から俺は逃げてしまった。

 俺に執着しておかしな事になる人は何か似たタイプが多いので、リアナちゃんの名前を出したら余計に敵意が向いてしまう可能性が高い。

 

「そんな事件が……フレドさん……変な人に頻繁に目を付けられすぎじゃないですか?」

「あ。あはは……」

「そうなのです……生まれつき女難に苦しんでおられる方で」


 同意したくないが否定も出来ないので、俺は曖昧に笑って言葉を濁した。


「うーん、彼女達を何がそこまで駆り立てるのでしょうかねぇ……」

「そうですね。我が主ながら、見目麗しい上に人格者で、大変な優良物件とは思いますが、それにしても向けられる好意が常軌を逸しているなと感じる事は多々ありましたね」


 サラッと話の流れで俺を盛大に褒めちぎるエディの発言にまたお茶を噴き出しそうになった。

 どう反応するかまた思いつかなかったので、俺は会話を聞いてなかった事にして流しておく。昔からの事だけど、相変わらずどう返すのが正解なのか分からなくてついこの件は横に置いてしまうな。


「あちらに暴走されても金級冒険者のリアナ様なら対応出来るでしょうが、嫌な目にはあって欲しくないですからね」


 そうなんだよなぁ。アンナさんの言葉にうんうんと同意するように頷く。

 とりあえず、これ以上何かあったらギルド通してペナルティ付きの警告送る事は決定してるけど……正式に抗議文も送っておくか。公証人つけるやつで。

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