#3 女王祭編
「はい安いよ安いよ〜!!伊都の海で獲れた新鮮な魚介類!大貝小貝つかみ放題でなんとたったの二〇貨泉!!今日のメシはこれで決まり!」
「あらあら、そこの可愛いお嬢さん。良かったら髪飾り見ていかないかしら?アナタに似合いそうなのがあるわ♪」
「今日限定!二百貨泉の宝石が、なんとなんと〜?!五十貨泉!!こんなチャンス二度とないですよ〜!...え、インチキだって?...まさか!そんな事ないですよ〜^_^」
「マッサージサービスやってまーす。日頃の疲れを解消しませんかー?」
女王祭__。
各町村の行商人が挙って参加する、桃嫮街屈指の大イベント。特産品、美術品。服飾品に日用品に娯楽品と、ありとあらゆる品々《しなじな》が街中に陳列されていく。民衆達は好きなように物品を売買することができ、毎年国のあちこちから国民が訪れる、愉快なビッグマーケットである。
祭りは四日間行われ、そのイベントのメインは、毎夜行われるという、鬼道。
この国の長である卑弥呼が皆の前に顔を出し、壇上で儀式を披露するという。
女王の顔を一目見てみたいと見物に訪れる者は多いが、余りにも人が多いため、見物する為には早めに前の席を確保しておかなければならない。
なお錦助さんとの“コネ”クションを持っている僕は急がなくとも、最前列で見ることが確約されている。
「最悪だ...」
僕はそっとぼやく。
地元の蓏恫町から徒歩一時間の小旅の末、この街にやって来た僕は門を抜けた途端。白兵のオッサンに捕まってしまったのである。
「おお!丁度いいところに来た。今日、休暇を取ってる奴が多くて困ってたん
だ!」と警備仕事を押し付けられてしまっのだ。
なので僕は指定された広い十字路の角っこで、槍を垂直に立たせては、なにかトラブルが起きていないものかと周囲の視察を行っていたのであった。
かといい、それという事件も起こることなく。穏やかな時間だけが過ぎていく。
折角ここまできたのに、一体なにをしてるんだろうか。そんな虚しさを胸に漂わせながら、賑やかな街の様子を眺めていた僕のもとへ、手足中、紋章柄の刺青の入ったイカつい男が近づいて来た。
「よぉ、浮かねぇ顔だな」
「董尭さん!ご無沙汰してます」
「...その身なり、どうやら無事に職に就けたようじゃんか」
「それはもうお陰様で」
「でなんだ、これから俺の後輩になるってわけか。まぁ俺もこの街で働いてるからよ!仲良くやってこうぜ」
彼は、弥生時代に転生してきた僕を第一に発見してくれた人物であり、資格試験を受験した際、僕の面接官を担当していた人物である。
口調と容姿は荒れているものの、信条強く、芯の通った男だ。
「つーか、お前祭りはもう周ったのか?」
「いえ、まだ全く...」
「なんだもったいねぇ。よし、じゃあここは任せとけよ」
「えっ、でも悪いですって!」
「いいっつーの。これから忙しくなるんだろ?だったら、今日くらい羽伸ばして楽しんでこい」
「...ありがとうございます、ではお言葉に甘えて!」
【第6話:桃嫮街】
それにしても、広い街だ。
錦助さんと約束した待ち合わせまではしばらく時間はあるし、買い物を楽しもう。
商人達は地面に敷いた大きな布の上に物品を並べ、客を招く。秋初めの暑さを凌ぐ為に屋根を張り、日陰を作る者もかなり見受けられる。
しばらく歩くと行列のある奇妙な店が見えた。不気味な石の仮面をつけた長髪の女性が一人。謎の書物を売り捌いている。好奇心で僕はその列の最後尾に加わってみることにした。
「あのすみません、これはなんの行列ですか?」
客人は僕の身なりを見て驚く。
「おお、これはこれは白兵さん!お仕事お疲れ様です、あれは斜事詩ですわ」
「なるほど...恋愛系のジャンルですか?」
そう尋ねたのは僕がラブストーリーや青春モノに対しある種のコンプレックスを抱いていたからである。前の時代での僕は恋愛経験に乏しかった為にそういった系統の作品は好まず、警察モノや歴史小説などを読むことが多かった。白兵の道を選んだのもそれが影響しているのかもしれない。
「うーん、恋愛系もあるにはあるんだけ、“ミン様”が書く作品は、異常者を主人公にしているものばかりだから、正統派の純愛ものが好きならあんまし向いてないかもしれないなぁ」
