シリーズ『死神のお仕事』〜恋のライバル編〜
死神の仕事は、決められた担当の人間の一生を見守り、いつ命を終わらせかである。
生まれ落ちたその日から、彼らの人生にぴったり寄り添い、終わらせ時を考える。
彼は生まれたときから、たまのような赤ちゃん、という表現がぴったりの子だった。看護師や、女医さん、同じ病棟の妊婦、出産を無事終えたお母さんたちが、こぞって見にやってきた。誰もがその子の美しさに見惚れた。この子は将来アイドルにでもなれそうね、と口々に褒めそやす。彼の母は得意満面だった。
死神である私の目も彼に奪われていた。これからの成長を見守ることができるのが楽しみだった。
彼は幼稚園の時点でもう、女性をとりこにする天性の才があったようだ。その秘訣は彼が女性にあまり興味を示さなかった事にもあるのかもしれない。幼稚園当時、同じ歳の女の子たちと彼が話すことはめったになかったし、幼稚園の先生たちからの少し行き過ぎた、特別扱いも彼の心を動かした様子はなかった。
小学校へ入学してもその傾向は変わらず、基本的に男子にまじって行動していた。たまに、男女混合グループを組む時など女子たちは大騒ぎだった。
中学校でも、彼のあり方は変わらなかった。死神として彼を見守っていた私は、この子は不思議な子だな? と首をかしげるのだった。中学くらいになれば、異性への恋心の一つも生まれるものではなかろうか?
もしかして、同性が好きとか? といって私の目にはそういう様子もみえなかった。
彼は高校へ入った。その日、彼の心に稲妻が走ったのを私は見てしまった。
入学式の日。クラスわけにしたがって新しいクラスの扉をくぐった彼は、その子を見るなり唖然とした顔でしばし時がとまったように立ち尽くした。
彼女もその視線を感じて彼の方へ目をやると、驚いた顔をした。
二人はしばらくの間、見つめ合っていた。最初にその硬直から解けたのは彼女の方だった。彼女は目線を前へと向き直すと、いまだに見つめ続ける彼の視線を見ないふりでごまかした。
私は人ってこんなに変わるものか、と思うほど彼は彼女に夢中になっていった。なにかと用事をみつけては、彼女へと話しかけた。彼女が図書委員に立候補すると、彼もそうした。
そんな彼のアプローチに彼女も悪い気はしないようだった。
ある日、図書委員の仕事が終わった図書室。彼が言う。
「はじめて見た時から好きでした。付き合ってください」
「ええ。よろこんで」
そして、次の日曜日にデートの約束をして、彼らは図書室から校門まで一緒に歩き、幸せのうちに手を振り、それぞれの家路についた。
その夜眠りについた彼へ、そっと近づくと私は彼の命を奪った。
彼は私のものだ。ずっと見守ってきた。誰にも渡さない。だから、彼の命を奪うことにしたのだ。誰かのものになるくらいなら・・・。
彼の魂は天の国へと帰っていく。
ふふふ。これでいいんだ。これで。