第4話 異世界人
「異世界人について、知っている限り教えて」
隊長のクマランさんとその部下のフィアーナさんに、異世界人について聞く。どうやらこの世界には、数年に一度のペースで異世界人が来ていたらしい。数年に一度って、わりと多いね。
「異世界人の扱いってどんな感じ?」
「その異世界人によるとしか言えません。中には発明で巨額の富を得た者もいますし、利用されるだけ利用され、朽ちて行った異世界人もおります」
「ふーん?力を持った異世界人とかいなかったの?」
「勇者として召喚される異世界人は勇者としての力を持っていますので、勇者であれば一騎当千の力を持っています」
異世界人は、話を聞く限りだと3パターンある。まずは勇者として召喚される異世界人。これはどこかの小説とかでよく見るやつだね。もう1パターンは気付いたら異世界に来ているようで、自分の意思に関係なく来る異世界人。
最後のパターンはクマランさんが喋らなかったから私以外にいるか怪しいけど、自分の意思で異世界に来た異世界人だ。あの黒魔術の本が地球に残っていたことから、最低一人はいるはずだけど……著者はすぐに地球へ戻ったとか?これは著者の名前を、憶えておくべきだったかな。
聞きたい情報は大体聞けたので、クマランさんとフィアーナさんとはバイバイする。私が平常心を保つ黒魔術を使用したから平静を保っているけど、魔術の効果が切れたら発狂してそう。それにしても、勇者か……。
ちょっとこの国の王都まで行って、私勇者ですって言ってみようかな。勇者は凄い魔法を使える。私も凄い魔法を使える。よって勇者=私。うん、通じそう。力を見せてって言われたら、遠慮なく闇火焔砲や滅炎灼砲を撃ち込もう。
キルラルドとダブちゃんは送還して、亜空間から座布団を取り出す。レッサーインプ数匹にその座布団を持ってもらって、クマランさんから押してて貰った王都の方へ飛行を開始。あまり日本では空を飛んで無かったけど、座布団での空の旅は快適だし居心地が良い。
……いや本当、何で日本で事件とか起きてくれなかったんだろ。悪の魔法使いぐらい出てきてくれてもよかったじゃん。あと勇者として召喚されるとかさ、私の役目のように聞こえるんだけど。
パタパタと飛んでいるレッサーインプに頑張れーと言ってると、城郭が見えて来たので飛行を中止。レッサーインプもお片付けして、大きなバックを背負って門へ近づく。うーん、通行料とか求められたらどうしよう。
「身分証明書の提示をお願いします」
「異世界人なので持ってないです」
「持ってない?え?異世界人?」
「あいあむ異世界人。どぅゆーあんだすたん?」
「……少し待っていて下さい」
見張りの兵士さんに近づくと、身分証明書の提示を求められる。学生証ってここでも使えるのかな?一応財布が亜空間にあるけど、使える気がしないし見せなくても良いかな?
しばらくすると見張りの兵士さんと、偉そうな人が出てきて異世界人である証明をしろと言われた。この世界にはない……スマホで良いかな?スマホを見せると「アイフォン6か?」と聞いてきたので「11」と答える。どうやら前の異世界人は、iPhone6を持って来ていたらしい。
……いやおかしいでしょ。前の異世界人って十数年前だから、ガラケーの時代じゃないの?時間の流れが歪んでたりするの?十数年前を12年前とかにすると、初代iPhoneぐらいは持ってるのかな?
ここで考えられる可能性は大きく分けて3つ。この世界と元の世界で時空の歪みが発生しているか、裏で処分された異世界人が大量にいるか、あの隊長が単に知らなかっただけか。
とりあえず異世界人の証明は出来たっぽいので、入国許可証を渡される。異世界人は保護対象なんだって。昔の異世界人が力もないのに知識をひけらかして酷い目にあったそうで、その異世界人が偉くなった時にそういう法律が出来たらしい。いきなり奴隷スタートとかじゃなくてよかった。
「異世界人は冒険者ギルドに登録させるのが決まりだから、そこまで案内をしてやろう」
「……何その決まり。異世界人は冒険者ギルドで登録するのがお決まりだから出来たの?」
「単に冒険者として登録するのと、さっき貸した一時期金を借金として登録するからだな。国からの借金だから、国に返せよ」
偉そうな人に連れられて、私は冒険者ギルドに入る。さっき借りたお金は、銀貨10枚。これで10万円らしい。お金の単位が円なのは、そういうことだよね。異世界なのにお金の単位が円で、物の値段も日本と同じぐらいだから金銭感覚がそのままなのは素晴らしい。
……過去の異世界人も、兌換紙幣を発行する知能ぐらいはあったと思うけど、難しかったのかな。不換紙幣は、夢のまた夢だろうね。そしてこのような決まりがあるということは、この冒険者ギルドにいる人全員、私が銀貨10枚を保持していると把握している、ということ。一応、身構えておこうかな。