「そんな事ないですよ、純愛ものは嫌いです、えっと....ミン様?」
「そう!あの石の仮面の方が『眠』という作者さんでして、ここじゃかなり有名な方でしてー、僕が勝手にミンサマといってるだけなんですけどねー!わはは」
「そうなんですか...」
「あ、僕は!昔からの彼女の方のファンでしてね、これ迄の作品全部コレクションしてるんですわ!最初であったのはデビュー当時の二年前!あの頃は__」
隙アラバ自分語り。突如自慢を語り思い出に浸るオタク男。古参厨というものはいつの時代でもいる事が理解できた。
「それはすごいですね。僕もちょっと読んでみたくなりました」
「ええ、買いましょ買いましょう!!おすすめはですねぇ...」
順番が回ってきたオタクは本を買うと、仮面の女性に握手を求めた。女性は握手に応じていたが、オタクが長話を始めたので隣にいたスタッフによって引き剥がされてしまった。
笑顔で手を振りながら列から掃けていく彼に、思わず引き攣った表情が出る。
「...」
「いらっしゃいませ」
か細く弱々しい声。
表紙の中心には硯で著者のサインと作品番号が書かれている。1番から始まり、7番が今回の新作だという。僕は先程の男からお薦めされた番号と最新の作品番号を伝える。
「えっと...六番と、二十四番ください」
二冊で三十貨泉と他の書物と比べればやや高級な金額である。
支払いを終え、僕は彼女の禍々《まがまが》しい怪物の仮面を覗いてみた。目の向こうに広がっていたのは、飲み込まれそうなほどの闇。ゾクりと鳥肌が立つ。
日焼けのしていない白い手がすっと伸び、二冊の本を渡される。ずっと籠って文字を書いているのだろうか。
すこし、気味が悪い。
オタクは、仮面の向こうには美人な女性がいるに違いない!などと夢を語っていた。
美人だから素性が割れてしまえば変なオタクにプライベートで付き纏われる。たまったもんじゃない。だから、彼女は仮面を被っているんだ、と謎理論を繰り広げては少しヤバめな妄想をしていたが。その男を見て、やはり仮面は取らない事が正解であると確信した。
高級なことあってか、かなり質の良い素材の紙が使用されている。人気詩家、儲かっているのだろう...。
『床土を愛する人 4』 『六本指 7』
如何にも精神を病んだ人間が好みそうなタイトルだ。一応、四番の作品に関しては既に内容を知っていた。何故なら先程のオタクから壮大なるネタバレを喰らったからである。
床土を愛する人。
その主人公の女は日中は真面目に果物売りとしての業務を全うするのだが、自宅に帰ると床にへばりつくという奇行を取る。
店長から体臭がきついと言われると女は前の家を売り払わぬまま、新しい家へ引っ越し、仕事を辞める。前の仕事仲間に道端で出くわし何故仕事をやめたのか問われ、何も言わずに通り過ぎる。彼女は住居を点々とし家主登録をしている家が20軒を超えた頃、市が白兵へ調査を要請。「狭い範囲にでたらめに空き地を立てるな。という苦情だった。白兵が調査に行くと、全ての家に共通した匂いがあったと言う。
とある一軒家から激臭がするとクレームの来たところへ向かうと、そこには床につくばった女の死体があった。
匂いの元凶を確認する為、床の下を掘る調査員。そこには、人間の死体、無数の果物が敷き詰められていた
おいおい嘘だろと苦笑いしたが、その事実を知って読むと更に面白いと勧奨されたのでかってみることにした。
道脇に佇み四番作品の最初のページを捲る。
...続きは帰ってから読むとしよう。
おもしろい考察ができそうだ。
「あっ!生平くん!!」
「華沽ちゃん」
白いフォーマルな兵服。
アクセサリー店。首飾りを購入し、プレゼント。華沽は顔を真っ赤にする。
酔いどれ女が覚束ない足取りで、壁にもたれかかれ、次の瞬間。地面にゲロを吐き落とした。
「うわぁ...」「勘弁してくれよ...」
通行人達が引き攣った顔をして遠ざかる。黒を基調としたはでやかな花柄の中華服を纏うその女は呼吸整えると、
「はぁ、スッキリした!」と気分爽快な表情を灯した。彼女を目の前から見ていた僕たちに彼女が視線を向ける。
「おや?おやおや。これは白兵さん!お勤めご苦労様でありますね〜」
...!
