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「リアナ、空いたぞ」

「ああ、ごめんね。ぼーっとしてた」


 約束通り冒険者ギルドに来た私は、受付の順番待ちをしながら「次の街どこにしようかなぁ……」とぼんやり考え事をしていた。高ランク冒険者に向けた依頼は普通、詳細は貼り出されていないのでこうしてギルド側に尋ねる必要がある。これには興味本位や、無謀な腕試しで犠牲が出るのを防ぐためでもある。

 あとは、依頼書に記される情報はそれだけで値段が着く、各冒険者ギルドの抱える大切な財産でもあるから。採取物や魔物の種類、そのおおまかな生息地だけでも。

 


 多分、金級冒険者は適性やこれまでの戦歴などを見て冒険者ギルドの方から依頼を持ち掛けられるスタイルの方が多いと思う。後は、金級冒険者の所属しているパーティーかクランなら、依頼を受けたり冒険者ギルドとやり取りをしたりする専用の人が居たりすることも珍しくない。そんなにたくさん金級以上の人を知ってる訳じゃないから、私の知る限りでは、だけど。

 しかし私は定期的に活動してないから、持ってきてもらっても毎回依頼を受けられる訳じゃない。なのにわざわざ来てもらうのは私にとって心の負担になってしまうので……「依頼受ける時は冒険者ギルドに行きます」と言ってある。

 もちろん、「そのくらい冒険者ギルド職員の仕事の内だから、リアナさんが気にしなくていいのに」とは言われている。けど私が変な所で気にしてしまう性質なのを、担当職員のダーリヤさんも分かってくれてるので、「リアナさんが一番やりやすいように」と受け入れてもらって今の形に落ち着いたのだ。


「どうじゃ? リアナ。良い依頼はあったか?」

「うーん……日帰りで行けるちょうど良い依頼は今ちょっと無いみたい……かな」

「あら、やっぱり?」


 私と一緒にファイルを覗き込む琥珀は、ダーリヤさんの言葉に狐耳をピコピコと反応させた。


「やっぱりとは、どういう事なのじゃ?」

「人工魔石が大評判になって、商人も冒険者もたくさんこの街に来てるでしょう? 市場もにぎわって、うちもそうだけどリンデメン中が景気が良くなってて」

「そうじゃな。人工魔石とやらはすごい発明らしいからな」


 何故か自分の事のように胸を張り誇らしげな顔をする琥珀。


「だからこの辺りの危険な魔物は、だいたいいなくなっちゃってるのよね。銀級の常設依頼なら少しあるけど……」

「うーん、あまり他のランクの依頼は……」

「そうじゃな。琥珀が魔物を倒しつくしてしまったら他の冒険者どもが困るからな」


 ランクより下の依頼は、あまり受けるつもりは無い。下のランクの人達の仕事を奪ってしまう事になりかねない。「虫型の魔物が大量発生してるから手が空いてる鉄級以上の冒険者全員街の北側の畑に集合!」とかならともかく。

 琥珀もその辺を理解できるようになってくれて嬉しいな。


「うふふ、そうね。リアナさん達はそう言うと思ったから、はいこれ」

「これは……」


 逆に増えてるのは、長期間の商隊の護衛とか。あとはこの街で出来るものだと外からの人が増えたからこそ必要になってる用心棒みたいな仕事か。報酬は良いけど、私達向きではない。

 そう悩んでいた所に渡された書面板を開くと、中には数枚の依頼書が挟んであった。


「リンデメンから比較的近い、一泊二日か二泊三日くらいで行ける金級向けの依頼をまとめておいたの。野営が必要になりそうかどうかも書いておいたから、参考にしてちょっと考えてみて」

「何から何までありがとうございます」

「良いのよ、うちのギルドの若手のエースだもの、このくらい当然よ」


 そんな事を言われると、お世辞半分と分かっていても恥ずかしい。

 でもたしかに……。そろそろ、泊りがけでやるような冒険者の仕事に琥珀を連れて行っても良いかもしれないな。最近少しずつ、依頼に出る前の持ち物の準備や確認を自分で出来るように教えてるけど、問題は無いし。……普段のハンカチとかはよく忘れてるけど。

 となると……野営が必要ない一泊二日の依頼の中から……受けるとしたらこれか、これかなかな。


「えっと、数日街をあける事になるので……身内と相談してから決めますね」

「ええ。急ぎの依頼じゃないからしっかり準備してからで大丈夫よ」


 フレドさんだけを指すなら「パーティーメンバー」だけど。アンナの事も思い浮かべて、あとエディさんにも話はするし、まとめて何て呼べばいいか迷って「身内」なんて言ってしまった。

 アンナの事を、アンナのいない所で「身内」と呼称した事にちょっぴりくすぐったさを感じてしまった。


「じゃあ琥珀、これから泊りがけの依頼の時に必要な準備を教えるから……」

「ねぇ……リアナさん、ちょっと良いですか? 話したい事があるので、来てほしいんですけど」


 一緒にお店に行って色々買うよ、と続けようとした私は背後からかけられた声に、つい硬直して足を止めてしまった。建物の出口に向かってた私は、冒険者ギルドの真ん中で声の主と対峙する格好となる。周りの耳目を集めているこの状況に、また面倒な事になってしまいそうだと内心ため息をついた。

 険しい顔で私に声をかけてきたのは、魔法素材のローブを羽織った小柄な女性。前に冒険者ギルドで私に声をかけてトラブルに発展しかけた、ミセルさんという人……だった。


 実はここ最近も一回、前と似たような内容でお説教……お叱り? お願い? をされている。冒険者ランクが合わないんだからフレドさんとパーティー解消して解放してあげて、って……。

 実際、今フレドさんと別行動になっちゃってるし、それは周りに知られている。ならパーティー組んでる意味が無いから、もっと活躍できる自分達の所に入り直した方が良い……という理屈は分かる。

 でもこちらにも色々事情があってこの形になってるのに。その細かい事情を部外者に全部説明したくないし……そもそもフレドさんが断っているのに。

 けどどうしたら納得してくれるのか、フレドさんの言葉すら届かないので、私には分からない。また「フレドさん本人とお話してください」って言って逃げちゃおうかな……。


 ちょっと困った。琥珀、あの時からこの人の事嫌いになっちゃったみたいで、今も私の隣からは微かな唸り声が抑えきれずに漏れている。尻尾の毛も逆立って、普段の二倍位に膨らんでしまっていた。


 もう琥珀は気に食わないからと喧嘩を起こすような子ではなくなったけど、ここまで力に差があると、手を振り払っただけで怪我をさせかねない。

 琥珀が私の前に出ないように注意を払いながら、私はミセルさんを刺激しないように努めて冷静に声をかけた。

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