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 琥珀のこの力について、私達は把握しておく必要があったので出来る事・出来ない事をさらに聞いていく。それは想像していたよりももっと自由度が高く、貴族や国に知られたら脅威と判断されうるものだった。


「琥珀はまだ出来んがの、さらに尻尾が増えればもっとすごい術が出来るようになるんじゃぞ」


 そう言って、琥珀は自慢げに能力について語っていく。その内容はどれも私達の知る魔法理論や常識ではあり得ない事ばかりだったが、実際にこうしてフレドさんの姿になった琥珀が目の前にいるため「そういうものだ」と納得するしかない。これだって十分私達の認識からするととんでもない技術なのに。


 琥珀の話した内容を整理していく。

 まず、「変化の術」というものは「姿を変える術」として何でも出来る。それは外見上のものだけではなく、質量や触った感覚や匂いも違う。琥珀は今の所、対象の人物の髪の毛や持ち物を使わないと変身が出来ないが、成長して尻尾が増えるとそれも不要になるみたいだった。


 次に検証として新聞を丸めて細長くしたものを「これが武器だと思ってその場で振ってみて」と琥珀に渡してみる。


「こうか? うーん、フレドの体はデカいだけあって重いのう」


 ヒュンヒュン、と空を切る音が部屋に響く。フレドさんが使う、宮廷剣術の類を感じ取れる綺麗な太刀筋ではない。武器を普段使わない琥珀が見様見真似で腕の力で振っているだけ。むしろいつも見てるだけあって、私の素振りの姿勢にちょっと似てるかな。

 フレドさんの技術などは全く使えないようだ。反対に琥珀が使っていた「狐火」などはこの姿でも使えると見せてくれたので、本当に、フレドさんの体を琥珀が使ってるだけという事か。


 また、さらに「妖狐」としての力が増せば、もっと色々な事が出来るようになるらしい。人間以外の生き物に化けたり、存在しないものに化けたり、逆に姿を消したり、自分以外のものに「変化の術」をかけたり。


「自分以外に、ってどういう事?」

「例えばな。ここにリアナの使ってる文鎮があるじゃろ?」

「うん」


 ちょっと想像しづらくて尋ねると、琥珀は詳しく説明を始めてくれた。

 琥珀はフレドさんの姿のまま、書類を抑えていたペーパーウェイトをひょいと持ち上げる。


「尻尾が三本の妖狐がこれに変化の術をかける。すると、この文鎮を見た者には……例えば『旨そうな饅頭』に見えるのじゃ。手触りや匂いも変わる。もちろん変化の術をかけてるだけなので、本物の饅頭ではないから食べようとしたら歯が割れるだろうがの」


 琥珀の力が未知数過ぎて、その全体が把握できない。

 琥珀が隠そうとしているとかではなく、これは常識が違うせいで起こっている事だからな。妖狐である琥珀にとっては当たり前で確認の必要のない知識だが、私達は聞いた事もない力だ。尋ねれば尋ねる程新しい話が出て来て、追いつくだけでやっとになってしまう。


「あとはな、そいつが一番怖がってるものに化けて驚かす事も出来るぞ! 幽霊とか、嫌いな野菜に手足が映えて押し寄せてくるとか、夜中トイレに行く時の暗い廊下がずっと続く幻とか、人によって見るものは変わるがな」


 そのラインナップを聞いて、「琥珀が怖いものなんだろうな」と思うとほっこりしてしまった。

 しかし、「夜中トイレに行く時の廊下」という言葉は気になる。つまり単純に、自分の姿を変えているだけではなくて、周りの環境丸ごと変えてしまえるような事が出来るという事だ。

 本当に、一体どうやって……。


「妖狐が本気を出せば、お屋敷丸々一つと大勢の召使、山ほどの御馳走と部屋いっぱいのお宝を変化の術で見せて、数十人を一気に騙す事も出来るんじゃぞ。くふふ……その時騙された奴らはな、泥饅頭を食って、素っ裸に落ち葉の山の中で目が覚めたそうじゃ」

「……琥珀ちゃん、ずいぶん詳しいですね?」

「む、昔聞いただけじゃぞ! この騙された奴らは悪党だったと聞いておるけど、そもそも琥珀はまだそんな事まで出来んし……人前で使わないとさっき約束したからな!」


 でもまぁ、琥珀はまだそこまでの事は出来ないようだし、後々考えれば良い事か。今の琥珀なら、悪意をもってこの力を使う事はなさそうだし。

 ん? もしかして、成長ってこの事なのかな。


「じゃあ琥珀。それも全部、ここぞという時まで隠しておかないとね」

「ここぞ?」

「英雄はみだりに力をひけらかさないでしょ。小物に力を見せつけたり、自分から自慢するのは途中でやられるかっこ悪い役だけだよ」

「うむ、もちろん琥珀はそんな事しないぞ」


 琥珀の「変化の術」があまりにものすごい力だったせいで、また騒ぎになるかと思ったが。エディさんのおかげもあっていい説得が出来たおかげで、琥珀がこの力を秘密にする事に同意してくれて良かった。

 危うく国家が動くところだった。いや、誇張ではなく。


「では琥珀ちゃん、琥珀ちゃんのすごさはしっかり分かりましたから、普段の琥珀ちゃんに戻りましょうか。戻り方は分かりますか?」

「えー。普段より視線が高くて面白いから、もうちょっとフレドのままでいるのじゃ」


 やんわり促したアンナにそんな事を言い返す琥珀にギョッとしてしまう。

 絶対ダメ。フレドさんの姿のまま、普段の琥珀みたいに座ってる背中越しに抱きつかれたり、頭を撫でろとか言われたら……!!

 私は想像しただけで顔が熱くなるような錯覚を感じた。

 とにかく、すぐさま琥珀本来の姿に戻ってもらって、今後みだりにフレドさんの姿に変身しないように言い聞かせないと!!


「……ねぇ、琥珀。フレドさんは琥珀よりずっと体が大きいでしょう? 普段大盛を頼んでるし。体に合わせてたくさん食べないと足りないんだろうね」

「それがどうしたのじゃ」

「いつもと同じ大きさのデザートを食べても、普段の半分くらいのボリュームに感じちゃうと思うよ。それってもったいなくない? 琥珀の姿に戻って食べた方がお得だよ」

「いや、この体に合わせて、昼時のデザートは二つ食べても良いという事にすれば問題ないのじゃ」

「まぁ、ダメですよ琥珀ちゃん。デザートは元々一人一個ですから」

「元の体に戻るのじゃ」


 ボフン、と正体不明の煙が一瞬だけ視界を覆うと、琥珀は元の姿になっていた。無事説得ができた私は内心ほっと胸を撫でおろす。

 無事琥珀の姿に戻った事に安心しきっていた私は、「耳はともかく何故あそこまでそっくりに化けておいて瞳の色だけ違ったのか」という違和感について、この時は頭の隅に追いやってしまっていたのだった。

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