彼女は酒臭い息で近寄り、僕の頭を撫でる。そして、体に抱きついてきた。
「あ、あはは。だいぶ飲んでますね...大丈夫、ですか.....」
「ん〜、しばらくこのままにさせて...」
ぎゅっと大きな胸を押し当てられ、僕はしばらくの間固まってしまう。
あぁ、幸せだ...。
母性に包みこまれていく。
このまま、情に浸って惚気てしまいたい。
周囲の男達により向けられる羨望と嫉妬、強い怒りの眼差しに焦りを感じた。
「ちょ、ちょっと離れてもらえませんかっ」
眠りに落ちそうになっていた女を半ば強引に押しのけると、女は不服そうにし、今度は華沽に絡み始めた。
「ん。お隣さんの方はもしや、ガールフレンド?これはこれは、すまなかったねぇ」
なんだか、わざとらしく思えた。最初から僕らが付き合い人だと直感して、先程の行動に至ったのだとすれば、意地汚い。
「...や、いや全然そんなんじゃないですよ...!」
華沽は勘違いを振り解こうとする。彼女が抱きつかれたまま放心してしまっていた僕に嫌悪感を持ってしまっていたらどうしよう。
「まぁまぁ、いいじゃないの。お似合いよお二人さん...。名前はなんていうの?」
「...華沽です」「僕は生平です」
「へぇ〜私は陽世犁!アハハ、今日から親友だね!」
なんなんだ、全く厄介な人である。
「おっ、なにこれ〜!」
今度は僕の背負っていた藁袋が狙われ、先程の購入物を取り上げられる。
「...詩集?ふーん。生平くんって外見に反して意外と乙女チックなのね!」
「ちょっと!返してくださいよ」
酔っ払いとはいえど、あまりに無礼な態度を見せる彼女に少々しびれを切らしていた。女はパラパラとページを捲り、チンプンカンプンだと笑う。僕は強引に本を取り上げた。
「いこう、華沽ちゃん」「...うん」
「ちょっと置いてかないで〜!私たち親友でしょ〜?!」
後ろで座り込み泣き叫び続ける彼女を無視して、僕らは人混みへと姿を消した。
【第7話:如何様師】
怒り狂った若い商人が、白兵署本部・応接窓口へと駆け込んできた。
「騙されました...。店の商品、全て奪われました...」
__白兵署・知能犯罪対策一課。
螓亥は商人の目を睨む。
「いや本当なんですって!貰ったはずのお金が、石っころに変わってたんです!」
瑤原は商人の被害報告をスラスラと書き連ねていく。
「にわかには信じられないですね」
被害者 画一帆。亡くなった有名な絵描き屋の後継息子。だが彼自身、絵の才能や技術たるものは絶無であり、亡くなった父の絵画を高値で売りつけるといったこすい商売に励んでいるという。
この女王祭で絵画を一気に売り払ってしまおうと試みたものの、客として訪れた一人のとある如何様師にまんまと騙され、保持していた全ての絵画を奪われてしまったのだ。
まず初めに、犯人と疑わしきその客は店に入ると軽く展示物を眺め、
「商品はこれだけですか?」とエカズホに尋ねてきた。エカズホは木箱にしまっていた在庫を取り出すと、客は麻袋を開き
「気に入りました。この店の商品全て買わせてください」
エカズホは目が眩むほどの額を前に、悪巧み、定価よりも高めに合計額を計算して彼に示した。「おお、安いですね。では、支払います。大金なものなので、強盗に盗られないよう細心の注意を払ってくださいね」
「はあ」
犯人は店から見える外の人だかりに視線を向けると、訝しげな顔つき変わる。
「いつ誰がお金を狙っているか分かりません。今もどこかで誰かが見ているかもしれません」
エカズホが少し不安げになった所で、犯人は袋から一つの金庫を取り出した。
「これ、金庫です。こんなかにお金入れますね。これ、鍵がないと絶対に開けられません。この鍵、大事にしてください」
犯人の荷車に絵画を全て載せ終え、ようやく売れたと無事に見送った所で事件が起きた。
「ど、泥棒だ!!誰がそいつを捕まえてくれ!」
エカズホは通り魔に倒され、手に大事に持っていた金庫を強奪されてしまった。
すぐに近くにいた屈強な男が、泥棒を捕らえ、なんとか金庫を奪還することに成功した。
男は泥棒を逃げないように抑え、エカズホに
「自分は白兵のものです。この泥棒は現行犯としてウチに持っていきます。アナタは再犯を防ぐ為にもなるべく早くお金を持ち帰ってください」
「ありがとうございます!この御恩一生忘れません!」
僕らは沢山の拍手に囲まれた。
しかし、家に帰っていざ金庫の施錠を外してみると、なんということか。中には石ころしか入っていなかったのだ___
「螓亥さん、どう考えますか」
瑤原は筆を置き、画一帆の持ってきた例の金庫を傾ける。
「箱に何かトリックがありそうですけど......うーん、特に仕掛けは見当たりませんね」
「はぁ、なに言ってんだ。お前は本当にこよ金庫の中で、金が石に化けた思ってるのか」
「いや、そうじゃないんですけど......」
瑤原は考える。
「あ!もしかして二重底だったんじゃないですか?」
「ああ、よくある手口か」
「はい!蓋の下には、貨泉同等の重みがある石が敷き詰められた、もう一つの底が存在してあって、犯人はそれを、お金を入れた金庫の底に被せた。そして、こっそりと後から抜き取れる仕組みになっていた...とか!」
「ふむ、それはないな。蓋の大きさを考えろ」
「......」
螓亥はため息をつく。
「この箱にトリックなんかないさ」
「......え、どういうことですか?」
「あらかじめ、同じ金庫が二つ用意されていたんだろう」
瑤原は固唾を飲む。螓亥の考察は必ず当たるのだ。
「客として訪れた犯人が、エカズホ商人に渡した金庫。大金は確かにその中に入っていた。問題はその後。客が去った後だ」
「ふむ...」
「泥棒が金庫を強奪する。そして白兵を自称する人物が、その泥棒を懲らしめる。金庫は商人の元に戻ってくる。その経緯の中で“すり替え”が行われた」
「本物と、偽物の...!......ん、自称白兵って?」
「商人のエカズホが金庫の中身を石ころだと気づいたのはいつだ?」
「えっと、家に帰宅してからですよ...ね?」
瑤原はエカズホに確認を取る。はい、と頷く彼に螓亥が続いて質問する。
「なぁ、エカズホさんよ。事件が起こってからいま、何分経ってる」
「一時間以上は経ってます。家との距離がまぁそこそこ遠くて...ここには急いできたんですけど、時間あいてしまいました」
螓亥は瑤原に向き直り、口角を上げる。
「何故、泥棒を捕まえたウチの兵士は、いつまで経ってもここにやってこない?」
「まさか...!」
「客人、泥棒、自称白兵。全員グルだったんだろうな」
【第8話:最強の兵士】
「なんだろうあの人だかりは」
大きな集団の輪が見えた。
子供たちは地面にしゃがみ込み、大人たちはその外側に囲い立っては歓声をあげている。
その輪の中心には上半身裸になった一人の兵士がいた。
「あれって確か、赤兵の英詞さんじゃない?」
華沽が密接に立ち塞ぐ大人たちのその隙間を凝視する。
英詞...。風の噂で聞いたことがある。
百人以上の敵兵に囲まれた時には、たった一人にして全員を一網打尽に打ちのめし、邪馬台国最強の戦闘兵。そんな男が、こんな祭りで一体何をしているんだろうか。
「参加費10貨泉!子供なら1貨泉!50秒の間、俺に一回でも指さえ触れることができたら100貨泉やるぞ!さぁ!次の挑戦者は誰だ!」
焼けた浅黒い肌。異常に発達した筋肉。
広い二重瞼の大きな瞳。
彼が、邪馬台国最強の男...。
そんな人間が、まさかこんな所でチンケな金稼ぎをしているとは...。
「あ、李理央、こんなところにいたの」
「おねえちゃん!」
はぐれていた華沽の弟がにこやかに振り返る。
「次は俺だ!!」
屈強な体格の男が姿を現す。男は自信満々そうな顔つきで、地面に引かれた巨大な円線の中に足を踏みいれた。
「あれは、趙孳さんだ!」
「すげえ」
観客の何人かが目を輝かせる。
「ほらよ」
男は英詞に銭金を渡すと、英詞同様に上着を脱ぎ、鍛え抜かれた肉体が露わにした。
「お、これは苦戦しそうだな...」
英詞は受け取った金を円の外の箱に放り投げ、大きな砂時計を片手に持った。
「ルールは聞くかい?」
「いらねぇ。生意気なその面殴り潰してやるよ」
「てことは肉弾戦でいいね」
ガヤから声援が飛ぶ。
「やれー!やれー!」
「趙孳さんはこの街切っての殴り屋だぞ!!」
英詞は砂時計を逆さにして、地面置くと戦闘態勢にはいった。
「さぁ!こい!!」
__何だあの俊敏な動きは...。
僕は呆然としていた。
あの趙孳という男、確かにかなりの腕っ節だ。岩を砕くほどの強烈な高速パンチ。僕なら即一発KOされるだろう。しかし、彼はそれら全てを難なくかわす。
そして、巨漢の男の股間を潜り抜けるなどして、小馬鹿に翻弄する。
「舐めやがって!」
男の素早いの回し蹴りが英詞を襲う。
そして、彼は次の瞬間。
___飛んだ。
それを目の当たりに誰もが息を止めかけたであろう。男は口をぽかんと開け、英詞を見上げる。丁度彼が太陽と重なり影となり、視界が不安定になる所を、英詞は素足で男の顔面に突き刺した。男は地面に勢いをつけて倒れ、大歓声が起こる。
「なんだ、今の!!かるく二メートルはいったぞ!」「...あーりゃ、ばけもんだな」
英詞は気絶した男を見て頭を掻く。
「ちょっとやりすぎちまったな...参加者へるなこりゃ」
「ねぇおにいちゃん。次挑戦してきなよ」
華沽の弟が僕の手を軽く叩く。
「いやあ、流石に...厳しいかな」
「李理央。変なこと言わないの」
「だって、姉ちゃんも彼氏のかっこいいとこ見たいでしょ?」
「ちがっ、これは...」
「いいからいっちまえー!」
李理央は僕の服を鷲掴み、思いっきり円の中へとつき飛ばした。
「こら!ばか!」
「いてっ!」
再び場外から声が湧き上がる。
「おっ今度は白兵の若いにいちゃんが来たぜ」
「そんなヒョロヒョロな体で勝てんのかぁー?」
「やれー!やれー!」
おいおい...嘘だろ。僕の頭は真っ白になっていた。そこに土汚れた英詞がやってくる。
「次は君か!おっその服、白兵だね。...仕事帰りかな?」
「あっ、はい...いや、僕はその」
だめだ、勝てる気がしない。離れないと。
「ん?やらないの?」
外からブーイングが飛ぶ。
「なんだよ、戦わないのかの?」「逃げんのかこの腰抜けー」「タマついてんだろ」
何故か戦わなければいけないような雰囲気が出来上がる。最悪だ...。くそ、あのクソガキ!ゆるさない...。でもどうだろう。ここで引くのも格好つかないし、逃げるのは負けることよりも恥になるか。一応訓練でそれなりに鍛えているんだ、其れなりには戦えるはずだ。
「...いえ、やります」
「おし、じゃあルール説明しようか?」
「お願いします」
「時間は50秒、砂時計が完全に落ち切るまでに、僕を円の外に追いやるか、もしくは僕に指一本でも触れることができれば君の勝ちだよ。僕は全部かわすからね。もしかしたらさっきみたいに、蹴っちゃうかも知んないけど」
「...」
「挑戦者は拳で戦うか、木の棒で戦うか選べるよ、さぁどうする」
木の棒...?そっちの方が攻撃範囲が広いぶん勝率は高くなるか。さっきの男は拳で挑んであのザマだったし、それは避けるべきか。
「じゃあ、棒で...」
「了解!じゃあちょっと水分補給させて!」
__何をしているんだろう、僕は。
開始位置について右手で長い棒を握りしめる。小刻みに震えているのがわかる。
いや怯えるな、生平。
呼吸を整えろ。
照りつける日差し。砂くさい街の片隅。
温い風が皮膚に当たる。
まるで運動会の中に居るような気分だ。
「さ、始めようか」
英詞は円の中に入り、砂時計を逆さまにセットする。あれが地面に置かれた瞬間、戦闘が開始する。
3...2...1....。
0。
僕は全力疾走で英詞の元へと走った。
英詞は不動のまま立ち尽くす。
「おや、どうしたのかな」
「...」
僕は、英詞の一歩手前で立ち止まった。
ここまで近づいても動かないなんて、どうぞ、ギリギリでも余裕で避けれる自信があるのだろう。
僕は相手の胸辺りを狙うように棒を振りかぶる。さあ、右に行くか、左に行くか。上に飛ぶか...それとも、下か!!
僕は棒を英詞の足に目掛けて力強く振った。
野球かと思いきや、ゴルフ!
しかし、思うようにはいかず。なんと英詞はぼくの頭を飛び越えて円の中心へ向かっていったのであった。再び観客の喝采が轟く。
「ほーう、賭けたね。おもしろい」
僕は中心に英詞の間合いをゆっくりと詰める。
英詞は絶対に僕という敵から絶対に目を離さない。日頃戦場でも心掛けていることなのだろうか。並外れた身体能力、瞬発力。こりゃあガムシャラに力を振り絞って敵うような相手ではない。...頭を使わなければ。
__小さな戦場に砂埃が舞う。
「生平くん...」
両手を組み、静かに応援する華沽。意地悪な弟を隣に二人の闘いをじっとながめる。
「おい、あいつなにしてんだ」
「棒を真っ二つに割ったぞ!二刀流だ!」
口に一本を咥え、更には片方の棒をへし折った。そして、生平は二つの短い棒を両手に携える。
「いや違う、三刀流だ!」
そして始まる猛攻。右、左と素早い斬り込みをいれていく。しかしそれら全てをするりするりと軽快にかわす英詞。残り時間は半分を切っていた。
「おっと、あぶね!」
生平は持っていた短い二本の棒を英詞に投げ飛ばす。その不意打ちに体勢を崩し、円からはみ出そうになる英詞。そして、隙を逃すまいと生平は咥えていた一本を右手に持ち替え、とどめを刺しにいく。
「また足を狙ったぞ!」
瞬時に見極めた英詞は得意な高飛びをみせるが、生平はそこを突く。
「!」
飛び降りる先。生平自身の真後ろへ、攻撃をしかける。英詞は着地位置を変更できないこと、高く飛べても狭い範囲にしか飛び降りれないを見抜いたのだ。
しかし、そこで更なる身体能力を発揮する英詞は、体操選手かのように空中で体を曲げ、棒の届く範囲外の方へと綺麗に着地するのであった。
「惜しかったね」
残り十数秒。安定性を手に入れた英詞に生平はもう勝ち目はない。
「ん?」
生平は持っていた最後の棒を、突然空中へと高く投げ放った。客と英詞が空に浮く棒を眺める隙に生平は前屈みになる。ほして両手にでき限り多量の砂を掴み取った。
「あいつ、まさか砂をかける気では」「なんて卑怯な!」
英詞は警戒しながら、ゆっくりと白兵の青年からから遠ざかる。
「おいおい。砂が当たっても勝ちにはならないぞ?」
青年は英詞に呟く。
「あの棒、あなたの頭に落ちますよ」
まさか。出鱈目に投げたわけではないというのか。ハッタリかもしれない。が、経験上そのような腕を持つ人間に会ったことがない、わけではない。英詞は着地先の読めない空に舞う棒と、自身へ猛スピードで駆け寄ってくる砂を持った青年の両者に集中視する。
ギリギリで投げてくるつもりか。
もし仮に砂をかけられ視界の自由が奪われたとしても感覚で逃げることは出来るか。
そして、英詞は不思議なことに気がつく。
砂を投げる気配がない。
「なにっ!」
目の前の青年は背後から棒を取り出す。
全て投げ捨てたはずの棒。なぜ余っている。
__
【第9話:如何様師(後編)】
__女王祭で賑わう街。そこでやや広めのスペースを陣取っている“元”絵画店。先日まで作品を立て並べていたのであろう長いデスクの中心には、淋しげに《閉業しました》という文字が綴られた紙が貼ってある。
署で詐欺師の似顔絵チラシを目撃。
「俺昨日この街向かう途中、見たんだ」金持ちだったから、どんな家か空き巣してやろうと思ってついて行ったら、宿の街に宿泊していた。今ならまだ間に合うかもしれない。ここから一時間でいける。男が必死に訴える。ただ、懸賞金は山分けして欲しい。
「仲間を集めてくるよ」懸賞金を見て涎を垂らす。俺はついてるかもしれない。
「盗まれた絵画の情報と、客人の似顔絵」
男と共についていく。
宿を発見。中へ侵入、学校の班メンバー(留年した喬篋を除く)を外で待機させる。
中には既に攻略済みの兵士が絵画を片付けていた。似顔絵の人物ではない。
「ほら、あそこだよ」外に見える、指示された特徴の客人。先を越されたと落胆する。
念のため挨拶として、名刺を見せ合う。
自分の資格書をすり替えられる。
ギルドで入場時、発覚。受付嬢に訊ねる。
謹慎処分。華沽を揶揄う。
ニートになった翌日、街で呑気に串肉を食べ歩く絵描き息子の姿。まるで何事もなかったかのように幸せそうな顔をしていた。
........”何事もなかった”。????
前半の二人のシーンに推移。
辛亥さん、あの絵描き息子のように他の絵描きが同様の手口にあってないか調査していたんですが、絵描きの名前を口に出しても有名なはずなのに誰として知見していなかったのです。それに、あの展示されている絵を見ていた、周囲の人々はその絵を「下手くそだ」と笑っており、誰も買おうとしていなかったらしいんです。
「なんだそりゃ、無名だったのか?」
「それに、やはりお金が石ころに変わったことに気づけないっておかしくありませんか?」
「敷き詰められて音が鳴らないようにしてあったにしても、やっぱりあの石と、実際の貨泉の重量を比べてみたんですが、遥かに天秤が合いません。普通気づくはずなんですよ」
「それだけではありません。
「あのな、事件はもう解決したんだよ。...これ以上何がいいたい」
僕は、馬鹿なりに自分が導き出した最も説の濃い説を唱えた。かなりの自信があった。
「もしかしたら、なんですけど」
「あの商人もグルだったのではないですか?」
こないだ5人で温泉旅行行ったんだけど、夜温泉入った後から友達のテンションめっちゃ低くなってみんな???ってなってたんだけどそのまま2泊3日して帰りの車でそいつが言ったのが、「俺、温泉で硫黄の香りしなかったんだよ。
夜ご飯の味も